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 「はぁ、思っていた以上に片付けに手古摺りそうだ」

 みことのいなくなった居住空間でただひたすら体を動かし働いていた知哉ともやは思わず弱音を漏らしてしまう。

 何故ならやってもやっても片付いたようには見えず、本当に自分は働いているのだろうかと自身で疑いたくなる始末。それほどにみことの散らかしっぷりは見事過ぎるのだ。

 どこよりも真っ先に片付けを始めたのは台所。

 これから毎日の生活で知哉ともやが家事一切を行うならば当然の事ながら使い勝手は良くしておきたい、そう思って始めたのだがそれが間違いだったのかもしれないと知哉ともやは当たりを見回す。

 洗濯機が置いてある脱衣所はみことの部屋から出された洗濯物が山積みになっているだけ。

 その他の空間にしてもみことの性格上、どうやら飾り立てたりするのは嫌いなようで、あるのは必要最低限道具や小物ばかり。

 片付ける荷物は無いに等しく、やらなければならないのは大量に積み重ねられた洗濯物であり、それは数日かけて減らしていけばいい話。

 だが、台所と居間のスペースはそうは行かなかった。

 初めはこれくらいならと思っていたが片付け始めて数分で厄介なことになったと気持ちが暗くなる。

 台所の入り口に立ち、見回した時は荷物が多く見えるけれど箱が積み上げられているだけで大したことはないと思っていた。

 キッチンの流しやコンロ周りには荷物は少ないし、冷蔵庫の前も少々あるぐらいで料理に支障が無い様には一応してある。

 あとは、自分の使いやすいように、そして衛生的にとにかく汚く見えない様に片付けようと始めた。

 しかしその考えは甘く、ほかの部分に積み上げられたダンボール箱の内、数十個動かして見えてきた、先ほどまでは見えていなかった部分の汚さが予想をはるかに超えていた。

 まず、厄介なのはパズルでもするように上手く積み重ねられたダンボール箱の壁。

 壁一面に積み上げられているそれは数もさることながら、上手くどけていかねばバランスを崩して全て倒れてきそうな勢い。

 一体どれだけ積み重なっているのか、またどれだけ動かせば部屋本来の壁にたどり着くのか。知哉ともやはあまりに見事な積み上げっぷりに感心しつつも、どうしたものかとあっけにとられていた。

「一体何が入っているんだろう?」

 箱には何が入っているのかというメモ書きのようなものすら無く、中身は開けて見なければ一体何が入っているのか皆目わからない。

 当然、中身がわからないのだから片付けるにしてもどうすればいいのかがわからない。

「こんなにぴっちり綺麗に箱を積み上げる几帳面さがあるならメモ書きぐらいすればいいのに」

 文句を言いながらも、とにかく掃除の前に出来るだけダンボール箱の壁を崩してこの部屋を本来の広さにしなければと、積み上げられている箱の中身を確認する為手近な箱に手を伸ばした。

 瞬間、部屋の電話が鳴り響く。

 出ていいものなのか迷いながらも恐る恐る受話器を取ればみことの声がした。

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