第247話 頼んでも、もう遅い(2)
「なぁ、ソルト頼むって〜」
「いやだって」
「でも、気になるだろ? それに……」
タケルはニヤリと笑う。やめろ、その技は俺に効く!
「ツクヨミ騒動の時協力したじゃんか〜!」
俺は頭をかかえる。
確かに、ダンジョンマスターになったツクヨミを討伐するためには彼の力が必須だった。正直、あの件で俺はタケルとの因縁を水に流したと言ってしまっていたのだ。
「そうりゃそうだけど、俺は冒険者じゃないんだよ」
タケルは「そうだよなぁ」とうなだれる。
「正直、俺だってレオガルド・ロゼは見てぇけどさ。もう引退しちゃったし。男に二言はないって言うだろ?」
タケルは「俺が謝って責任とればなんとかなるかも?」と面倒な事を言い出し、シューがプッと吹き出した。
「とりあえずよ、俺抜きで鑑定士つけて行ってこいよ。俺は立場上難しいし、それにお前に協力する義理もないし」
俺は冷たく突き放すように言った。こいつと俺がパーティーを組んでいた時、こいつは俺に数々の嫌がらせや差別をしてきた。極東の一件くらいで覆せるようなもんじゃねぇ。俺は今でもこいつが好きにはなれねぇし。
タケルは
「そうだよな……俺、ずっとお前がいてくれるありがたみに気付かずに邪険にしてバカにしてさ、そんで仲間を失って……こんな簡単に許されるわけないよな」
お前っていう鑑定士を引退させたのも俺だし、わかったよ。なんて肩をすくめてタケルは牧場を出て行った。
奴らしくないな、と俺は思ったが追いかける事なくそのままタケルを見送った。
「それでいいにゃ。さっ、ソルトさっさと昼ごはんをつくるにゃ。鮭のクリーム煮がいいにゃ」
「あいよ」
***
冒険者を俺は引退した。
あの時、パーティーにもギルドにも絶望した俺は自分さえ生きていければいいと思って全財産を投げ打って土地を買い、農場を始めた。
冒険者をやめれば差別されることもなくなり、一般人を相手にすれば少し尊敬されるくらいで……シューと2人で暮らしていければいいと思ってた。
でも、仲間が増えた。
トラブルに巻き込まれて解決していくうちに俺はギルドの上層部に入ることになって、なんなら鑑定士の価値が上がった。鑑定士が働きやすい環境ができ始めている。
鑑定士たちが笑顔でダンジョンから戻ってくるのを見るたび、俺はなぜかモヤモヤしていた。
——羨ましい
「冒険者……かぁ」
世界最大のギルドがあるエンドランドでは冒険者になることは全ての子供達の憧れだ。
俺は、迷宮捜索人の両親を持ち小さい頃からダンジョンに触れてきたから尚更だ。かっこいい母親の事を楽しそうに話す親父を今でもよく覚えている。
まぁ、俺の天職は鑑定士で、戦士にはなれっこなかったんだがな。
「鮭のくりーむ煮だ」
シューとユキが嬉しそうにがっつく。ユキはウツタに似て暖かい食べ物が好きらしい。ちょっと大きくなったか? いや、髪が伸びただけか。
「ソルト、何ぼーっとしてるにゃ?」
「ん? なんでもねぇ」
シューは鋭い眼光で俺を睨む。
あぁ……こいつにはバレてんな。
「今日は書類仕事が死ぬほどあるからな。シューはどうする?」
「書類だけにゃら1人でいくにゃ。シューは犬っころと日向ぼっこの約束にゃ」
そうかよ。と返事をして俺はギルドへ行く準備をする。
タケルはきっと即席パーティーでも組んで行くんだろう。まぁタケルの強さは極東のアマテラスや精霊使いのプリテラ、リュウカの奴らと肩を並べるくらい強いから大丈夫だろう。
人型でもない獣のモンスターくらい力技でぶっ飛ばせるだろう。
それに、親父が教育した鑑定士たちは優秀だ。俺じゃなくてもS級ダンジョンくらいは攻略できる。
俺はユキに後片付けを任せてギルドへと向かった。
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