第233話 女子会パーティー(2)


「ソルトォ? さっさとおかわりもってきなさいよぉ」


 ミーナの悪酔いには慣れたもんだ。俺は酒なんて入っていないカクテル風の飲み物を彼女に手渡した。

 ミーナに絡まれて苦笑いしているのはララだった。彼女はお嬢様育ちらしく気品のある飲み方をするらしい。一方でエスターの方は悪酔いも甚だしい。姉妹とはいえ、育つ環境が違うとここまで変わる……いや人の問題か。


「エスターその辺に……」


「うるさいっ」


「ふんっ、騎士の家系の恥さらしめっ」


「なんだと……貴様」


 ぐぎぎぎぎと音が漏れそうなくらいララとエスターが睨みあう。でも、殺意がこもっていないことが俺にはわかった。

 エスターは父親を殺した冷酷非道な女だと思われているが実は違う。エスターが殺したのは実の父親ではないのだ。そう、ララとエスターは腹違いの姉妹。ララの父親であるデュボワ氏が本当の父親なのだ。

 そう、エスターは自分の母親を追い詰めた義理の父親を殺しただけ。まぁ、良くないことだろうが彼女が冷酷非道ではなく血の繋がりを大事にする人間だということだ。

 だから、俺は彼女が絶対にララに手を出さないと思ったのだ。


 エスメラルダを処刑した時のエスターは泣いていた。

 彼女が思った以上に思慮深い人間だと俺は思う。


「ララお姉様でしょう」


「なぜお前が姉なんだ。私の方が誕生日が1日早い」


「立場が上な方がお姉様に決まっているわ」


「いいや、頭の出来いい私が姉に決まっているだろう」


 ドンとエスターが酒瓶をおく。ララが剣の柄に手を滑らせる。


「力勝負で決めようじゃないの。かかってきなさい」


「ふっ……お優しい回復戦士がS級ドラゴンを斬り倒した私に勝てるとでも?」


——むきーっ!


 ばちばちと火花が散る二人の間に割り込んだのは小さな影だった。


「エスターさんっ、みてみてっまあるい氷はいかが?」


 綺麗な球体のロックアイスを自慢げに見せるユキだった。きょとんとしたエスターはロックアイスを受け取ると自身の持つグラスへころんと転がした。なめらかな氷はグラスにピッタリで、とても美しかった。


「雪魔女か」


「えへへ、エスターさんっ」


 ぎゅっと抱きしめられたエスターは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。それをみたララはなんとも言えない悔しそうな表情で頰を膨らませると自分の席へと戻っていった。

 

——もしかして……こいつエスターに甘えたいのかよ


「ソルトさーん、このタルトは食べても?」


 ゾーイ特製の七種のイチゴタルト。中にはたっぷりのミルククリーム。

 女子会だからって手伝わないわけにはいかないわ。とこっそり手伝ってくれる男前な彼女に感謝だ。

 今はヒメたち極東テーブルで酔いつぶれているが……


「ふふふ、ソルトさんっ。お代わりをっ」


 狐耳をへたらせて酔っ払っているヒメとソラ、へっちゃらなのはワカちゃんだ。酒豪……ヒミコと対等に飲み会っている。いつも通りおしとやかに笑ってはいるが……そんなに体に入るのか?ってくらいの酒のボトルが転がっている。


「へいへい」


「あっ、ソルトさんちょっとこちらへ」


 ワカちゃんが厨房へと入ってくる。

 そして……そっと俺の頰に唇を押し当てる。


「ありがとう、みんな楽しそうで……日々の苦労が報われたようです」


「えっと……あぁ……のはい」


 俺は年甲斐もなく顔が真っ赤になっていると思う。超スピードで冷蔵庫からイチゴタルトを出して、テーブルへと運んだ。

 宴もたけなわ。

 と極東では言うらしい。


 ワカちゃんの美しい歌声が響く。すでに酔いつぶれている奴らも、俺も、おっさんもみんな踊り出す。

 そんな楽しい宴の中で夜は更けていった。

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