第227話 大地の王者の成れの果て(2)
「ヒメ、回復魔法をあいつにぶち当てろ!」
シューは俺の言葉を聞いてすぐにヒメの援護に回る。フィオーネとクシナダは困惑しながら俺の指示通り武器に回復薬を塗りつけて攻撃をする。
「やっぱり!」
ベヒーモスの腐った表皮は回復魔法や回復薬をつけた剣が触れると溶け、その下にある真っ白な皮膚が姿を表す。
苦しそうに暴れるベヒーモスを俺たちはまるで洗うように攻撃していく。
「フィオーネ! クシナダ! 無理せず援護に回ってくれ!」
接近戦は最適解ではない。
ヒメの回復魔法と俺の弓で回復薬の雨を降らせながら奴の腐った部分を少しずつ取り除いていく。
何百と打った矢に擦れて指から血が滲み、次第に握力が弱くなっていく。俺たちに襲いかかるベヒーモスを陽動するフィオーネとクシナダも満身創痍だった。降りかかる腐肉と毒、シューの防護魔法でも限界がある。
「はぁっ……はぁっ……」
腕をまっすぐ伸ばすこともやっとのヒメが大きな魔法陣を描き出す。
——フウタ、ソラ……援軍はまだか
「クシナダ!」
フィオーネの悲痛な声が響いた。クシナダが受けた一撃は重く骨が砕ける嫌な音がして彼女は吹っ飛ばされる。
クシナダに駆け寄ろうとしたフィオーネをベヒーモスの長い鼻が直撃する。
「くっそ!」
俺は弓を放り出して二人の救出に向かう。シューが目隠しの魔法をかけるがベヒーモスの巨体が大暴れしているのでほとんど意味をなさない。
意識を失ったフィオーネを叩き起こし、俺はうずくまったクシナダを抱き上げた。
「ソルト! 逃げるにゃ!」
シューの叫び声が俺の耳に届く頃にはもうベヒーモスの牙が俺の目の前まで迫っていた。
まるでゆっくりと時が動いているようで、俺はクシナダを守るようにベヒーモスに背を向ける。両手がふさがっているせいで防御はできない。
——くっそ……最後まで格好悪いままかよ!
覚悟を決めてぐっと目を閉じようとした時だった。
真っ白い閃光が俺の目の前を過ぎ去って、その光の一撃でベヒーモスの腐肉のほとんどが剥がれ落ちた。
ベヒーモスが「ぎゃおん」と悲鳴に近い咆哮をあげると大きな巨体が倒れた。
「ソルト!」
「なんだ……あの光……」
「優秀な弟子に感謝するのね」
その声の主は黄金の甲冑を輝かせ大きな剣を一振りした。その剣から放たれた白い光はベヒーモスに直撃し、ベヒーモスの腐肉が一瞬にして浄化される。
「ヒメさま!」
ソラとフウタが俺たちの元へ駆け寄ると「もう大丈夫です」と笑顔を見せる。
「脳まで腐ったか……太古の聖獣よ」
ララ・デュボワは真っ白な姿になったベヒーモスに近寄ると目にも留まらぬ速さで斬撃を繰り出した。
まるで赤子の手をひねるくらい簡単に、腐った聖獣は死んだ。
あまりにも、強い。
俺はこの高飛車で高慢ちきな女を見くびっていたのかもしれない。
「戦士としては、不利なこれが……まさか役に立つなんて。あの鑑定士の子、大したものだわ」
ソラが何が何だかわかっていない俺にこっそりと教えてくれた。
「ララ様は回復魔術師の天職も持っているとリアさんが……それで私からベヒーモスの状況をリアさんに話したところララ様ならどうにかしてくださるかもと直談判してくださって……」
ララがぎろりと俺たちをにらんだ。
「回復戦士など……騎士の家系に恥ずべきものだと私は思っている。なぜ、あの鑑定士の子に見抜かれたかはわからないけれど……黙っていなさい」
リアは昇級試験のために試験官ララについて勉強しているうちにその答えにたどり着いたんだろう。
俺でもわからなかった……女の情報網おそるべし!
「は……はい」
「それから……フィオーネを守るために体を張ったあなたに感謝するわ。ありがとう」
「えっと……その」
「別に、鑑定士にじゃなくあなたに感謝してるだけのことよ。勘違いなさらないで」
この人はどっちなんだ……。
素直じゃないところも少しエスターに似ているな。
「にいちゃん? サングリエ姉ちゃん……大丈夫だってさ」
俺はフウタに抱えられるようにして起き上がるとサングリエが快方へ向かっていることに安堵した。
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