第51話 ダイト大騒乱
「やれ! 殺せ!」
「奴らを逃がすな!」
「国王の仇だ!」
国都ダイトの中央で、トモエたちはエン国の武官や傀儡兵に囲まれていた。もう、宮殿は崩れ去り、やや西に傾きかけた日の光が、トモエ一行に降り注いでいる。
自分たちの主である国王を殺されたことで、城内の者たちはいきり立っているようであった。武官の魔族たちが傀儡兵を取りまとめては、集まった先からぶつけてくる。城内に突入した時もさんざん相手をしたのによくもそこまで兵が湧いてくるものだと、トモエは敵ながら感心していた。
「流石に多いな……でも勝てなくはない!」
そう言いながら、リコウは盾と魔導鎧で敵の弩兵の矢を防ぎつつ、お返しとばかりに矢を放って傀儡兵の胸を射抜いた。この時、リコウはシフの回復魔術のお陰ですっかり快復していた。
「
エイセイの放った黒い球体が、敵の傀儡兵の頭上に落下し、爆発によってまとめて吹き飛ばしてしまった。こういった多数の兵との戦闘では、エイセイの魔術は非常に強力である。
「また相変わらずの木人形ね……でもお姉さん、あんまりキミたちとは遊びたくないかな!」
トモエは一目散に敵に向かって駆け出し、飛び蹴りで傀儡兵一体を破壊した。そして、落とした槍を掴むと、それを振るって敵兵を次々と刺し貫いた。トモエは徒手空拳のみならず、棒術の訓練も施されており、
包囲陣は、瞬く間に穴を開けられ崩れていった。元々ガクキ軍に多くの兵を与えたこともあって、もう城内に戦える傀儡兵はそう多く残ってはいなかったようである。
敵の体勢が整わない内に、逃げるが吉だ。トモエたちは西側の城門を急いで潜り抜け、城壁の外へ出た。
一行は石で舗装された街道を走り抜けた。敵はすぐには追ってこなかった。半端な数では返り討ちに遭うだけだというのを、敵も学習したのだろう。
トモエたちは夜を徹して逃げた。逃げるといっても、滅茶苦茶に走り回っているだけである。ダイトから遠ざかるのは急務だとしても、その後どうすれば良いのか、一行は決めかねていた。
「シフは一旦ワタシたちの森に戻った方がいいって思うなぁ」
街道から外れた林で野営している時のことであった。火を囲みながら、シフが一言、言い放った。
一旦本拠地へ戻って体勢を立て直し、敵が混乱している間に防備を整える。彼女が主張したのはそのことであった。
「オレも村に帰らなきゃ……皆急に消えて心配してるだろうし」
リコウはトモエとともに強引にエルフの森に連れ去られた立場である。もうリコウはそのことでヒョウヨウやエルフたちを恨んではいなかったが、ヤタハン砦の者たちからすれば突然の失踪である。きっと騒ぎになっているに違いない。少なくとも、生存報告だけはしたい。そう思っていた。
勿論、帰るといっても決して簡単なものではない。エン国の領土内を通り抜けなければならないことに変わりはないのだから。それに、北や西へ戻るルートなどは、すでに警戒されていることだろう。少なくとも、主要な街道はほぼ押さえられていると考えた方がよい。「行きはよいよい帰りは怖い」とはまさにこのことである。
「うーん……あたしも村の人たちに心配されてそうだし、リコウくんの意見に賛成かな。でもそうなると、エイセイくんシフちゃんと目的地が違うんだよね……」
そうだ。エルフの二人は西にある森へ帰ろうとしているのに対して、トモエとリコウは北にあるヤタハン砦に帰ろうとしている。帰るといっても、目的地が異なっているのだ。
「流石に今ここでオレたちが二人ずつ別れちゃまずいと思う。まだエン国の領内だし、軍が警戒してるだろう。四人一緒でいた方が戦力的には心強い」
帰り道が違うからといって、戦力を分散してしまうのは危険である。リコウはそのようなことを危惧した。
「それじゃあまずはリコウたちのいた砦に戻ろう。元々キミたちを強引に連れてきてしまったのはボクの兄さんだ。そのくらいは譲歩しよう。いいよね、シフ」
「うん、付き合わせちゃったのはシフたちの方だから……善意に甘えっぱなしでごめんね」
「ううん、いいの。あたしも役に立ててよかった」
トモエはシフに向かって笑いかけた。
「オレも最初は怒ったりしたけどさ、今は一緒に戦えてよかった、って思ってる。シフとエイセイと一緒じゃなきゃ、敵の国王を倒すなんてできなかったから」
思えばリコウはこれまで、エン国内に踏み入ってその国王を倒すなんて考えもつかなかった。そのような偉業を成し遂げたのは、四人でともに戦ったからだ。
「……ボクも、リコウと一緒に戦えてよかった」
言いながら、エイセイはリコウの方へ熱っぽい視線を送ってくる。しかし、いざリコウと目が遭うと、このエルフの少年は照れ臭そうに顔を赤らめ視線を逸らしてしまった。
「なんだ~? 二人とも仲が怪しいぞ~? あたしのエイセイくんを取っちゃうとはリコウも隅に置けない奴だなぁ~」
トモエのふざけたような声が、横から聞こえてきた。
「なっ、トモエさん? それってどういう……?」
「……全く。大体、ボクはお前なんかのものになった覚えはない」
「そういうつれないこと言わないでよエイセイくん~」
トモエの急な横槍に、リコウは声をうわずらせ、エイセイは呆れ顔をしたのであった。
四人の目的は、固まった。トモエたち一行の旅は、まだ終わらない。
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