番外編

番外編ーー繰り返され、消えた日常

 朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる。寝起きには少し眩しいと思いつつ、リビングへ向かう。


「おはよう、おにい


 妹の神崎かんざき響花きょうか。中学2年生だ。


「あら今日は早いわね。しょう、ご飯出来てるわよ」


 母の神崎蓮葉れんは。36歳、とても若い。


「お父さんは?」


「仕事でいろいろあって寝てるから、起こさないでね」


 いろいろか。気になるな。


「トイレ行ってくるから、先食べてて」


 母達に宣言しトイレへ向かう。


 用を足し流そうとしたら、"秘密のボタン"と書いてるボタンを見つけた。押そうか迷ってたが、好奇心を掻き立てられ気づけば押していた。


 すると突然壁に通路が現れた。


「期待に胸を膨らませるとはこの事だな」


 とても興奮しながらも通路を進む。そして見つけたひとつの部屋。そこに一冊の本が古びた机の上に堂々と置かれていた。


 その本を手に取り読み上げると、こんなことが書かれていた。


 この本にある魔法を記す。その魔法は過去に世界を救い、世界中の人を楽しませてきた。時に不治の病を治し、時には悪を成敗したり。この魔法はどの時代でも世界を救ってきた。そんな魔法を君に託そう。その魔法の名はーー


「"書く魔法ライティングマジック"」


 しばらくして俺は学校へ向かう。


 今日は入学式。


「皆さん、おはようございます。それでは皆さん体育館へ移動してください」


 緊張してきた。知り合いが一人もいない。


 その後体育館に行き、入学式がはじまった。


 ヤバい、スマホがポケットに入ってる。鳴ったらせっかくの楽しい高校生活が台無しだ。


 そうだ、今日の朝手にいれた力を使うか。


「ふう」


 深呼吸をし呼吸を整える。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.7 静寂空間サイレントエリア


 空中に静寂空間と指を走らせる。


 その瞬間周りの音が聴こえなくなった。隣の席の奴が混乱してる。それもそのはず半径4mのエリアは音が消える。


 混乱してない奴は、寝てるのだろう。


 多くの時が流れ、入学式が終わった。


 そして家へ帰る。


 日は落ち、新しい朝が来る。


「おはよう」


「おはよう、お母さん」


 僕は元気よく返事する。


 朝食を食べた後すぐ部屋へ戻り、魔法の練習をする。


 深く深呼吸をし空中に指を走らせる。


書く魔法ライティングマジック、魔法No.9 操作空間コントロールエリア


 そしてペンに意識を向け、ペンを上に上げようとする。思いが届いたのかペンが上に行く。


 この魔法は集中力が非常に重要だ。だから難しい。そしてペンは机に戻る。


 時間もないので学校に行く。


 教室に着くとすぐに先生と思われる人がきて、自己紹介がはじまった。


「星空中学から来ました。木原咲良さらです。よろしく」


 堂々としている姿をみていると、いつの間にか尊敬していた。


「月から来た、白原しらはら万助まんすけです。よろしく」


「面白くないのによく言えるな」


 心の底からそう思った。


 そろそろ俺の番だ。


「緊張してきた」


 魔法で緊張を解けるなら、便利だろう。


 そんなことを考えてるうちに、自分の番が来た。


 緊張をかくしつつ前に出て、途切れ途切れの言葉を紡ぐ。


「文京中学から…来ました。……神崎…翔です。…よろしく」


 緊張した。リアクションは普通か、だろうな。まあでもそれが一番かな。


 ゆっくりと席に戻る。


「万助だよ。よろしく」


 戸惑いつつも


「よろしく」


 とりあえず応えた。


 さっきからずっと視線を感じる。気になりつつも平生を装う。


 程なくしてクラス全員の自己紹介がおわる。すると一人の女の子が話しかけてきた。


 木原さんだ。


 何を聞かれるのかドキドキしていた。


「ねえ、翔くん」


 ゆっくりと固唾を飲む。


「もしかして翔くんって」


 ドクンドクン


 心臓が早鐘を打つ。時折聴こえてるのではないか、と心配してしまうほどだ。


「翔くんって…………魔法使い?」


「えっ?」


 突如クラスメートの木原さんに「魔法使いでしょ?」と聞かれた。


 僕は応えられず、固まっていた。


「とりあえず屋上来て」


 僕は木原さんに言われるがまま屋上に行く。


「これは告白なのか」


 と思いつつ動揺を隠す。


 すると木原さんがポケットから紙を取り出す。


詠む魔法リーディングマジック 魔法No.21 水玉ウォーターボール


 木原さんの手に水玉が浮いてる!?ここでやっと察した。なぜ僕が魔法使いか分かった理由。


 だが驚きを隠すことは出来ない。


「僕以外にも魔法使いが!?」


「驚いたか」


 木原さんは自慢げに語る。


 これで驚かない訳がない。僕と同じ…いや、正確には違う。僕は書く。だが彼女は詠む。


「君は書く。だが私は詠む。」


 つまり僕は弱いか。


 木原さんは自慢げにもう一度魔法を使う。


詠む魔法リーディングマジック 魔法No.22 水具現化ウォータークリエイト


 水が形を変え、剣の形になる。


「これが……詠む魔法リーディングマジック


「私の魔法について教えてあげる。」


 相変わらず木原さんは自慢げに語る。


「私の魔法の名前は"詠む魔法リーティングマジック"」


 俺の書く魔法ライティングマジックの詠む版か。


「だが私の魔法にはデメリットがある。それは、文字を詠むこと。」


「じゃあ俺が空中に書いた文字を詠めば、俺の魔法を使えるのか?」


 そうだとすれば、俺は絶対に勝てない。


「どんな魔法かによるよ。使ってみて」


 手は震えながらもペンを出し、魔法を使う。


書く魔法ライティングマジック魔法No.1 見物二倍トゥワイス


 空中に見物二倍と刻む。するとペンが二つに増える。


 木原さんが感心したように見る。


「一応言っとくが、魔法の書に書いてる魔法しか使えないんだよ」


 なんだお前。


「ねえ、あんさんら」


 俺達はゾッとした。僕らの魔法を…見られた!?木原さんも少し驚いたみたいだった。


 声の主が口を開く。


「うちもいれてさかい」


 !!!


 いきなり話しかけられ驚いた。それに魔法を見られてしまった。


「仲間に入れて欲しいのか」


 木原さんが焦りを隠すように、口を開く。それに呼応するように僕も口を開く。


「そうだそうだ」


 雑魚キャラみたいなことをいってしまった。それに意味が分からん。恥ずかしさを噛み締めながらも、声の主をみる。


「よろしゅうございやす」


 おしとやかな喋り声。赤の美しい髪色。それに美しい顔。不覚にも惚れてしまった。


「お久しぶりやな。神崎はん」


 お久しぶり?見に覚えがない。


「うちは、かえで 桔梗ききょうと申します。よろしやす」


 楓……桔梗………?


「知り合いか?」


 木原さんが聞いてくる。


「いや…知らない」


 僕は正直に答える。


 桔梗は少し悲しい顔をし、顔をそむける。


 だがすぐに思い直したのか目線をあわせ、再び問うてくる。


「覚えてないのなら、思い出させてやろう」


 僕は咄嗟に身構え、魔法を発動させる。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.3 葉操盾バリアリーフ


 空中に葉操盾と指を走らせる。すると葉が動き僕らの周囲を囲む。


「安心しろ。僕が守る」


 こいつは魔法使いか?そんな疑問は次の一手で分かるだろう。


 桔梗は少し微笑み、腕を僕に向けてくる。


愛する魔法ラビリンスマジック 魔法No.41 愛する者の記憶ラブラーメモリー


 多少、息を飲む。


「な……なにも………おきな……い?」


 すると桔梗は笑う。


「私たちの愛は、迷宮のように深かったはろ」


 直後頭を謎の感覚が襲う。痛くはない?戸惑いつつも冷静に状況を判断する。


 脳に記憶が…流れてる?


「思い出したやろ。神崎はん」



 ………これが桔梗との記憶。


 楓との記憶が流れてくる。


 記憶の中の楓は、いつも笑っている。


「んっ?」


 楓との記憶の中に、魔法が見える!使っているのは……大人?


 僕は不審に思った。


「俺たち以外にも、魔法使いっているのか?」


 戸惑いつつも楓に聞いてみる。


「いるとは思うんけど…………」


 まあこいつは敵ではないのだろう。


 その後みんなで話し合った。そして俺たちは仲間となった。


 教室に帰ろうと皆立ち上がる。


 その時、校内放送が鳴り響く。


「これより天隠あまがくれ高校全校生徒による鬼ごっこを開始します。」


「「「鬼ごっこ?」」」


「鬼ごっこのルールとしては、校内なら何をしてもオッケーなんだよ」


 なら魔法を使えば……


「ちなみに鬼は教師全員だからね。あと捕まったら、E組にいってもらうからね」


 E組に?


「ちなみに階級はA組が一番上。E組が一番下。分かったのかなあ」


 この放送、女のか。と思うくらいしゃべり方が子供だ。


「さあもうゲームは始まってるからね」


 屋上に繋がるドアが開く。


「誰だ?」


 緊張で顔がこわばる。


「教師かいな」


 桔梗は余裕そうだな。


「俺は体育教師の雲仙うんぜんだ」


 体育教師か!きついかもな。……顔が、


 すると体育教師が襲ってくる。速いっ!


 僕は咄嗟に魔法を使う。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.5 物体浮遊レビテーション


 教師が浮く。その瞬間に魔法を解除する。その一連の行動により教師が転ぶ。


「今だ、逃げるぞ」


 僕たちは一斉に走り出す。


「気安く魔法を使わんといてやす」


 桔梗が少し怒り気味に言う


 だろうな。魔法を使えると知られれば、どんな目に遭うか分かったもんじゃない。


「分かったよ。」


「きゃー」


 誰かの悲鳴だ。きっと捕まったんだろう。


 つまり……


「近くにいるぞ」


 僕は咄嗟に叫ぶ。


 この時何かが頭をよぎる。何かいい魔法が会った気がする。


「だめだ。思い出せない」


 僕は焦りの表情を浮かべる。


「どうしたの?」


 木原さんが心配そうに聞いてくる。


「魔法の書に、今役に立つ魔法があった気がするんだ」


「わたしに任せなはれ」


 桔梗が口を開く。


「でもまず隠れないとちゃうん?」


 確かに。人前で魔法を使うわけにはいかない。


 考える。


「おいお前ら。こっちだ」


 忍者……服…?


 なんだこいつ。制服じゃなくて忍者服?忍者か?


 とりあえず忍者の方へ行く。


 突然後ろから忍者が現れ、桔梗と木原さんを拘束する。


「さあ始めよう。命を賭けた、を」


 ゲーム?



 忍者らに桔梗と木原さんを拘束された俺は、怒りに怒っていた。


「お前 どういうつもりだ」


「分からないのか。君たち魔法使いをさらいに来たんだよ」


 さらう?この忍者野郎の言ってること。………まさか


「お前らの雇い主がいるのか」


 奴は少し微笑んだ。当たりなのだろう。


「こいつら返してほしいだろ。」


 俺は奴を睨みながらうなずく。


 下っ端忍者らは、ボスであろう忍者の後ろに移動する。


「ならゲームをしようよ。死のゲームを」


 死の……ゲーム?


「ルールは簡単。コインの裏表を当てるだけ」


 簡単だな。


「でも正解出来なければ、こいつらは我々の雇い主に売り渡す。」


 そんな、どうすれば。ふと冷静に考える。俺らは魔法使いで、やつらは忍者だ。


 俺は笑う


「何がおかしい?頭おかしくなったのか」


「忠告しておくぞ」


 ボス忍者は少し震える。


「魔法使い、舐めんなよ。」


 その時、魔法が2つ発動された。


詠む魔法リーディングマジック 魔法No.23 風玉エアボール


愛する魔法ラビリンスマジック 魔法No.44 愛する者の怒りラブラーアングリー


 木原さんを拘束していた忍者は吹っ飛び、桔梗を拘束していた忍者は威圧だけで気絶していた。


「「「これが"魔法使い"だ」」」


 俺達は忍者たちを倒し、隠れ場を探す。


 走る。そして曲がり角を曲がる。


「見つけたわよ」


 教師が二人。……くそっ


「どうする?」


 木原さんは不安そうだ


 E組に行ったとしても、何が変わるんだよ。


「E組になったら、卒業は諦めな。」


 その時、頭に電流が走る。


「思い出した。」


書く魔法ライティングマジック 魔法No.2 偽音フェイクサウンド


 空中に"偽音"と指を走らせる。


「先生方、こっちですぞ」


 僕らを追ってきた教師は、声がした方を振り向く。


「行くぞ」


 俺の合図と同時に、木原さんと桔梗は走り出す。


 桔梗は困惑しつつも、さっきの魔法について聞いてきた。


「あの魔法は指定した場所に、自分の心の声をもらす魔法だ」


 桔梗は感心する。


「この魔法なら、ばれずに使えるさかい」


 この勝負、勝てる。


「校舎裏に行こう」


見る魔法コンタクトマジック 魔法No.70 視縛コンタクトロック


 うっ……動けない!?


 いきなり動けなくなった。何が起きたんだ。


 しゃべれない。指すら動かない。まばたきすらままならない。


 すると誰かがあるいてくる。


「ヤバい、」


 咄嗟に感じた一言。


「しゃ……しゃべれる!」


 木原さんたちを見るが、動けていない。


「どうだい。僕の魔法は」


「誰だ、お前?」


 こいつの仕業か。


「初めまして、僕は魔法教団の一人。目良めら 総操そうそうと申します」


 魔法教団?


「魔法があることを知っているのか?」


 だとすればさっきの忍者も、魔法教団だろう。


 なら潰さなきゃ


書く魔ライティングマジッ


 くっ!また動けない。


 こいつ、強い


「逆らおうとするな」


 目良は僕を嘲笑う。


「君たち三人に対し僕らの勢力は"二千人"」


 二千人!?


「だが魔法使いは少ないんだろ」


 口は動く!


「正解だけどそこそこ多いよ」


 だが今ピンチな状況に変わりはない。


 するとそこへ一人の教師が現れる。


 なぜか魔法が解ける。


「ちっ、またお前か。女のくせに」


 目良は逃げ帰る。


「大丈夫か?」


 なんだこの教師?


 この女も魔法使いか?


 警戒しつつもお礼をする。


「君たち、大丈夫か」


 優しい方だ。


「私は返原かえしばら 閃花せんか。よろしくな」


 手を出してくれたので、"握手かな"と思いつつ手を合わせる。


 なにやら先生がにやついている。


 なんだ?


「はい、タッチ」


 えっ!?


「えーーーーーーーーーーーー」


 驚きのあまり叫んでしまった。


 木原さんたちは逃げようとしたが、すぐに捕まる。


「これこそ、"魔法使いの"ってやつだよ」


 つまり……ってことは……まさか!


「じゃあさっきの忍者も、動きを止める男もすべて学校の人なんですか」


「こっちへきて、みんな」


 先生に促され、忍者三人組と動きを止める男が来る。


「まじかよ」


 木原さんは困惑している。


「ようこそE組へ。」


 複雑な気分だ。


「おもろいなー」


 桔梗は満身創痍まんしんそういな笑みを浮かべる。


 こいつは…どうなんだ?


 桔梗は疑っていることに気づいたのか、


「うちはただの転校生やで。あかんよ、無実の人を疑ったら。」


 と言ってくる。


 何で桔梗はこんな落ち着いてるんだ。


「それよりも速くE組に行こ」


 先生が急かすように促す。


「行くしかない」


 そう思った俺はE組に向かう。


 ここから始まるのか。普通の楽しい高校生活が!



 興奮を隠しきれない俺は、届かないはずの太陽に向かって手を伸ばしていた。


「ここがE組だよ」


 表情に出てしまうくらいとにかく…"ボロいな"。


 すると女の子が話しかけてくる。


「今絶対ボロいって思った」


 ギクッ!


「ゴメンゴメン。ボロかったから」


「ボロいって言った」


 この子なんなんだろう。お世辞でも高校生に見えない見た目。


「君、何歳」


 女の子は少し落ち込んだ。


 なんか不味いこと聞いたかな。


「私、17歳です。」


 じゅう……なな…!?


「ああ~、冗談か。」


 そう思った俺は、おもいっきりツッコむ。


「そんな嘘、すぐにばれるぜ。お嬢ちゃん」


 なぜか女の子は目を赤めて背を向ける。


「たしかに、レナは、中学生に、見えるかもだけど」


 いや、小学生だろ。


 レナは続ける。


「でも、でも、レナは高校2年生だし、」


「ほんとかな~」


 僕は半信半疑で、口を挟む。


 するとレナはなにか吹っ切れたように喋り出す。


「私、加藤レナと申します。失礼ですけどあなた年下ですよね。レナの方が年上だから敬語使え。分かったか?後輩君」


 レナは凄く嗤う。


 これからこいつと同じクラスかよ。ついてないぜ。


 目良さんが耳打ちで話しかけてくる。


「レナちゃん、最近彼氏に振られて怒ってるから、気を付けてね。」


 程なくして先生が来て、皆を席に座らす。


 すると先生が切り出す。


「これより授業ゲームを始めます。」


 えっ!?


「あなたたち三人に、普通のクラスに行って生活してもらいます。」


「えっ?」


 話がよく呑み込めない。


「先生は何をおっしゃっているのやら」


「あなたには魔法がある。その魔法でクラスを支配しなさい」


 まだうまく呑み込めない


「簡単にいえば、魔法でクラスの王となれ」


 さっきと変わってない気がする。


「あなたにはこの学校で魔法を使用することを許可する。きっと楽しいわよ」


「楽しそう」


 考えるだけで顔がにやついてしまう。


「神崎はん、顔がにやつきすぎやわ」


 桔梗に言われ平常心になる。


 だが面白そうじゃねーか


 ここから始まるんだ。俺の"魔法を使いたい放題のたのしい"生活が………


 よりによってA組かよ。騙せんのか。A組は才能の塊とか言っててべた褒めだったからなー


 とりあえず指定の席に着く。左端の一番後ろか。


「魔法使い放題じゃねーか」


 つい叫んでしまった。


 回りが変な目で見てくる。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.……」


 誰かがこっちに来る。


「女子だ」


 どうする。どうする。ドクンドクンと心臓が早鐘を打つ。


 10メートル


 5メートル


 4…3……2…………1……………0?


 ・・・・


「ちっ」


 通りすぎただけかい!


 軽く舌打ちをし、心を仕切り直す。


 また来た、しかも女子。今日付いてるな。


 10メートル…9、8、7、6、5、4、3…2……1……………0?


 なんだこいつら。


 冷静に回りを見渡す。


 さっきの女子どもが集まって話している。


「そういうことか」


 あいつら、僕で遊んでやがったのか。


 また来た。今度は長髪でおしとやかな見た目の女の子。


 あの子もやるのか。


 恥をかかせてやるよ。魔法使いを怒らせるとどうなるか、思い知らせてやる。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.5 物体浮遊レビテーション


 女の子は浮く。その瞬間を見逃さず、解除。


 見事に女の子は転んだ。


「いたたた」


 女の子は顔を赤らめ近寄ってくる。


 まだやるか


「神崎……翔君だよね。私、月島 つきしま ゆずりはって言うの。少し珍しいでしょ」


 話し掛けてきた?


「さっきはゴメン」


 咄嗟に謝る。


「こっちこそゴメン、あいつらが変なことしちゃってさ」


 どうやら謝ってる理由が分かってないのか、とりあえず良かった。


「ねー、お詫びにいうこと全部聞いてあげる」


「ラブコメ展開、きたーーーーーー」


 思わず立ち上がってしまった。


 咳払いをし、席に座る。


 言うことを全部聞くってほんとにいいのか。


 だめだ、やましいことしか思い付かない。


 世間話でもするか。


「月島さんの夢ってなに?」


 月島さんが少し動揺してる。


 何聞いてんだ俺


「そんなことでいいの。もっと激しい質問来ると思ってたのにな~。ガッカリ」


 月島さんは笑顔で喋っている。かわいいな


「逆にどんな質問来ると思ったの」


 ニヤリと笑ってしまった。


 月島さんは顔を火照らせ、照れていた。


「もう教えてあげない」


 月島さんはそっぽ向いてしまった。


 さすがに反省し、月島さんに謝る。


 すると月島さんは笑顔になり話してくれた


「実は私ファッションデザイナーになりたいの」


 頼んだら、スマホでデザインを見せてくれた。


「上手すぎだろ」


 あまりに上手で体が石になってしまった。


 月島さんは喜んでいた。


 月島さんは話を続ける。


「でも親に反対されちゃって」


 切ないな。


「でも頑張ってね、応援してるよ」


 月島さんは微笑んだ。


「速く親に自分の描いたデザインが、町に出回るところを見せたいんだ」


 その日は電話番号を交換し、終わった。


 夜8時。一通の電話が掛かってくる。


 月島さんだった。


 僕は興奮しつつも電話に出る。


 だが僕の興奮はすぐにやんだ。


「助けて。お母さんが、お母さんが」


 僕は病院へ向かう。


「月島さん」


 月島さんは驚いていた。隣に月島さんの父らしき人もいる


「お母さん、倒れちゃった」


 月島さんは笑っていた。でもあれはただの強がりなんだとすぐにわかった。


 だって…だって……今にも溢れそうな涙を、こぼれそうになっている涙を、見せまいとしているのだから。


 僕は家へ帰ると、壁に八つ当たりをしていた。


「何でなにもできないんだ、お前には魔法があるだろ。救ってやれよ。お前はこの魔法を手にいれた時からなりたかったんだろ…。」


 "英雄ヒーロー"に


 僕は、ふと魔法の書に目をやる。


「魔法の書が………光ってる。」


 僕は光っているページを開く。


 そこは、なにも書いてないはずのページだった。


「文字が浮かび上がってくる!」


 僕は浮かび上がる文字を読み上げる。


「この魔法はいつの時代も、どんな時代も治らないはずの病気を治してきた。」


 これなら救える!


「魔法No.11 万能治癒パーフェクトヒール


 僕は急いで月島さんのお母さんの元へ向かう。


 月島さんはお母さんに寄り添ったまま寝ていた。


 僕は月島さんのお母さんに向かって、魔法を放つ。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.11 万能治癒パーフェクトヒール


 月島さんのお母さんに向かって"万能治癒"と指を走らせる。


 月島さんのお母さんの様子は、みるみる和らいでいった。


「神……様…?」


 月島さんが話しかけてくる。


「ヤバいっ」


 月島さんは寝ぼけているみたいだ。疲れているのが見て分かる。


 何時間も看病していたのだから、当然だろう。


「もう休んでていいよ。書く魔法ライティングマジック 魔法No.10 操作睡眠コントロールスリープ


 月島さんに向かって"操作睡眠"と指を走らせる。


 月島さんは眠りに着く。


「おやすみ、月島さん。」


 次の日、月島さんは学校を休んでいた。


 授業は学校が始まって初だったから、新鮮な感じがした。


 そして学校は終わった。


 夜8時、


「電話だ」


 月島さんに公園に来てと言われ、公園に向かう。


 公園のベンチに月島さんは座っていた。


 それから、僕が今まで体験した話をした。もちろん魔法の事は伏せて。


 そして一時間程時が経つ。


「ねー、神崎くん」


 月島さんは唐突に切り出す。


「お母さんの病気。治ったみたい」


 僕は少し動揺した。


「よ…よかったじゃん」


 なんとか言葉を返す。言葉を返すだけでも精一杯だった。


「私見ちゃったんだ~。神崎くんがお母さんの病気、治してくれるとこ」


 ドキッ!


「僕は治してないよ。はっはは……」


 しばらくの沈黙。


 月島さんは話を続ける。


「見てたよ。でもその後私を眠らせたでしょ」


 月島さんは怒り気味に言う。


「ゴメンゴメン。バレたらヤバいと思って……」


「やっぱり治してくれたんだね」


 ヤベッ


「神崎くん、優しいもんね」


 僕は優しくない…


「もっと一緒に居たかったな~」


 同じ気持ちだ…


「一緒に探検したりしたいし、もっと神崎くんの事……知りたかったのに」


 しばらくの沈黙


「ねー、神崎くん。君の夢はなに?」


「しょ…小説家」


 なんとか適当に応える。


「だったらいつか会えるね。お互い有名人になれるじゃん。」


 月島さんの声は少し濁っていた。


 涙が垂れるのをこらえるかのように…


「実は都合上により、遠くにいくことになりました」


 月島さんの声はかすれていくばかりだ。


 ここで別れるのか。いいのか俺。もっと話したいことがあるだろ。言えよ、俺。


「お…俺が…もし小説家になったら…」


 言えよ。そうだ、言え。


「私と付き合ってください」


 月島さんは僕の言葉を遮る。


 すると月島さんは笑った。


 次の日、月島さんは転校したと知らされた。


「それでは授業を始めます。」


 俺の心にぽっかり穴が空いてしまったような気分だ。


 授業が頭に入らない。


 もう4時限目だ。


 僕は授業を抜け、屋上へ行く。


 春の風に苛立ちを感じる。


「あーあ、やってらんねー」


「何がやってられないんだ?」


 この声は……


返原かえしばら先生ですか」


 今は一人でいたいんだ。


「何があった」


「別に、何もないですよ」


 話しかけるな。


「どうせ月島の事だろう。」


 僕の動揺した表情を見て、確信に変わったのだろう。


「君はまだ若い。焦る気持ちは分かるが悔やんでも仕方ないぞ。」


 お前には分からない。


「先生に何が分かるっていうんですか」


 僕は怒り気味に言う。


 僕の気持ちは分からないだろ。


「分からない。だから分かりたい。 だって私は教師なんだ。この先いろんな生徒を見ていく。だから分かってやりたい。」


 魔法で二人の世界を創れたら、どれだけ良かったか。


「魔法は万能という訳じゃない」


 もっと月島さんと一緒に居たかった。


「でも魔法を嫌いになるな。」


 無理だ…


「魔法で救われた人もいる。そうだろ。月島のお母さんはどうなった」


 何であんたが知ってるんだよ。


「私も魔法使いさ。月島の気持ちくらいわかる」


 あんたもか


「少なくとも月島は魔法が好きだ。そしてその魔法で月島を救ったお前の事がもっと好きだ。もっと前向きに生きろ」


「どう生きるか。」


 世界にはそんな難しい質問をした者がいる。


 これでいいのか分からない


「ただ……ただ…強がりを言えるなら言わせてくれ」


「存分に叫べ。お前の思い、届けてやれ」


 こんないい先生に恵まれた俺は嬉しかった。


「月島ー、俺もお前の事が」


 あの時言えなかった一言を、君に届ける。


 本当は君に直接贈りたかった一言。


「好きだー」


 しばらく日が経つ。


「転校生来るらしいぞ」


 なにやらクラスが騒がしい。


 転校生って珍しいか?


 俺の学校なんか転校生だけのクラスあったぞ。


「転校生来るんだって」


 柴山しばやま 弥助やすけ。俺の前の席の男だ。


「どうせただの引きこもりが、人生やり直そうと、転校しただけだろ。」


 俺は屁理屈を言う。


「それはそれで凄いけど。」


 弥助は苦く笑う。


 予鈴と共に先生が入ってくる。


 隣に……女か


 実際俺は期待していた。


 もしかしたら月島さんが戻ってくるんじゃねーかと。


 そんな俺の希望は淡く消え去ったので、この転校生に興味はないんだよね。


 グラウンドの生徒たちを見ていたのだが、飽きたので転校生に視線を変える。


 いかにもお嬢様って感じだ。


 どんなこと考えてんだろうな。


 気になったので魔法を使う。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.4 黙視読心アイリード


 聞こえてきた。聞こえてきた。


「全くうるさい男共だこと。挨拶くらいさせてーや。………てかいつまで騒いどんねんこいつら。いい加減黙れよ。おい教師、突っ立ってねーで仕切れゴミ。あー、イライラする」


 ゲスやないか!


 それより盛り上がりすぎだろ。


「何なんだ、この盛り上がりようは。」


「お前、知らないのか」


 弥助は驚きながら聞いてきた。


「別に、知らねーよ」


 弥助が喋るのを遮るかのように転校生は喋り出す。


「初めまして。如月きさらぎココアと申します。」


「へー」


 適当に頷く。


「ちなみに私、アイドルやってるの」


 クラスは大いに盛り上がる。


 アイドルっていっても、俺のアイドルは月島さんだけだからよ。


「じゃあ席空いてないから、僕のとなりね」


 この教師、正気か。


「教師だったら何でもありかよ、」


「帰れ」


 教室中にヤジが飛ぶ。


 その日は一日中荒れ狂って終わった。


 放課後、とある生徒が不良3人組に絡まれてるのを見つける。


「こんなシーンを見逃しては、月島さんの英雄ヒーロー失格だな」


 俺は一歩一歩大袈裟に歩く。


「何してんだ。」


 不良共は一度こっちを見てシカトする。


「無視すんな」


「やれ、」


 いきなり殴られ悶絶する。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.9 操作空間コントロールエリア


 空中に"操作空間"と指を走らせる。


 また殴りに来る。


 俺は足を蹴る。その瞬間に操作空間コントロールエリアにより相手を吹き飛ばす。


 あたかも俺は強いと思わせる。


 不良たちは皆一列に並び、逆らうことをやめる。


 絡まれている女の子を見ると意外だった。


「如月さんかよ!」


 そして俺は帰路につく。


 俺は風呂に入った後テレビをつける。


「さあ次もやっていきたいのですが、如月さんがまだ到着しておりません。」


 スタッフが焦っているな。


「番組の途中ですがニュースです。午後7時何者かによって如月ココアさんが誘拐されました。犯人は身代金10億円を要求しており……」


 俺は部屋に戻り、大急ぎで着替える。


「待って」


 謎の声。魔法の書が光ってる。


「またか」


 俺は浮かび上がる文字を読む。


「この魔法は何もかもを知る魔法。つまり一瞬で世界の全てを知れる。」


 そんな魔法が!


「その魔法の名は、魔法No.20 万能精パーフェクトフェアリ霊(ー)」


 小さく可愛い少女が出てきた。


 これが…精霊?


「用件は何でしょうか。 ご主人様」


「おい精霊。今すぐ如月きさらぎの場所を教えろ」


 精霊は迷うことなく喋り出す。


「赤坂森です」


 あそこか。でも歩いて1時間か。


「おい精霊、そこまでワープさせてくれ、」


 すると精霊は不機嫌になる。


「一日1つだけ願いを叶えてあげる」


 ケチが、


 俺は急いで家を出る。


 精霊もついてきた。


「待っとけよ、如月。お前をすぐに救ってやるから」


「恥ずかしいな」


「黙っとけ、精霊」


 程なくして赤坂公園の前を通る。


「おー兄貴」


 こいつらは不良三人組か。


「高校生なのにバイク乗るなよ」


 危ないだろ。


 バイクか


「バイク……」


「おいお前ら、頼みがある」


 は事情を話し、不良三人組のバイクの後ろに乗る。


「事故るなよ」


「事故るかよ」


 即答かよ。さすがは不良だ。


 遅いかもな。


 これじゃ如月は苦しみ続ける。


「もっとスピードでねーのか」


「ならちゃんと捕まってろ」


 俺はしっかり捕まる。


 すると猛スピードでバイクは駆ける。


「着いた」


 目の前には大きな倉庫がありシャッターがしまっている。


 不良がバイクの発進音で威嚇する。


「ありがとう。もう帰ってろ」


 お前らを危険な目に遭わせたくない。


 それでも彼らは無言でついてくる。


「来るなら背中はあずけたぜ」


 不良三人組は笑う。


「不良が良いことするもんじゃねーな」


「そうだな。」


 でもありがとよ。お前らなら信頼して背中をあずけられる。


「驚くなよ」


 俺の優しさに不良は不敵な笑みを浮かべる


 相変わらず便りになるな。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.9 操作空間コントロールエリア


 空中に"操作空間"と指を走らせる。


 そして近くの岩を浮かし、シャッターにぶつける。


「死ねー」


 シャッターが壊れる。


 中には何十人も人がいる。


「行くぞ、オメーら」


 不良三人組を見ると、膝から崩れ落ちていた。


「驚き過ぎだろ!」


「進むぞ」


 誘拐犯たちが驚く。


「神崎くん!」


 如月の声。


 男達に縄で縛られ運ばれている。


「お前ら、その汚い手で触るな」


「来なくて…いいよ」


「いい訳ない」


 お前が笑えない世界なんていい訳ない。


 お前のたった一度の人生を、救ってやりたいんだ。


 だから待っといてくれ。


 お前には俺のような思いを味わって欲しくない。


 俺は襲ってくる男達を吹き飛ばし、一直線に如月のもとへ向かう。


「如月」


 俺は叫ぶ。如月のために、


 如月を魔法で浮かせ、救い出す。


「逃げるぞ。不良三人組」


 なぜか不良三人組は下を向く。


 しばらくの沈黙。


「もしもこのままいったとしても、追い付かれる」


 確かに。あいつらは車やバイクが何台もある。


 不良三人組は、止めてあった車を破壊する。


「行け、速く」


 不良三人組は俺らを急かす。


「何を?」


 不良三人組は盾となる。


「お前ら、来い」


 バイクで来た男が叫ぶ。


 混乱しながらもそのバイクに乗る。


 バイクは駆ける。しばらく走り続ける。


「あいつらについて話してやる」


 唐突に男は口を開く。


「あいつら三人は兄弟だ。でも若くして母は死に、あいつらは貧乏な生活を送ることを余儀なくされていた。」


 そうだったのか。


「でもある日、そんな生活を送ってきた父は嫌気が差してあいつらをおいて家を出ていった。」


「とんでもないくそ野郎ですね」


 そんな親は本当に許せない。


 バイクの運転手は苦笑いをする。


「だからそれ以来、彼らは人から金を奪い取るようになった。」


 苦しかっただろう。


「いつしか彼らはこんな風に呼ばれていた」


 ドクン。


「不良三人組と」


「ところでどこに向かう」


 バイクの運転手は聞いてくる。


 如月はハキハキと応える。


「歌を歌いたい」


 と。


 バイクの運転手につれてってもらい、テレビ会社に着く。


 如月はプロデューサーらしき人と話している。


「俺はもうお邪魔かな」


 だが如月は泣いていた。


 俺は如月のもとに駆けつける。


 どうやら歌わせてくれないらしい。


「何で歌わせてあげないんですか」


 僕は少し強く言う。


 するとプロデューサーはベラベラ喋る。


「当たり前だろ。今更こんなやつ商品にすらならない」


 商品…だと


「お前、もう一回言ってみろ」


 俺はプロデューサーの頬を鷲掴みにしていた。


「このよく喋る口、このまま引きちぎってやろうか 」


 プロデューサーは怯える。


「誰かこいつを止めろ」


 警備員が近づいてくる。


「邪魔すんな」


 僕は魔法を使い、警備員を吹き飛ばす。


「今俺が用があるのはこいつだけなんだよ」


「お前、何がしたい」


 プロデューサーは聞いてくる。


「今すぐ謝れ。如月はただ歌いたくてここに来たんだ。だからあんな怖い体験をしてまでここに来たんだ。」


 プロデューサーは首を横に振る。


「そうか、ならどうする」


「やめて、もう」


 如月は泣きながら言ってくる。


「どうしてだよ。歌いたいんだろ。なら、」


 如月はプロデューサーの方へ歩く。


 そして一言言葉を添える。


 まるで死んだものに話し掛けるような暗く重いトーンで、


「今までお世話になりました」


 と。


 如月(きさらぎ)の家は遠いらしく、俺の家に一日だけいることになった。


 彼女は笑い続けている。


 彼女を見ていると月島さんを思い出す。


 どことなく似ている。


 そんなことを思いながら、僕は部屋へ戻る。


「ねえ、神崎くん」


 ドアの向こうから声がする。


「如月か」


「何で神崎くんは、私を助けてくれたの?」


「特に理由はない」


 いや、本当は君が夢を追いかけていたから。


 だから救いたいと思った。


 でもそんなこと恥ずかしくて言えないよ。


「そう……なんだ…」


 如月はドア越しに何を思っているのだろう。


 そんなこと僕には分からない。


 でも分からないままでいいのだろう。


 なぜなら、彼女の心は深く、誰も届かない。そんな風に感じるからだ。


 如月はさらに質問する。


「じゃあ、何で私を歌わせるため、あなたが悪者になったの?」


 僕は戸惑う。


「別に深い理由はないよ」


 如月の心はまた深くなっていく。


 分からないよ、如月。


 君が……どんな答えを求めているのか。


「ありがとう」


 お礼を言った如月さんの声はひどく、アイドルらしからぬ声で、とても聞けたものじゃなかった。


 後日、如月さんは数日学校を休むそうだ。


 クラスが混乱しないためだろう。


「なあ、神崎」


 弥助が話しかけてくる。


 相変わらずマイペースだな、こいつは。


「部活見学、しようぜ」


 めんどくせーけど行くっきゃない


「いいよ、行こ」


 なぜか行く場所が決まってるかのように弥助は進む。


 弥助は止まる。


「や…野球部?」


 俺は少し驚く。


「昔からプロ野球選手になるのが夢だったんだ。」


 意外だな。夢ないかと思ってたのに


 俺たちは部室へ入る。


 先輩方が睨み付けてくる。


「ノックくらいしたらどうなんだ」


 確かに一理あるな。


「ってお前じゃねーか。神崎」


 おやっ!と思ってたけど


「お前らじゃねーか。不良三人組!!」


 まさか生きてたとはな。


「知り合い?」


 弥助は聞いてくる。


「まあ色々あってな」


 弥助は興味深々だったが、切り替える。


「今日からお世話になります」


 えっ?


 野球部員たちは待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべる。


「5分後、グラウンド集合」


 集められた俺たちは千本ノックをさせられる。


 いきなりかよ


 1時間後、打球の練習に入る。


 俺は空振り十二振で退場させられる。


 ってかあんな本気で投げられても打てないだろ。


 次は弥助の番。


 構える。


 玉が来た。


「速い」


 カキーンという大きな音とともに玉は空高く飛んでいく。


「いきなりホームランかよ」


 いかにもエースって感じじゃねーか。


 弥助のホームランを観ていた連中が、こっちに近付いてくる。


「よう、天隠あまがくれ高校」


 誰だ、こいつら。


「始めようぜ、命を懸けたゲーム野球を」


「あいつらは倉橋高校の連中や。挑発はするな」


 不良三人組が怯えて言う。


「ルールは簡単。9ゲーム目までの野球だ。ただし負ければ野球選手、即引退だ」


 彼らはさらに付け加える


「参加しなくても、罰があるから。」


 しぶしぶ先輩らはゲームをする事になった。


 6回表まで誰もやつらの珠をとることもできず、点数は7-0。


「負けちゃう」


 そんな時、弥助は前へ出る。


「僕にやらせて下さい」


 先輩らは止めるが、自分の信じる野球を馬鹿にされたのだから怒るのも必然だろう。


 倉橋高校の高速の球。


 弥助は2連続空振り。


 最後の一球が飛んでくる。


「速すぎて見えない」


 だが弥助には見えていた。


 弥助は特大ホームランを打つ。


 これで7-1


 だが道はながい。


 7回表、再び弥助の番が来る。


 倉橋高校が球を投げる


 そして皆驚愕する。


「お前らー」


 俺は怒鳴る。


 なぜなら弥助の頭に球が直撃したからだ。


 弥助は倒れ保健室へ運ばれる。


「すまない、弥助……。」


 俺は頭を下げる。


「謝らないでよ。でも僕は野球を馬鹿にしているものたちから1点とったんだ。……だから…今度は…お前があいつらを見返してくれ…」


 弥助は泣きながら俺に頼む。


 俺は無言で頷き野球場へ戻る。


「今度は俺が出る」


 先輩たちにやめとけと言われるも俺はただ前を見る。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.9 操作空間コントロールエリア


 倉橋高校の豪速球。


 魔法で止め……止まらない!


 二球目、止められない。


 三振となりベンチに戻る。


 程なくして7回表は終わる。


 そして7回裏を0点でしのぐ。


 そして8回表。


 俺が出ようとすると先輩方が止める。


「あとは俺たちに任せな。野球には野球で挑む。だから俺たちは負けない。特とご覧あれ、俺たちの奇跡野球を」


 地獄の8回裏が始まる。


 倉橋高校の豪速球。


 とれるはずない。


 カキーンという音とともにボールが土を削る。


「さすが先輩だよ」


 次も守備の甘いところを上手く通り抜ける。


 得点が7ー4で2アウトの満塁で迎えたバッターは……


「俺かよ!」


 魔法で止められないのにどうとればいいんだ。


 俺は自分に問いかける。


「お前は魔法が無いと何も出来ないのか。そうじゃないだろ。俺だって、魔法なくても余裕でホームランが打てるところを見せてやるよ。」


 豪速球が飛んでくる。


 空振りだ。


「良かったぞ。今の」


 仲間が励ましてくれる。


「ありがとな、お前ら。お前らのお陰でホームランなんて楽勝だ」


 二球目


 空振り。


 もうあとがない。


 弥助に怪我を負わせたあいつらに敗北を見せつけてやらねーと気がすまねんだよ。


 最後の三球目。




 カキーン


 グラウンドに鳴り響く大きな音とともに、ボールは空に消えて行く。


「逆転だ」


 俺たちは円を作り喜ぶ。


「おいお前ら、まだ続くんだ。調子に乗るな」


 倉橋高校の一人がヤジを飛ばす。


「もう敗けだ。帰るぞ」


 倉橋高校のキャプテンに止められ、やつらは帰っていく。


 俺は急いで結果を知らせに弥助のもとへ行く。


「なあ、弥助。勝ったぞ、俺ら。どうだ、凄いだろ」


 弥助は泣いていた。


 俺もそこに居たかったと…………


 冬山への3泊4日の旅が始まった。


 冷たいバスの中、静かに外を眺める。


 数時間後、俺たちはホテルに着く。


 なかなかに綺麗なホテルだな。


 だが冷たいバスの中に何時間もいたのだから、皆震えが止まらないようだ。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.8 温暖空間ホットエリア


 空中に"温暖空間"と指を走らせる。


 辺り全体が温もりに包まれる。


 指先も暖まってきた頃、綾峰あやみねさんがピアノを弾き始める。


 どうやら彼女はピアノのコンクールで4年連続の王冠を取っているらしい。なかなかにすごい。


 綾峰さんの演奏は聴くものの心を癒し、暖かさで包み込んでくれるような感じで賞を取り続けるには納得の演奏だった。


 そして演奏が終わると皆が拍手し、その場が盛り上がる。


 その後自由にスキーが始まる。


書く魔法ライティングマジック 魔法No.9 操作空間コントロールエリア


 俺は自分を操作しスキーのプロよりも上手に滑ってみせる。


 キャーキャーと女子たちの歓声が聞こえる。


「魔法使いに生まれて本当に良かった」


 調子にのりにのりまくった俺は直滑降からの大ジャンプで更なる声援を集める。


 女子たちの視線を独り占めした俺は悠々と部屋へ帰る。


「楽しかったな~」


 そんな事を呟きながら俺は指定された部屋に着く。


「久しぶりやな、神崎はん」


 そこには桔梗と木原さんがいた!?


 何でここに桔梗と木原さんが!?


「この部屋はE組専用だよ」


 そうだったのか。


「とりあえず伝えたいことがある」


「伝えたい………こと?」


「魔法にはデメリットがある。それは寿命が短くなること。」


 寿命が………!


「1回使えば寿命は1年減る。」


「1年も…」


 俺は20回以上使ってるぞ。つまり20年以上寿命が縮んだ……


「すまないが、うちらは寿命がほぼ無いんだ。生きていたとしてもあと2年が限界だろう。」


「2年?」


 あと2回使えば……死ぬ。


 そんな時、一通の電話が掛かってくる。


 お母さんが何を言ってるか分からないほど泣きながら電話してきた。


「響花が……響花が…車に……」


 俺は急いで病院に向かう。


「響花」


 俺は叫びながら病室へ向かう。


 響花は医療器具を付け、ベットに寝ていた。


「響花、俺だよ。分かるか」


 響花は小さく頷いた。


「お母さん、少しの間、二人きりにしてくれないか?」


 お母さんは病室を後にする。


 響花はいつでも明るかった。響花は学校では人気者で生徒会長でもあり、誰にでも優しく、成績優秀でスポーツ万能。響花に憧れる者は少なくなかった。


 そんな響花が……


「お兄……ちゃん。…わざわざ…来ること…なかったのに…」


 響花は喋ることさえ辛いはずなのに……


「治してやる」


 俺は魔法を使おうとする。


「お兄……ちゃん。使わないで……お兄ちゃんには…長生きして…欲しいから…」


「何で…知ってるんだよ」


 響花は僕の手を優しく包み込む。


「響花……響花……」


「お兄ちゃん……ごめんね」


「こんなに優しく包まれたら……魔法、使えないだろ」


 やがて響花は静かに眠りにつく。


「ごめん響花……ごめん……」


 響花はもう二度と戻らない。


「何だよ、この世界。生きてて楽しいか。」


 響花、今までありがとう……。


 響花が死んだ。


 俺は万能精霊パーフェクトフェアリーを呼び出す。


「こいつの死に魔法が関わっているか、診てくれ」


 確信は無い。けどこいつは人一倍体力があり、人一倍注意力もある。そんな響花が簡単に車に跳ねられるはずがない。


「この子の死には魔法が大きく関わっている。この子に魔法が関わっていなかったら生きていたと思う。」


「やっぱりそうか」


 ごめんね、響花。でもお兄ちゃんがかたきを撃ってやるから。


「なあ万能精霊パーフェクトフェアリー、その魔法使いの居場所、分かるか。」


「明日なら教えてあげるけど……」


 俺は無言で睨み付ける。


 万能精霊パーフェクトフェアリーは額に手を当て口を開く。


「今いる魔法使いの数なら教えてあげるよ」


「教えろ」


「5人」


 魔法使いは俺と桔梗、木原さんと目良だ。


「あと一人か」


 そいつが……響花を…殺した


「なあ万能精霊パーフェクトフェアリー。一日の願いを増やしてくれないか?」


「できるけど、代償は重い。それでも?」


「俺はもう決心は出来てる」


 精霊は俺の胸に手を当て唱えた。


「分かった。じゃあ始めるよ。精霊の魔法フェアリーマジック 魔法No.0 契約コントラクト


 俺の胸元が光る。


「契約終わったよ。これで何度も願いを叶えられるよ」


「じゃあ今すぐその魔法使いのもとに連れていけ」


 万能精霊パーフェクトフェアリーが俺を最後の魔法使いのもとにワープさせる。


「俺の……部屋?」


 辺りを見渡す。


「月島……さん!……何でここに…?」


「神崎君こそ何で?」


「月島さんって魔法使いだったんだね」


 月島さんは動揺する。


 しばらくの間、月島さんは僕の目を見る。


「そういうことか。教えてあげる。……私が神崎君の妹を…殺した」


 なぜか月島さんは落ち込んでいる。


 分からない。何が真実なんだよ。


「月島さんが殺したなんて思わない。…だって…だって月島さんは、あんなにも優しかったじゃないか」


「私は…優しくなんてない」


 嘘だ。


「嘘だ」


「嘘じゃない。私が響花ちゃんを……殺したの」


「じゃあなんで月島さんは泣いているんだよ」


 また泣かせてしまった。もう泣かないでほしかったのに………。


「ごめんね、月島さん」


 真実なんて分からない。でもそんな世界を俺は愛したい。


「これ以上君が苦しむ事はないんだよ、月島さん」


「ごめんね。神崎くん。知る魔法ノウイングマジック 魔法No.……」


 眠い。何で、何で……


「つき…しま…さ………」


「さようなら。神崎くん……」

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