第66話 木原咲良

 迷路エリアの中心にそびえ立つビルの中にてーー


 ここは迷路エリアの中心にそびえ立つ、ビルの中。

 ビルの中にはたくさんのデスクや部屋があり、まるで会社のようであった。

 誰かが働いていてもおかしくないというのに、そこにいるのは一人の女性と数十人の大人のみ。


「逃げたぞ。探せ」


 このビルの中を、大人たちは必死に駆け回っている。

 それはとある人物を探していたから。


「ヤッホー」


 数人で固まって走る大人たちの前に現れたのは、一人の小学生。

 彼女は両手にペイントナイフを持ち、両手を下げている。


「やっと見つけたぞ。ガキ」


 そこは一本道。

 逃げるには前か後ろかだが、彼女の正面には複数の大人が束になってそこにいる。

 彼女は背後を見ると、そこにも大人が回り込んでいた。


「ざっと十人ってところか」


 PTAの参加しているメンバーは百人。

 そしてこの場にいるのは十人。


 彼女は笑みをこぼす。

 その笑みはまさに勝者の笑みである。

 彼女は姿勢を低くし、ペイントナイフをしっかり握っているのを横目で確認する。


「よし。あとは攻撃するだけ」


 彼女は銃を持った十人の大人に囲まれても尚、怯みはしなかった。

 怯むことなく、ただ笑った。


「このガキを殺せ」


 一人の大人がそう呟いた。

 その声とともに、この廊下全体に散らばる赤いペイント。

 赤いペイントの臭いがその場所に充満し、空気すらも赤く染まって大人たちの視界を塞いだ。


「バカかな?君たち」


 その声は、十人の大人にペイント弾を乱射された彼女ーー木原咲良の声だった。

 その声が聞こえる場所は天井。

 その場にいた大人は全員天井を見るが、そこに木原咲良はいず。そこにあったのは一つの小型スピーカーのみ。


「うわあああああああ」


 大人の一人が悲鳴をあげる。

 誰もがその者に視線を向ける。

 その者は青いペイントで染まっていた。


「うわあああああああ」


 再び聞こえる悲鳴。

 その場にいた皆がその者を見るーーやはり青いペイントに染まっていた。


「うわああああああああ」


「うわああああああああ」


「うわああああああああ」


 次々にやられていく大人たち。

 いつの間にか、残りメンバーは一人となってしまったPTA。


「嘘だ……ろ」


 残ったその女性は困惑と悲痛の表情を見せる。

 たった数秒で仲間が皆やられ、気付けば味方はいなくなり、この戦場でたった一人。


「PTAの幹部だったな。お前は」


 木原咲良は彼女の前に堂々と立ち、ナイフを向けている。

 そのただずまいは、幹部のその女性よりも堂々としていて、凛々しい。


「お前は、お前はあああ」


 幹部の女性はマシンガン型のペイント銃で木原咲良を撃つも、木原咲良には一発も当たらない。

 木原は壁や天井を悠々と走り、あっという間に幹部の女性の真上に来た。


「神乃学園を、舐めるなよ」


 木原咲良は幹部の女性をペイントナイフで色をつける。

 ーー敗北という、青色に。


 決着がついた後、木原咲良は携帯である者に電話をかける。


「はい。ビルにおびき寄せたメンバーは掃討しました」


「そうか。ではあとは自由に行動していろ」


「了解」


 木原咲良は電話をきる。

 木原咲良は立ち上がり、外の景色がよく見える屋上に行く。


「さあて、他の皆は大丈夫かな」

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