第49話 友の仇を撃つためならば
月島さんは久遠が投げた豪速球を、たった一発で打ち返した。
しかも月島さんが打った球は観客席ぎりぎりで壁に当たり、飛ばないだろうと思って手前にいた外野手が遠くにまで走った。
「神崎くん。走って」
俺は呆然と突っ立っていたが、月島さんの声で俺は三塁に走る。三塁に到着したとき、まだ球はホームベースには届かない距離だ。
俺はホームベースにまで走り、一点を獲得した。
9ー1
月島さんは三塁まで進み、あと一点もすぐの取れる雰囲気であった。
「まさか……女ごときに!?」
久遠は自分の豪速球を月島さんに軽々と撃たれたことにより、明らかに動揺していた。
月島さんのスイングは明らかに素人のものではなかった。あれは明らかに相当な経験を積んでいなければ出せないスイング。
フィールドの誰もが動揺していると、月島さんは久遠に向かって言った。
「私ね、昔はソフトボール部のエースをやってたんだよ。それに私のソフト部は全国に何度も行ってる。あんたの球なんか止まって見えるよ」
月島さんはこのフィールドで、誰よりも輝いていた。だがしかし、神乃学園の教師の一人がフィールドに下りてきた。
少し長めの金髪を後ろで束ね、メガネをかけた黒いスーツを着た女性が俺たちにこう言った。
「少し試合が長いようね。だからさ、もうこの五回裏で最終試合にしない? そっちの方がおもしろいでしょ」
神乃学園の教師であるはずなのに、その教師は俺たちに不利になるようなことを申してきた。
「俺たちはいいぜ」
倉橋高校の連中は笑顔でオッケーしている。だがもしそれを許せば、俺たち神乃学園は確実に負ける。
だがしかし、その教師はその状況を楽しもうとしていた。
半笑いを浮かべ、俺を面白そうというような目で見ている。
「神崎くん。あなた、勝てるわよね?」
確証などあるはずがない。だがしかし、俺には魔法がある。だから行ける。
「やってやる。勝ってやる。このターンで」
「そう。いい目ね。じゃあ私が打つバッターを三人選ぶわね」
「え!?ちょっと……どういうことですか?」
俺だけじゃなく、皆が動揺している。
そこで初めて金髪の先生はルールの説明し忘れに気づいた。
「あーあ。ごめんね。じゃあルールの変更を伝えます。まずだけど、この回で勝敗は決まる。神乃学園が勝つにはあと十点取らなければなりません。ですがこの回だけでは無理がある。でも強い者だけなら別でしょ」
なるほど。
「そう。つまり三人のバッターだけが彼に挑める。つまり、強者と強者の殴り合いだよ」
この教師が言っていることはだいたいわかった。
この教師が俺たち神乃学園から三人選び、その三人がスリーアウトになるまでバッターの球を打てる。だがカウントはどうなる?
「あとカウントだけど、今のところのアウトは1。もちろんそれはそのままよ」
なるほど。
俺たちが不利であるという事実は変わらないということだろう。
だがしかし、さすがにこの勝負は勝ち筋が薄い。
そもそもこの教師が誰を選ぶのかが問題だ。
「では打つ奴は神崎、月島、弥助だ。では試合開始」
そう言うと、その教師は観客席に戻った。
そして俺、月島さん、弥助は打つ順番を決める。
一番は月島さん。二番は俺。そして三番は弥助だ。
実際俺は不安だった。
弥助は多分素人だ。そしてもちろん俺も野球経験はほぼない素人だ。
この勝負、少し難しいかもしれない。
月島杠。彼女はバッターボックスに立った。
「さあ。ゲームを始めようかしら」
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