第24話 勇者召喚
カナン帝国皇帝フリードマンは玉座の間に集められた者たちを汚物であるかのように見下ろしている。
布袋を被せられ後ろ手に縛られた犯罪奴隷である。
近衛兵で指し固められている広々とした玉座の間で、整然と並ばされ跪いている彼らはこの日の主役でもある。
勇者召喚を行う際に供される人身御供たちなのだ。
宰相アルシンドの合図と共に魔術師が召喚魔法を発動した。
魔法陣が奴隷たちを飲み込んでいく。
陣が完成すると玉座の間は眩い光に包まれた。
発光が治まり視界が利くようになると、奴隷たちがいた場所には黒目黒髪の少年少女たちが立ち尽くしていた。
「きゃああああああ!」
その中の一人の少女が叫び声をあげる。
少女の視線の先には首のない皇帝の遺体とその頭部を掲げた近衛兵が佇んでいた。
血塗れの近衛兵は皇帝の頭を放り捨てると自ら頸動脈を切断して自害した。
そして玉座の間は阿鼻叫喚に包まれた。
勇者召喚を主導していた皇帝が暗殺されたことにより彼らの処遇は有耶無耶になってしまった。
宮殿の建っている敷地内にある使用人用の宿舎に、彼らは男女別に部屋を割り当てられてしばらくの間そこで生活することになった。
その中の
同室の
「結局さ、俺たちは何のために呼ばれたんだ?」
「あいかわらず俊輔は人の話聞いてないのな」
「隣の国と戦争するからって言ってただろ」
「こいつこれでも勇者なんだぜ。人選ミスだよな」
同じサッカー部に所属していた同室の三人が生返事をする。
「戦争!?まじかよ!早く逃げようぜ」
「小野くん?タカ派の皇帝が暗殺されたから戦争にはならないって宰相さんが言っていたでしょ?」
クラス委員長の月島が呆れている。
「なるほど……、じゃーみんなで魔王でも倒しに行こうぜ!」
「魔王なんていないから!禿げた宰相とジジイの神様も言ってたでしょ!」
「禿げにジジイって、葵はあいかわらず口が悪いな」
「小野くんに注意されるとか勘弁してほしいのだけど?」
それまで黙って話を聞いていた担任の沢尻が口を開いた。
「とりあえずの生活の面倒は見てもらえるわけだし、急いで今後のことを決める必要もないでしょ。これから日本へ帰る方法を探すにしても、まずはこの世界のことを知らないことには話にならないわ」
神様に自分の生徒たちと同じ十六歳にしてもらった沢尻は機嫌がいい。
「若返ったとはいえ恵理子はさすが元教師だな」
「小野君、呼び捨てはやめようか?今でも教師だからね?」
「腹減ったなー、ハンバーガー食いたい」
小野俊輔が川越入間と出会うのは半年後のことである。
新たなカナン王を取り決める選帝侯会議は年が明けて雪が解ける春まで待つことになる。
結局会議は紛糾し内乱にまで発展することになるのだが、それはまた別のお話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます