第23話 転移

 マコトさんがコロンドの街へ来てから一週間ほど経った。


 最近になって教会が運営している救護院で臨時の回復魔法士として働いている。


 救護院は病院兼孤児院といった施設で貧民街などで炊き出しなども行う。


 聖女であるマコトさんにとってお誂え向きの仕事ではないだろうか。


 マコトさんの仕事は昼過ぎには終わるので迎えに来たのだ。


 修道服のような白いローブを身にまとったマコトさんが救護院から出てきたので声をかける。


 「マコトさんお疲れ様」


 「あ、イルマくん!」


 俺を見つけたマコトさんから笑みがこぼれた。





 今日は特別な日だ。


 マコトさんにも話してある。


 昨日売却した森熊フォレストウルサスの代金を狩猟ギルドで受け取ってきた。


 これで一億円が貯まったのだ。


 すでに転移は購入済みである。


 矢も楯もたまらずにマコトさんを冒険者ギルドへ引きずり込んだ。





 お昼を食べながらこの後のことを話す。


 マコトさんはおにぎりとお茶、俺は菓子パンとコーヒーという軽めの昼食だ。


 ソラはカレーライスに味噌ラーメンとがっつり食べている。


 「とりあえず何度か試してみたけど、俺が明確にイメージできるところへなら飛べることはわかった」


 「日本にはもう戻ってみたの?」


 「それはまだ。帰るときはマコトさんと一緒にって決めてたからね」


 「……、わたし向こうへ帰ったら男の子に戻っちゃうのかな」


 「もしそうなら帰りたくない?」


 「そんなことないよ。ただ残念だなーって……ね」


 「もしマコトさんが男に戻ってしまったらこっちに戻って来よう!向こうでスキルが使えればだけどね!」


 「うん!」


 「お二人さーん。わたしがここにいるの見えてますかー。イルマのわたしとマコトちゃんの扱いの差にびっくりだよ!」





 転移はギルド内で行う。


 すでに転移でここから出ることも外から入れることも実証済みである。


 マコトさんとソラを抱き寄せる。


 「それじゃいくよ。転移!」


 次の瞬間俺の意識は暗転した。





 目覚める。


 視界に入ってきたのは日本で住んでいたアパートの白い天井ではなく、冒険者ギルドの最近ようやく見慣れてきた木目の浮き出ている天井だった。


 「イルマ!」


 「イルマくん!」


 ベッドの傍らではソラとマコトさんが心配そうに俺を見ていた。


 「失敗……したのか」


 俺は魔力切れを起こして気を失っていたらしい。


 「おそらく世界を渡るときには魔力を膨大に消費するようです」


 俺は転移発動直後に意識を失った。


 つまり魔力がまったく足りていないということだ。


 「ソラ、俺は日本へは帰れないのか?」


 「魔力不足でスキルが発動しなかったのですから、ステータス補正値の魔力と精神力のLvを上げれば使える可能性はあります」


 「精神力も関係があるの?」


 「イルマを観察していてわかったことですが、魔力は最大MPと威力に、精神力はスキルや魔法の発動時に消費する魔力量に影響しているようです」


 あの感じだとそれで使えるようになるとは思えないが。


 「もう一つの方法はスキル魔力の泉を購入することです。このスキルを習得すれば無尽蔵の魔力を所有することができます」


 「おお!あのスキルにはそんな効果があるのか!」


 しかし、


 「あれって転移よりも高かったような……」


 たしかスキルを値段の高い順にソートしたときに転移よりも上にあったはず。


 「ーー円です」


 「ん?」


 「十億円です」 


 こうして俺の異世界金策生活は振出しに戻ったのであった。


 


 


 

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