第295話

生首ダンジョンから帰った翌日の朝。


「ん……ふがっ」


すやすやと熟睡する俺であったが、何かが鼻をぽんぽんと触れる刺激で盛大にくしゃみをして目を覚ました。


「クロ……」


半ば無意識であったが、鼻をぽんぽんと刺激するものを俺はしっかりと握りしめていた。

不機嫌そうにぴこぴこと動くそれは、クロの尻尾であった。


俺の上で毛づくろいしていたクロの尻尾。それが俺の花をぽんぽんと刺激していた物の正体である。


せっかく優しく起こしてやったのに、なに尻尾握りしめてやがんだこの野郎。

そんな視線が俺へと突き刺さる。


「ごめんて」


そんな理不尽な。

そう思わなくもないが、自然と謝罪の言葉を口にしていた。


クロの返事は鼻への猫パンチであった。



飼い猫に起こされる。

人によってはとても幸せなことだろう。

たとえそれが、腹が減ったから飯を用意しろという理由であっても。


俺? 言わんでも分かるっしょ。


「カリカリとチュールね」


クロ用の食器に、カリカリをなみなみと入れ、チュールも一本別皿で用意する。

ここ最近のクロの朝食は、毎度こんな内容である。

クロ的に朝はこの組み合わせが良いらしい。


「とりあえず、今日からはカード出るまで狩りまくるつもりだけど、クロは予定とかへーき?」


今日の予定を尋ねた俺に「にゃん」と可愛くかえすクロ。


「え、今度はカリカリの開発を……?」


どうやら予定があったらしく、チュールの開発だけではなくカリカリの開発にも携わることになったそうだ。

いつのまに……というか、チュールがあるのにカリカリも開発するのか、と首を傾げた俺にクロは「にゃあ」と鳴く。


「なるほど。俺にとってのお米ってことか」


クロ曰く、毎日ステーキだけ食う生活に耐えられるか? と、人が主食として米を食うように、猫はカリカリが必要なのだ。人はよりおいしく、病気に強く、収穫量の多いお米の品種を開発している。それと同様にカリカリの開発が必要なのだ・とのこと。


なるほど確かにその通りだと思う。


「じゃあ、その日と前後はお休みにしよっか」


そんな大事な用事があるのであれば、前後に狩りをいれるのは良くないだろう。そう思い、狩りをする日を決めた。




「でないよー。飛竜のお肉あきたよー」


まあ、カードってそんなあっさり出ないんですけどね。

狩りまくってるせいで、ここんところはずっと飛竜のお肉を食べてる。

美味しいんだけどさ、やっぱ飽きるんだよな。


てか、カードを集めるたびに、毎回にたようなことを言ってる気がしなくもない。

羊とか。


と、まあ喫茶ルームでクロの背に顔を埋めながらぐだーっとしていると、背後から声が掛かる。


「カードでないのー?」


「でないんす……」


北上さん……じゃなくて遥さんだ。

もう生首ダンジョンじゃないから、下の名前でよばないとね。



北上さんは俺が飛竜のお肉に飽きてるのを聞いて、ご飯に誘いにきてくれたようだ。


「燻製って自分で作れるんすね」


「そりゃそーだよ」


ご飯は遥さんお手製のベーコン。それをたっぷり使ったベーコンエッグを山盛りご飯に乗っけて醤油を垂らしたやつだ。

単純にくっそ旨いやつである。


燻製かー。

作ってみたいなーと思ったことはあるけど、難しそうで手を出したことはないんだよな。

遥さんの作ったベーコンは、ちょっとしたお店で買ったのに引けを取らない出来だ。

無人島にいった時に、教わりながら一緒に作るのもありかも知れない。



と、まあそんな感じで、ちょいちょい心のダメージを回復させつつ狩り続けていたのだけど。


「でったー!」


10日ぐらいでやっと出たよ。


「よっしゃ、これでおさらばだ糞トカゲ共めー!!」


ちょっとテンション上がりすぎて、お下品な言葉が出てしまった。

でもしょうがないよね。10日間狩り突けてやっとでるとか、まじふぁっきん。


いつもだったらクロから冷たい視線がくるところだけど、さすがのクロも飛竜ばかり狩るのは飽きたのか、香箱座りで眠そうな目をこちらに向けている。


俺も一時的にテンション上がってはいるけど、さすがに結構疲れた。

とりあえずゲートキーパーの顔だけ拝んで帰って寝るとしよう。


「ゲートキーパーはどんな奴なのかなーっと」


ちょいと豪勢な扉を一気にドーン! ……ではなく、盾を構えて慎重にあける。

いや、何飛んでくるか分からんしね。うかつに飛び込んで、ここのマップみたいに地面がありません! とかもあり得るしさ。

慎重にいくのが一番なので。


「おーぷんせさみー!」


そう、声だけ勢いよく、そーっと扉を開けて……何も飛んでこないことを確認してから中を覗き込む。



「……は?」


水面、空中ときて、次にきたのは……辺り一面の溶岩だった。

まじふぁっきん。

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