第262話
「次いくぞ次ぃっ」
なかったことにするらしい。
「次はどっち行く?」
中村はそういうと俺からカメラを受け取り、クロと太郎へと向ける。
「あー、はいはい。太郎な」
それに反応したのは太郎だ。
中村の顔を高速でなめて、俺の番だとアピールしている。
これ、常人がやられたら皮膚とかごそっと持っていかれそうだな。
犬の下は別にザラザラしている訳じゃないけど、勢いがすごい。
まあ、中村はすでに常人ではないので大丈夫なんだけどね……ちょっと顔中よだれでベットベトになっただけである。カメラが無事なのが救いだね。
「太郎の番だけどさ、犬の戦い方だから人の参考にはあまりならんのよな」
顔をぐいっとぬぐい、カメラをいじっていた中村が、ふと思い出したようにつぶやく。
まあ参考にはならんだろうな。クロの時点で分かってはいたけれど。
「中村ならどう戦う?」
「俺? すれ違い様に首をバッサリかな」
「だよね」
安定の首。
下手に死にかけるとスキル使ってくるからね。
首を落としてしまうのが一番だ。
頭をつぶすのもありっちゃありだけど、角をがっつり食らうリスクがあるのであまりやらない方が良いと思う。
「ただ俺の場合、複数同時だと毎回狙うのはキツいから……やっぱ脚を潰すかな」
確かに。
「脚さえきっちり潰しておけばスキルも怖くないし……一撃で決められる時は首で、それ以外は脚狙いで良いんじゃねーかな」
レベルがだいぶ上がっているならともかく、低いうちは足にダメージ与えて、動きを止めておいた方が良いか。
てかなんか解説っぽいな。
太郎が戦うから視聴者さん用に解説しとんのかね。
「ああ、そうそう。強化素材で靴を強化してなければ、相手の突進を受け止めるとかは考えない方がいいぞ? 質量差あり過ぎてひかれるのが落ちだから」
「ひかれたんだ?」
「おう。あばら折れたぞ」
わざわざ試してみたのだろうか……?
チャレンジャーだな! あの質量相手だと普通は受け止めようとか考えないと思うけど。
牛さんは体もでかいし、パワーもあるし、美味しいし、スキルもあるしで結構な強敵だよね。
強敵なんだよなー。
「ところで次って牛さんだけど、太郎だけで大丈夫?」
そういえば太郎ってどのぐらい強いんだろう。
もしきついようなら、誰かがサポートに入って戦ったりしないとだ。
俺の質問を受けて……中村は肩をすくめて首を振る。
知らんか。俺もだよ。
それならば北上さんはと顔を向けると。
「一対一なら問題なく勝てるよー」
と、手を振り答えてくれた。
「あ、そうなのね。なら大丈夫か。俺の方で1匹残して倒せばいいかな」
「んじゃ、太郎がんばって」
「ばっちり撮ってやるかんな」
小部屋の前で太郎にそう声をかけると、太郎は嬉しそうに尻尾をぶんぶん、ぶんぶん振りながら小部屋へと突入していく。
中に居る牛さんは全部で4体。
俺は太郎が一対一にもっていけるように、久しぶりに投げナイフを取り出して牛さんへと思いっきりぶん投げる。
「おっし」
スコココンッといい音がして、牛さんの眉間にナイフが根元までぶっ刺さった。
投げたナイフは全部で3本。これで残る牛さんは一体だ。
小部屋に飛び込んだ太郎は一直線に牛へと向かって行く。
対する牛さんは、角でかちあげるつもりなのだろう。頭を低くしてこちらも太郎へと一直線に向かって行く。
角が触れる直前、太郎は横に飛ぶ。
太郎のすぐ横を角が通り過ぎていき、すれ違いざまに太郎が前足を動かしたのが見えた。
「おー」
「しっかり足狙ってんなあ」
牛さんの片足が半ばから断たれていた。
おそらくクロの爪と同じような攻撃をくわえたのだろう。
太郎はそのまま牛さんの背後をとるように動き、残った後ろ足へも攻撃を加えていく。
そして四肢がやれてまともに動けなくなったところで、首元へと噛みついた。
そしてギュルッと体をねじり、ごっそりと肉を抉り取る。
「戦闘に関しては賢いな?」
きっちり動きを止めて、それから急所狙うあたり結構すごいなーと思う。
さっきまでの太郎からは想像できないね!
「おしおし、よくやった」
首への一撃が致命傷となり、牛さんは程なくして動きを止めた……てか噛み付いた状態から体を回転させるの中々えぐいな。
クロも出来なくはないんだろうけど、どっちかと言うと切れ味重視ですぱっと斬る感じだもんな、クロは。
犬と猫で武器に差異があるのか、それとも単に体格とかが影響しているのか……なかなか面白い。
みんなで太郎のお腹をワシワシ撫でていると、クロがふんっと鼻をならして小さく『にゃ』と鳴いた。
「なんて?」
「まあまあだってさ」
「きびしい!」
まあ初見の時はダメだししてたし、それから比べればまあ……一応褒めてるんだと思うよ。
ただ大っぴら褒めると調子に乗りそうだからとか、そんなん考えてまあまあで済ませたんじゃないかなーって気がする。
さて何時までも撫でているわけにもいかないし、次に行こう。
「んじゃトリはクロか」
俺がそう声をかけると、クロは少し尻尾をゆらして『にゃー』と鳴く。
バックパックを預かってとの事だったので、クロの背から外して懐に抱えると、クロはスッと他立ち上がった。
そのまま荷物持ちと化した俺は、前を行くクロの後をついていく。
勿論ほかのメンバーも一緒だよ。
「龍化するところからお願いしてもいい?」
小部屋の前についたので、戦闘の前に龍化シーンを撮影させてほしいとお願いする。
……後ろ足で頭をガシガシかいていて、あまり聞いてなさそうだけど……大丈夫かな。
「いででっ」
代わりに俺がかいてあげようと手を伸ばしたら、がぶりと手を噛まれたぞ。
甘噛みだけど地味に痛い。
常人の手なら穴が開く……というか歯形にそって手がなくなると思う。
「なにしとんの……どんな姿なるんだろうな」
「そりゃ見てのお楽しみってことで」
俺の腕を抱えて後ろ足で蹴りをいれまくっていたクロであったが、やがて満足したのかフンスと鼻をならすと龍化をはじめた。
……俺の腕を抱えたまま。
これ、大丈夫よね?
急にパワーアップして、腕折れたりせんよね?
「お、おぉ……おお!? そうきたかー!」
「可愛かろう」
「なにこの可愛いの」
幸いなことに、クロは龍化を完了すると同時に俺の腕を開放してくれた。
龍化したクロの姿はまるまるとしていて、俺がわざわざ言うまでもなく可愛いとわかる。
思わず撫でてしまうのも仕方のないことだろう。
……お腹は高確率で嫌がるので、撫でるなら喉とか頬だな。ぐるぐると喉を鳴らしているし、クロも気持ちいいのだろう。
他に撫でる場所としては、頭でもいいけどそこはあまりお肉がついてないんだよなー。
「いつまで揉んでんだよいくぞっ」
おっと。
「クロの相手はアイスリザードだっけ」
「確かそうだな。あいつら堅くて苦手なんだよなー」
苦手とな?
そういやレベル的に丁度アイスリザード相手にしてるあたりだよな。
「ゴブリンカード揃えてないん?」
「二枚持ってる。だいぶ楽になったけど、まだちょっとなあ」
なるほどねー。
ほんっと堅いからなあいつら。
と、適当に相槌を打ちながらクロをひたすら撫でる俺。あと北上さん。
もうちょっと、あとちょっとだけ……。
「ちっこいけど翼ついてんのな」
ん?
「へ? ……あ、まじだ!」
中村に言われてなんのこっちゃとクロの背中をみると……ちっこい翼があった。
生えてるんじゃなくて、ちょっと背中から浮いてんなこれ。
「まじかー……お腹にとかに夢中で気付かんかった」
てっきり完全に猫な見た目になったもんだと思って、背中をよくみてなかった……不覚。
「がち凹んどるな」
「ショックだ」
お腹がぷにぷにしてるのがあかんのだっ。
……はあ。
まあ、それは一旦置いといてだ。
とりあえず戦闘場面を撮影しよう。
サクっと終わるだろうし、あとはBBQ広場にいってからじっくり観察すればいい。
「まったく参考にならんなっ」
というのが戦闘をみた中村の感想である。
「クロ、あのトカゲ嫌いだからねえ……」
俺もこれには同意するしかねえ。
クロは戦闘が始まると同時に、ふわりと宙に浮かび……トカゲの頭上へと向かうと、そのまま弱めのブレスを吐いた。
コンガリ焼けた。
真似できるの俺だけじゃん。
「太郎それ食べ物じゃないか」
香ばしい匂いに誘われてか、太郎が嬉しそうにトカゲの周囲をぐるぐると回っている。
尻尾ぶんぶん激ふっているし、あれ食い物としか認識してないな。
食いつかないのはやっぱある程度躾けされてるからだろうな。
俺らがよし! って言うのを待っているのだろう。
「腹減ってんだな。とりあえずBBQ広場にいくか。編集もそこでやりゃ良いし」
だが食事はBBQ広場に向かうまでお預けである。
『クーン』と悲し気に鳴く太郎を抱えて俺たちはBBQ広場へと向かうのであった。
BBQ広場に戻ると中村はすぐに編集作業にはいる。
料理のほうはマーシーにお願いしてあるので、編集作業が終わるころを見計らって出してくれるだろう。
まあ、それだと太郎が辛そうだったので、適当に薄切りのお肉を用意してもらって、太郎には先に食べさせておいたよ。
「んじゃ、とりあえずアップしてくぞー」
太郎にお肉を与えている間に中村の編集作業が終わっていた。
はやいなほんと。前にやった時よりさらに早くなっている気がするぞ。
ダンジョン内だからだろうか?
「顔は映さないよう気を付けてね」
「おうよ。映ってても編集でどうにかすっから安心せい」
あとでBBQ広場の様子も上げたいからね。
食事風景なんかも追加で撮影するよ。
こっちの動画を上げるのは食い終わってからかな。
さて、今回はどんな反応あるだろうか。
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