第224話

とは言え、まだ接敵するまで少し時間があるのだよな。


都丸さん達は他の隊員や米軍に、敵へは俺が一人であたることを伝えに行った。

少しだけ手持ち無沙汰になった俺はクロの元へと向かい、しゃがみ込む。


「ちょっと戦ってくるから、クロは大人しくしといてね?」


頭を撫でてもクロは嫌がる素振りは見せなかった。

ただチラリと俺へ視線を向け、小さく『にゃ』とだけ鳴いた。


さっさと済ませてこいと言うことだろう。


クロとしては今日は移動で疲れたので、はやく落ち受けるところで休みたいんだろうね。俺もそう思う。


さて、そうなるとますます全力でやらないといけないな。

クロにも発破掛けられたことだし、接敵もそろそろだ。

良い感じに気合い入ってきたよ。




そんな、やる気を見せている俺をみて、北上さんがそろー……って感じで話し掛けてきた。


「……一応ガードしといたほういいかなー?」


「だい……そうっすね、お願いしてもいいです?」


大丈夫、と一瞬言いかけたけど、念のため北上さんに盾でガードをお願いしておく。

なんとなくだけど、この状態で全力で戦えばまわりにどれぐらいの被害が出るかってのは把握している。

距離を少し開ければ、荷物は転がるかもだけど、人に被害は無い程度だ。


ただ、実際に戦って確かめた訳では無いので念のためお願いしたのである。



「おっけ、思いっきりやっちゃいなー」


「うっす!」


北上さんにも発破掛けられてしまった。

これはもう頑張るしかない。山羊には悪いが犠牲になってもらおう。なむさん。



さて、どう戦うかな。


山羊だけど、もう大分近くまで来ている。

しかし独特な走り方だなあ……近いのはゴリラかな? 後ろ足に比べて前足がかなり発達してんのよね、こいつ。


まあ……普段通りで良いか。

と言ってもいきなりブレスぶっ放して、はい終わり。じゃ味気ないので、最初はブレス抜きで戦うけど。



とりあえず、もう少しだけこちらか近付いておくかな。

山羊のターゲットが他にいったら面倒だ。


そう考えた俺は、肩に担いでいた鉈を下ろし、竜化する。

ミシリと音を立て、具足や肉体が変化していく……まわりのざわめきが大きくなる。


戦闘態勢に入ったことで鉈に、全身に紫電が走る。

俺は山羊に向かい駆け出した。


「首かな、やっぱ」


近付くと弱点がよりはっきりと分かる。

体の中心部より、頭部を狙った方が良いと尻尾から伝わるのだ。



近付いた俺に対し、先頭を進んでいた山羊は身を起こして前足を振りかぶる。


「ひとーっつ」


振りかぶったその格好のまま、山羊の首が飛ぶ。体を紫電が走り、四肢を通って地面に抜ける。四肢の先端は弾け、頭部も同様に弾けた。


俺は山羊のやや斜め後方の上空で、鉈を振り切った恰好でその様子を見ていた。


振りかぶった山羊の動きに合わせて俺も跳躍し、首に向かい鉈を思いっ切り振るっていたのだ。


恐らくは即死だと思う。

だが、相手はスライムに似たなにかだ。念のためコアも潰しておいた方が良いだろう。


そう思った俺は落下中に身を翻して、山羊の背中に鉈を突き立て、衝撃波を放った。

血と肉と臓物をぶちまけ、山羊の胸に風穴があいた。



そのまま山羊の背中を駆け下りると、すぐに次の山羊がこちらへと攻撃を仕掛けてきた。


もう腕を振り下ろす動作に入っており、タイミング的に隙を突いて首を狙うのは難しそうだ。


なので俺は振り下ろされた腕を躱し、腕を肘から切断する。

山羊の体がビクリと震え、動かなくなる。


やはり生物には雷はかなり有効のようだ。


俺は動かなくなった山羊に向かい、鉈をすくい上げるように大きく振るう。


「ふたつ!」


いくらリーチを伸ばしたからといって、刃が届くことはない。だが衝撃波を飛ばすのであれば話は別だ。


鉈から放たれた衝撃波は、山羊の体を押し潰すように左右に両断した。


これなら頭部もコアも両方同時に潰れているので追撃は不要だ。



残りの山羊は三体。


こいつらはブレスで仕留めよう。

そう考えた俺は山羊の懐に潜り込むと、思いっきり蹴り上げた。手加減無しの本気の蹴りを受けた山羊は、真っ二つ……とまではいかないが、内臓をまき散らせながら上空に舞い上がる。


そして、残りの二体も同じ運命を辿る。



上空にはろくに身動きの取れない山羊が三体。

致命傷にみえたが、山羊の体がモゾモゾと動き、ドロリとした液状へと変わっていくのが見えた。

蹴りのダメージを回復するつもりなのだろう……いずれ回復するだろうが、俺は回復するのも落ちてくるのも待つつもりは無い。


「吹き飛べっ!」


そう気合いを入れて叫び、ブレスを全力で放った。

上空で身動きが取れず、避けられる恐れが無いのでブレスは最初から絞ってある。

紫電を纏った太い、ビームの如しブレスが上空へと伸びていき、山羊を飲み込み跡形もなく消し飛ばした。


「んん、絶好調」


上空を見上げたまま、俺はそう呟いて、息を吐く。


視線を下ろせば俺を中心に地面が赤熱してガラス状へと変化していた。

周囲の気温は当然ながら高温だし、地面が溶けるだけの熱量を俺も浴びたわけだが……熱いとは感じなかった。

身に付けた防具で完全に遮断しているのだろう。


「やっぱリーチ長いと、でかぶつ相手にするには良いなあ」


確かめるように鉈を振るい、呟く俺。


重さはさほど気にならない。

元々得物に対して筋力が有り余っていたからだ。


とはいえ重くなっているのは確かなので、多少動きを阻害してはいるだろう。

もっともそれも具足のお陰で気にもならない程度の影響ではあるが。


それよりそんな小さなデメリットよりも、リーチが伸びたことによって切っ先の速度が増して威力が上がった事の方が重要だろう。


切っ先の速度が上がりすぎて、刀身全体が赤熱しているのが少し気になるが……握った手が焼けるといったこともないので、スルーしても構わないだろう。


「んん?」


さて、山羊も全て仕留めたし皆の元へと戻ろうか。

そう思い後ろを振り返ると……なぜか米軍が側に集まっていた。


え、なに、俺なんかした??

巻き添えで誰か吹っ飛んだ……とか? やべえ、どうしよう。

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