第215話

「意外と少ないっすね?」


ダンジョンに常時潜っている隊員さんは少なくても1000人単位、常時じゃなければ万に近いぐらい居たと思った。

でも、この場に居るのは100も居ないだろう。


「さすがにねー、ダンジョン攻略組全員で行くのは断ったらしいよ。行くのは上位50人だけだね」


「なるほどー」


いくらなんでも全員でいっちゃ日本のダンジョン攻略が滞るからなあ。

ポーションだって、まだまだ数が必要なんだから、貴重な戦力である隊員さんを全員とか、そりゃ無理な話だ。

それだけ数が多いと、空路じゃなくて海路になりそうだし、余計だろう。



あの一角だけ暑苦しいなーとか思いながら眺めていると、北上さんがちらりと顔を覗き込んでくる。


「島津くんって飛行機乗ったことある? って、BBQ広場で乗ってたね」


「そっすね」


空港内の様子……正確には隊員さん達の様子だけど、とにかく空港内を見ていたから、飛行機に乗ったことがないのかもと思ったのかもね。


「一応普通の飛行機も修学旅行の時に乗ってますよ。一度だけっすけど」


BBQ広場のあれを乗ったことがあるにカウントしていいのかはわからんけど。それとは別にちゃんと乗ったことはあったりする。

学校によっては下手すると青森までフェリーで行って終わり……となることもあるらしいが、俺が通っていた学校は関東まで飛行機に乗って行ったのだ。



その後、修学旅行の思い出などを北上さんと話している内に出発する時間がきたようで、俺たちの元にいつもの隊員さん達が集まってきた。


「そろそろ乗り込むぞ」


そう話しかけてきたのは都丸さんだ。

その姿に俺はふと違和感を覚える……なるほど、珍しくメガネをかけているからか。

紫外線カット用かな? なかなか似合うと思います。


「お前らずいぶん気楽な恰好だな」


そう言われて俺……と北上さんは自分の服へと視線を向ける。

……まあ、私服だね。ただ、いかにもお出掛け用って感じの私服。ちなみに北上さんに選んで貰ったやつだったりする。


一方、他の隊員さんはと言うと……地味な恰好しかおらんな。

やらかした?


「まあ、向こうもバケーションのつもりで来て欲しいって言ってましたし、良いっちゃ良いんじゃないっすかね!」


ほほう。

その割にあなた、地味な恰好ですよね。

俺たちだけ目立つじゃん! 大野さんも犠牲になれよぅっ。



「二日ほど自由に動ける日があるそうですね」


お? まじか。


お土産買いに行かないと。

カラフルなお菓子かわなきゃ。


と、自由時間が結構あると知って、何やら使命感に燃えている俺をみて、都丸さんは苦笑する。


「多少遊ぶのは構わんが、最低でも誰かと一緒にいろよ? できれば大勢が良い」


「そりゃ当然だな」


見知らぬ土地を一人で歩くつもりは無いので安心して!

治安悪いだろうし、みんな銃持ってるし、一人で歩いたら絶対トラブルになるだろうさ。そのへんはわきまえてるつもりである。


まあ、いつものメンバーで動けば、まあ問題ないだろう。

クロも連れてお土産屋さんとペットフードコーナーにでも……ん? あれ?


「そういや太郎はどうしたんです?」


いま気が付いたけど、太郎がおらんぞ。

いや、この場に犬がいちゃいかんのだけどね。


でも、クロみたいに特別に許可がおりれば……うるさいからもう積み込まれたとか?


「留守番だな」


「あー」


なるほど、そっちか。

……ダンジョンに潜って賢くなっているだろうけど、空港内をはしゃいで走り回る姿を想像するのは容易い。


「多少強くなってはいるが、まだ下から数えたほうが早いからな」


「あ、なるほど」


ごめんなさい。太郎。


単に50人の中に入ってなかっただけだったわ!

どうも最初の印象が抜けきってないようだ。


きっと、次に出会ったときには成長した立派な姿を見せてくれることだろう。



……さて。

乗りますかね。


アメリカは遠い。

いくら飛行機と言えども半日は掛かる。

今回はDC経由だかなんだかで、20時間ぐらい掛かるとかなんとか……いや、掛かりすぎっしょ。


「……ぶっちゃけ暇っすね」


20時間も機内とか地獄だ。


「映画みるか寝るかしかないからな」


ほんとだよ!

クロを撫でていれば、時間を忘れて過ごせるけど……なですぎてご機嫌斜めになってしまったのだ。手を伸ばそうとすれば、ギロリと睨まれる。あかん。



うーむ。

しかし暇だ……いや、まてよ。

機内にいるのって関係者のみだよな。多少はめを外しても良いんじゃないか?


そう考えた俺は、さっそくとばかりにゴソゴソと荷物をあさりだす。


「トランプでもします?」


「持ってきたのか」


「まあ、旅行みたいなもんなんで」


そして取り出したのは旅行に付き物のトランプである。

泊まった先でやろうと思ってたんだよね! まくら投げとかも楽しそうだけど、俺らがやると壁を貫通しそうな気がして……ないと思うけど念のためね。


これなら数時間は潰せるだろう。

その内眠くなるだろうから、そしたら寝てしまえば良い。起きたらアメリカ着いてることだろう。



「久しぶりにやると楽しいもんだな」


「そうっすね!」


トランプ楽しいです。


みんな結構マジになって遊ぶので、ついつい熱中してしまう。

スピードとかやばいね。トランプが風圧で割れたから禁止になったけど。予備があって助かったわ。


ババ抜きなんかも、みんな能面みたいな顔してやってる。

よきかな、よきかな。




「そういや、向こうについてからの日程ってどうなってるんです?」


トランプはいったん止め、お茶タイムとなったのでアメリカについてからの日程を確認しておく。

まあ、俺もざっくりとは聞いてるんだけどね、ざっくりなんだよな。


まあ、俺に関係するのはダンジョンに潜ることぐらいだろう。

でも他の人は色々とイベントあるだろうし、そのへんの予定を聞いておきたかったのだ。


「まず、ダンジョン近くの基地に移動して顔合わせと歓迎パーティーに参加」


へー、やっぱそう言うのあるんだー……って思ってたら、都丸さんがじーってこっちを見ている。

え、俺もでんの??


「え……俺、英語できねえですよ」


おうち帰りたい。


「通訳ぐらいつく。あとは英語出来る奴と一緒にいるかだな」


「それならまあ」


英語出来る人って誰だ。

都丸さんとか普通に出来そうなイメージあるな。


俺もパーティーに参加するなら、色んな人から声が掛かるだろう。

そしてそれは都丸さん達も同じはずだ。何せ自衛隊内で一番攻略進んでるんだから。


都丸さん達から離れても話しかけられるし、一緒に居ても話しかけられる。

それならずっと一緒にいたほうがいいだろう。逃がさないよ。


……それにあまりにも声を掛けられるようなら、クロに相手をしてもらうか?

アメリカも尻尾は行き渡ってるはずだし、猫の言葉も分かるだろう。


クロならしつこい相手もばっさり切ってくれるに違いない。

なにせお猫様だ。人間の都合なんぞ知ったことかなのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る