第207話

とりあえず1階へと戻った俺とクロは、今後のことについてどうするか相談しようと喫茶ルームに向かう。

昼にするにもおやつにするにも微妙な時間なため、客は俺たちだけのようだ。


その方が気兼ねなく相談出来るので、今はありがたかった。


適当に飲み物と摘まめるものを手にし、クロと相談を始めるがなかなか良い案は出てこない。

まずどう移動するかであるが。


「どうすりゃいいのさ……クロに跨がって……ないな。それはない」


猫に跨って空を飛ぶとかさ、色々とダメだろう。

一応飛ぶだけなら飛べるとは思うよ? でもバランス悪そうだし、戦闘するのも大変だろうし、何より見た目がよろしくない。


「クロが俺を咥えて運ぶのもなあ……口が塞がるのはよくないよな」


親猫が子猫を運ぶときみたいに、クロが俺の首根っこを咥えるってのも考えた。

ただこれはクロの攻撃手段を一つ使えなくすることになっちゃうのだよな。

悩ましい。


空を飛びながら戦うのはやはりと言うか難しそうである。

そうなると飛ばずに戦うことは出来るのかって考えて、まず手持ちの遠距離攻撃手段を思い浮かべる。


氷礫と投げナイフと衝撃波にブレスとクロの新しいスキル。

こんなもんか。


このうち氷礫と投げナイフはすぐ除外された。

氷礫は速度が遅いのと、投げナイフは一度投げたらそれっきりだからだ。


で、衝撃波はどうかと言うと、これは射程がそこまで長くないので除外。


「クロのなんとか蛇神のスキルでいけるか? 射程が足らない気がするけど、近付ければなんとか……どうやって近付くって話か」


正式には双頭蛇神だったっけ? あれも普段使う分には十分射程もあるし、良いスキルなんだけどね。それ以上に飛竜が距離を取ってるもんで使えないと思う。


どうしよう。手持ちの手段だと全部ダメそうだ。


「あとは中村から弓を借りるか……ボードゲットしておけばよかったなあ。ああ、でも装備扱いじゃないかもだし、一度壊れたらダメかも知れないか」


弓を持ってキャッキャッとはしゃぐ中村から、弓を取り上げるというのもまた一興ではあるが、問題は俺が弓を扱えないってのと、飛竜との打ち合いを想定すると、威力で負けそうなところがなあ。


もしかするとイベントの時に景品として出ていたボードはこれを想定していたのかも知れない。

今となっては手に入れるのも難しいだろうけど。


「どうすんべ」


ほんと、困った。

さっきからずっとこれを繰り返してる気がするけど、本当どうしようかな……。




困ったらどうする?

そう、相談すれば良いのだよ。


「そんな訳でなんかいい案ないですか」


悩んでお茶しばいてたら、都丸さんたちが入ってきたので思い切って聞いてみた。


俺の問いに都丸さんは眉を顰め、しばし考えるが。


「どうするって……LAMでも使うか? あたるとは思わんが」


「あてる自信もないっすね」


「まあ、そうだろうな」


そういって肩をすくめる都丸さん。

都丸さんも良い案はないらしい、ぐぬぬぬ。


「こう、自在に空を飛べる装備とかあったりしません?」


ア〇アンマンみたいなスーツがほしいです!

自衛隊なんだし、そんな装備の一つや二つあったっていいと思うんだ。


「ある訳ないだろう」


「むぅ……」


そんな俺の期待もむなしく、呆れた様子の都丸さんにバッサリと切られてしまったのであった。

くそう、どうすんべ。


こうなったら神頼みならぬアマツ頼りか?

とりあえずお茶飲み終わったら行ってみるか。

昨日の今日で居ないとは思うけど……もしかすると居る可能性もあるしね。



お茶を飲み終わり、隊員さん達に一言残してアマツの元へと向かう。

クロはお昼寝タイムに入ったので、喫茶ルームにおいてきた。そのうち目を覚ましたらこっちにくるだろう。


それで、肝心のアマツなんだけど。


「やっぱおらんか。別に緊急の用事って訳じゃないしなあ……」


予想通り5階にアマツの姿はなかった。

いつもであればあのテンション高い声で出迎えてくれるのだけど、やはりイースとやりあったのが相当響いてるのだろう……あの疫病神め。


こうなったらイースに何か……いや、碌なもんが出てこなさそうだからやめておくか。

いや、でもなあ……もしかすると、もしかするかも知れないし。



なんて、どうするか踏ん切り付かずにいたけれど、気が付いたときには俺は家の玄関で靴を脱いでいた。


……しゃーない、聞くだけ聞いてみるか。

そう思い、リビングへ向かうが……。


「やあ、お困りの様だねえ?」


「……」


イースがニヤニヤと笑みを浮かべて俺を出迎えた。わざわざ扉の前まで自力で転がってきたようだ。

ぴしっと額に血管が浮かんだ気がした。


「私に任せると良いよ。そう、今君が必要としているもの……ちょっと待ちたまえっ、どこに行こうというのだね?」


俺は扉を閉めて、再び玄関へと向かうと靴を履き直す。

後ろでイースがなにやら喚いているが無視だ無視。




「……はぁ」


俺は大きくため息をつくと、再びダンジョンへと向かうのであった。

しばらくはクロでも撫でて癒されよう。




その日の夜。

あんなことがあって家で過ごす気にもならず、クロと二人でBBQ広場でダラダラと過ごしていると、夕飯を食べに来た北上さんと遭遇した。さっき喫茶ルームでは見かけなかったが、他の隊員さんとは別行動の日だったようだ。


どうも親戚からブリが大量に届いただかで、一緒に食べない? と誘われたので、夕飯をご一緒することに。


「ブリしゃぶ美味しいねえ……また送ってもらっちゃうかな」


「臭みもまったく無いし、これすごく良いブリだね」


ブリしゃぶ大変おいしゅうございます。

個人的にはしっかり目に火を通したほうが好み。


「クロ、なんかおっさんぽいぞ」


もちろんクロもブリしゃぶを食べてるよ。

ただ食いすぎたのか、椅子にもたれかかり寛ぐその様子はどう見ても酔っぱらったおっさんである。

俺の言葉に一瞬こちらをじろりと見るクロであるが、動くのが億劫なのかそのままプイっと目をそらしてそのまま動かなくなる。

寝たのかな?



そのまま暫く食事を続け、食後の一服をしたところで例の飛竜についての話しになる。


「はー。今度は飛竜が出てきたんだ」


「そーなんすよ」


シーサーペントの次が飛竜と聞いて、北上さんはやっぱりかーといったような表情でそう言った。

陸に海ときてるから、次は空でもおかしくはないってことだろうか。

そうなると次はなんだ? 地中とか、それとも宇宙とか? 宇宙とかきたら息できないから積むんですけどね。さすがにアマツもそんな酷い事はしないだろう。フラグじゃないからね? もしやったらイースの生首投げつけるかんね。


「しかも足場がないと……どうしようね?」


「いや、ほんとどうしようかと」


まじで積んでるよねこれ。


「ならさ、もう飛んで行くしかないんじゃない? その浮島に」


ん? どゆこと?


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