第165話
「人結構いるねー……」
ロビーに入り、辺りを見渡してそう呟く北上さん。
まだ開催まで1時間近くあるというのに、建物内には既に大勢の人が入っていた。
俺と北上さんもそうだったけど、楽しみすぎてついつい早く来すぎてしまった……そんな人がいっぱい居るのだろうね。
しかしあれだ。
「正装してる人が多い……目立つかなこの格好」
俺の恰好もろ普段着なんだよな。
北上さんは下にスラックス?みたいの履いているから大丈夫だけど……まあ、普段着っぽい人が他に居ない訳ではないので大丈夫と思う事にしよう。
さて、このままロビーで待っているのもあれだし、さっさと受付を済ませて席についてしまうかな。
受付は……あそこか。
招待状を取り出し、北上さんと共に受付へ向かうが……北上さん、そして俺へと視線を移した受付さんの体が、びくっと揺れる。
視線の先にあるのはクロくてもふもふしたマフラーである。
今もモゾモゾと動いていて、とても暖かい……。
「あの、お客様。ペットのご入場は……」
「マフラーです」
「えっ」
「マフラーです、これ」
やだなあマフラーですよこれ。
「……しかし、動いている様に見えますが」
「20階層で入手できる装備ですよ。凄いでしょう?」
誰が何と言おうがマフラーです。
俺はニコリと歯を剥いて、招待状を受付へと渡す。
「……失礼致しました。ごうぞ、お通り下さい」
びくっと身をすくませ、招待状を受け取った受付さんであるが、招待状をちらっと一瞥し……小さくを息を吐くと、そう言って俺たちを通してくれたのであった。
やったぜ。
「ゴリ押しで何とかなるもんですねー。はははもごぉぅ」
ニコニコと北上さんと話していたら、口に前足突っ込まれた。
クロくてもふもふしたマフラーの正体……それはクロである。
招待状2枚貰ったけど、3枚はさすがに無理だったんよね。
クロも行きたかったらしいし、一緒に行かないという選択はない。でも北上さんとも行きたい……で、選んだのがクロにマフラーのふりをして貰うと言う作戦である。
まあ、見事に見破られた訳だけどね。
ごり押しで行けたので問題なしである。
ちなみに他の隊員さんは皆落選してたっぽい。
ゆるせっ。連れて行けるのは一人だけなのだ。
とまあ、そんな訳でマフラーのふりをして貰っていたクロなんだけど、ずっと窮屈な状態で身動きせずにいたもんで虫の居所が悪いようだ……どうしたものか。
「……え、チュールタワー?10個??」
悩んでいると、クロからチュールタワーの要望があった。
……てめぇ分かってんだろうな?と言わんばかりの目で睨まれた俺は、あっさり承諾するしか無かったのである……。
てか、チュールタワーってなんぞ。そんな商品あるんかいな。
……と思ってスマホで検索したら本当にあったわ。
飼い主の俺が知らないのにクロってば……ま、まあクロだし、今更だよな、うん。
……よし、とりあえず受付済ませたし、席に向かうとするか。
クロも落ち着いたみたいだしね。
「それじゃ、席に行きましょうか」
「え、こっち……?」
北上さんを連れて席に向かう訳だが……向かうのは目の前にある大きな扉ではなく、階段だ。
貰った招待状だけど、これ1階じゃないのよな……それどころか、どうも普通の席じゃないような?……いやいや、気のせいだ気のせい。
「見やすくていいですねー」
着いたのは2階席だった。
しかも一番前なのですごく見やすい。
「ここ、VIP席なんじゃ……」
それを言ってはいけない。
……いや、まさかこんな良い席だとは思わなかったんよ。
他の席と壁で区切られてるし、ここってあれだよ、すんごいお金持ちの人とかが入る席だよ。しかもまだ何席か空いてるし、まだ人が来るって訳だ。やべえですよ。
北上さんの手前なんとも無い風を装っていたけど、内心冷や汗だらだらだ。
だがしかし、猫にとってはそんなものは関係ない訳で。
「わっ、っと……クロあまり動き回らないようにね」
「よく我慢してたねー」
席に着いたと分かったクロが俺の首元から飛び出し、辺りの匂いをフンフンと嗅ぎ始めた。
「クロも出品してるんで見たかったらしくて……」
「クロが出品って、普通に考えるとすごいよね、それ」
いや、ほんとね。
可愛いし、強いし、賢いし、可愛いし本当に凄いと思う。
自衛隊さんも早く猫を……って、そういやあれどうなったか聞いてなかったな。
「本当ですね……そういえば北上さん達も動物を同伴させるような話あったと思いましたけど、あれってどうなったんです?」
「ちょっと難航してるって話だねー。モンスターと戦えて、それでいて連れて行っても問題ない子って少ないらしーんだよね」
ほうほう。
「強いけど気性が激しいとねー。……猫が良いと思うんだけど、そっちは対面的に不味いとかって噂」
「あー……」
そっか、そうだよね。
いろいろ問題あるよな、やっぱ。
猫をダンジョンに連れてくとか、普通に考えたら非難すごそうだよな……。
と、なると犬か。
犬なら良いのかって話だけど……犬はガタイが良くて、元々狩りを一緒にしてたりするし、向いてるとは思うんだよね。んまあ、楽しんで潜れる子が見つかるといいねーと思う。
てか見つからないと隊員さんの心が死んでまう。
「そう言えば島津くんは何を出品したのー?」
む。
「俺はー……20階のポーションを少しと……あとは秘密っす」
ポーションはねー。
お偉いさん方に少し出してほしいってお願いされてたからね。
他にも出したけど……そっちは秘密だ。
クロも何か出してけど、教えてくれなかったんだよね。
お楽しみってことで知らないまま来たけど、いったい何を出したのやら。
「えー、気になるなあ。教えてくれたら私のも教えてあげるんだけどなー?」
おおう?
そんな、にひひーみたいな笑みを浮かべられると気になるじゃないですかー。
……ん?でも隊員さんが出すのって……。
「あれ、ポーションだけじゃないんですか?」
「違うんだなーこれが。さーどうするー?教えてくれるとお姉さんうれしー……っと、ここまでかな」
「ですね」
ポーション以外にも出したのか。
このままお話続けたかったけど……俺たち以外の人が来てしまった。
クロを回収しておかないとだ。
部屋の中にいたクロをみてびくっとしてたし、ごめんなさいだよ。
「開催まであと30分……だいぶ人が増えてきましたねーって、あれ?」
「どしたのー?」
「いえ、結構海外の人が多いんだなーと」
「……ほんとだ」
会場の7割ぐらいが埋まったあたりでちらっと見てみたのだけど、半分は海外の人だった。
……んー?って最初は思ったけど、別に参加者は国内限定にしていなかったし、日本が一番攻略進んでる訳で……良いポーションを欲しいならそら参加するかって話だよね。
お偉いさんとしても日本にお金を落としてくれるなら……って感じ?これが国民のために確保しておいたポーションまで売れとか言う話なら別だけど、たぶんそうじゃないだろう。
「お、始まるかな-?」
そんな感じで時折北上さんとだべったり、クロを撫でたりしている内にオークション開催の時間がやってきた。
「最初はポーションから始まると。これは全部5階のかな」
最初はやっぱり皆欲しいポーションから始まるようだ。
浅い階層から出品し、徐々に階層を上げていくのだろう。
出品されたのはポーションだけではなく、様々なものが出品されている。
品目一覧をみたけれど、ポーションから装備であったり、モンスターのお肉……それにお目当てのカードや宝石もいくつか出品されている。
カードはぱっと見で欲しいのは一つだけあった。それと宝石も……俺達が入手したのとは色が違う奴があったんだよね。これは絶対落札したい。
あと気になるのはいくつかシークレットが存在する事だろうか。
俺が出品したのもそれに含まれている様である。
宝石とかにぶっ込みすぎると、あとでシークレットに欲しい物があって後悔する……とか、なりそうで怖い。
まあ、その辺りの出品は最後の方なので、様子見ながら頑張ろうと思う。
いざとなったら手持ちのカードをガン積みしてでも入手する。
特に宝石はカードと違って出そうと思って出せるもんじゃないしね。
「数が半端ないねー」
「数?……うわっ」
北上さんの言葉を聞いて数を確認したけど……ポーションの出品数がなんと1種類あたり100万個を越えていた。
とんでもない数だね。出品した隊員さんがかなり多いようだ。
会場からもその出品数をみてざわめきが広がっている。
「1個いくらになるのかな」
気になるのはそのお値段だ。
「んー……1万円ぐらいー?あれってその内配布される奴よね」
「ですね」
北上さんの予想は1万円か。
俺はもう少し行くんじゃないかなーと思う。
その内配布されるとしても、早めに手元に置いておきたい!って人は一定数居るだろうし、何も必要なのは人だけではないからね。
とは言え数が数なのである程度の所で落ち着くとは思う。
ちなみに入札の流れだけど、俺たちはDパッドで、それ以外の人はPCなりスマホを使って入札を行う。これは前に言ったとおりだ。
んで、額の高い順からポーションが割り当てられて……全部割り当てた時点で終了となる。
これだと例えば高い人は1万とかで落札して、安い人はそれこそ5千とかで落札出来ちゃうかも知れないけど、その辺は見極めて落札してねって事らしい。
あとで文句付ける人は参加するなって話だね。文句付けたり辞退すると次回参加不可とかのペナルティもあるそうな。
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