第140話
ドラゴンとの戦いを終え、北上さんの怪我も無事治った。
全治祝いをするか?と言う話も出ていたが、さすがに疲れたのでまた後日、と言うことでその日は午後からずっとお休みしていた。
俺もだけど、クロも結構ぐったりしていた感じだ。
もっとも帰ってすぐチュールを漁るぐらいには元気ではあったけど。
んで、ゆっくり休んだその翌日の朝。
俺のもとにある資料が届いていた。
「メーカーさんの報告書。最終版とな……鉱石については現在調査中、と」
中身はダンジョンの素材についての報告書、その最終版であった。
もっともダンジョンで採れた鉱石については調査中らしく、その部分だけは抜けているが……まあ、とにかく中身を見てみよう。
どうも前回より項目が増えているっぽいしね。さてさてどんな事が書いてあるのかなー?
例によって、概要をまとめた資料もあったのでまずはそっちを見てみた。
前回の資料はダンジョンで採れた素材の特性とか、使い道とか色々書いてあったけど、今回はそれに追加でダンジョン内での素材の特性についてが書かれていた。
「ほーほー……なるほど。ダンジョン内外で効果が変わると」
どうもダンジョン内外で素材の特性が変わるらしい。
例えばダンジョンの外で丈夫なものは、ダンジョン内ではより丈夫に。
トカゲの素材であれば、より冷却性能が上がり、熱にも強くなる。等々。
「面白いね。俺もいつか装備作って貰っちゃうかな」
牛さんあたりの皮を鞣して防具とか、鹿の角を加工して刃にしたり、トカゲの皮や鱗などを使って耐熱装備とか……うん、色々出来そうだ。
特にトカゲの素材は対ドラゴン戦でかなり有効なんじゃないかな?
熱にも強くなるって話だし、一撃ぐらいは持つかも知れないね。
アマツもモンスターの素材を使った装備でーって言っていたし、きっと有効に違いない。
とりあえず一通り資料を眺めた俺は、資料をわきに置いて端末へと手を伸ばした。
そして先ほどから毛繕いに精をだすクロを手招きして呼ぶ。
「さってさて……お楽しみのカードの効果確認しようか?」
ドラゴンを二人で突破したことで、アマツからドラゴンのカードを貰っていたのだ。
北上さんにポーションを渡すためにすぐ病院に向かったから、カードの効果をまだ確認してなかったんだよね。
あれだけ強い敵だったんだ、きっとカードの効果もぶっ飛んでいることだろう。
しょぼかったら泣く。
「竜の因子……全ての能力値が大幅に向上する。以下のスキルが使用可能となる」
竜の因子とかなんか格好いいな!
効果は全ての能力値が大幅に向上……それにスキルが使用可能になる、か。
「ええと……威圧、ブレス、竜化」
使用できるスキルは全部で3つあった。
て言うかね。
「ブレスと竜化て……やばい、俺遂に人外と化すのか」
威圧はまだいい。たぶんあれだ、ドラゴンから感じた妙なプレッシャーがそうだろう。
ただねえ、ブレスも竜化も人が使えちゃいけないものだと思うんだけど……いや、絶対強いんだろうけど。
ん、説明にまだ続きあるな……ええと何々。
「竜化時は全ての能力値が大幅に向上……どれぐらい上がるのかいまいち分からんね?いい加減ステータス実装されないかなー?ここでささっと実装してくれたら凄いと思うのになー?」
カードをセットした時点で身体能力が大幅に向上、さらに竜化するともういっちょ大幅に向上と……具体的に数値が出てないとどれだけ向上するか分からんのよな。
アマツがステータス実装するような事言っていたし、このタイミングで実装してくれたら凄いのになー?
なー?
「……反応無し」
おのれアマツめ。
反応ないってことはまだ実装出来ないってことか。
……まあ、そのうち実装されるのは確かだし、気長に待つか。
向上度は使ってみれば感覚でなんとなく分かるだろうし。
「これ、体にセットするやつか……レベルは4で有効なのは一枚までと」
身体能力向上ってあたりでそうだろうなーとは思ったけど、やっぱ体にセットするやつだねこれ。
レベルは4で有効なのは一枚……俺もクロもレベルは25だから、スロット的に二枚セット出来るんだけどね。これだけ強そうなカードだとさすがに一枚までかー……てか、これ体にセットできるって事は下手するとダンジョン外でもスキルが使えたりする?
使えちゃまずいと思うけど……ま、まあ使う気も無いし、気にしないでおこう。
身体能力向上がぶっ飛び過ぎてたら普段は外しておく事にするかね。
「セットしてみようか」
んじゃ、さっそくセットしてみよう。
どれぐらい向上するのかなー。
猫耳セットの時みたいにはっきりと体感できるレベルだと良いんだけど……!?
「……やっばいぞこれ。試し斬りしようトロールで良い?」
全身にパワーが漲る!
って感じです。
ちょっとこれ、猫耳セットの比じゃないぐらい上がってるぞ……5割増し?いやもっとかな……これは試しに行かねばなるまい。
とりあえずトロールでいい?とクロに聞くと、すぐににゃー!と返事がきた。
漲るパワーにクロも早く試してみたい、といったところか。
よっし、試し切りすっぞー!
「ひえぇぇ……」
やばい、これ。
「ちょ、ちょっとこれは慣れるまで時間掛かりそう……」
どれくらいやばいかと言うと、トロールの攻撃を片腕で余裕で受け止めて、さらにそのままトロールの腕を余裕で捩じ切れるぐらい身体能力が向上している。
……一応ね、ドラゴン戦前もトロールの攻撃は防げたんだけどさ。
でもそれは盾をしっかり構えてなら、という条件が付く。
こんな片腕でパシィッて感じで止めて、ぶちゅるぅって捩じ切れるようなものではない。
やば過ぎる。
やば過ぎて、ちょっとばかし力加減が難しい……無いだろうけど、ダンジョン内で握手とかしたら相手の手を握り潰して、腕を引き千切りそう。
しばらく時間かけてこの体に慣れないとダメだなこれ。
さて、今確認したのはカードの効果の内、身体能力向上のみだ。
残るは威圧とブレス、それに竜化が残っている。
……まあ、威圧について言えば、これパッシブで発動してそうな気がする。
トロールがむっちゃ怯んでいたしね。
俺が攻撃を仕掛けようと思ったら怯んだから……たぶん相手を敵と認識して、行動に移そうとすると発動する?そんな感じがする。
「……ブレスいってみる?」
と言うわけで、ブレスと竜化どっちを先に試すか……少し悩んで選んだのはブレスだ。
人間やめちゃうだけで、どんな効果なのかはわかりやすいスキルだかんね。
クロもそれで良かったらしく、次のトロールを探すべく動き始めた。
「よっし……なぎ払えっ!」
そして程なくして3体のトロールを見つけたので、俺はそいつらに向かい叫ぶとブレスを思いっきり吐き出した。
自分でいって自分でブレス吐くってちょっとあれだね!
「げふっ……つっよいなこれ」
喉の奥から、光があふれて、火がトロールを飲み込んだ。
吐き終えた後には炭化したトロールが残っていた。
再生もせずに崩れ落ちていることからその威力が良く分かると言うものだ。
威力だけ見れば相当なものだろう。
味方を巻き込むのに注意すれば、かなり有能なスキルだ。
でも。
「でも連打は無理だね」
連打は無理かなやっぱ。
なんて言うのかな……ブレスを吐くのって、ゲロを自力で吐くのになんか似てるのね。
連打しようとすると本当にゲロが出そうで無理。
使えても一戦に一回かなー……なんて思っていたのだけど、なぜかクロは連打出来ている。
今も楽しそうにブレスを吐きながら駆け回っているよ。
たぶん、あれ3発目。
……毛玉吐くので慣れているのかも知れない。
そう言う事にしておこうと思います。
さて、残るは……。
「竜化かー……ちょっと怖いよねってクロ??」
竜化なんだけど、こっちは名称からしてあからさまに人間やめることになりそうで、中々使う踏ん切りが……っと、思ったら急にクロがぷるぷると震えだした。
そしてクロの体に変化が起こる。
まさか一切ためらう事無く竜化するとか、すごいなクロ。
「小さい翼が生えた……え、竜化ってこれだけ??」
……あれ?
見た目の変化は小さい翼が生えただけであった……大して変わらない様に見えるが、クロ的にはそうでもなかったらしく、火を吐きながら嬉しそうに駆け回っている。
飛ばないんかい。
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