第137話

とりあえず次の階層へと向かった俺をアマツが出迎える。


「やあ、お疲れお疲れ!再生しすぎでお腹空いたでしょ?まずは食べるといい!」


テーブル上には所狭しと料理が並んでいる。クロのご飯まで用意しているあたり抜け目ないね。

てか、やっぱあの空腹は再生が原因だったか……強力なカードだけど、戦闘中に我を失うのはちょっと怖いね。


戦闘中でも食える携帯食料とか用意する?いや、そこまで再生使うような戦闘じゃ食う暇ないか。


事前に食いだめしておくぐらいかねー?対策としては。




用意された料理をもっしゃもしゃと食べていると、徐々に空腹感が収まってきた。


普通のお腹空いたときとはちょっと違うな、これ。

最初は食べても中々空腹感が収まらなかったんだよね。


カード怖い。



「見てたよ、よくぞあいつを倒せたね!」


料理の大半を平らげたあたりでアマツが話し掛けてきた。

落ち着くまで待っててくれたのである。


しかし、よくぞ倒せたかー……。


「正直何度か死んだと思いましたよ……なんか急に強くなりすぎじゃないです……?」


本当にそう思う。

今までも次の階層に行くと急に敵が強くなるってのは結構あった。

でも今回のは明らかにその比じゃ無い、強くなりすぎだと思う。


トロールのカードなかったら、最初のブレスの時点で詰んでるよね。

仮に適正人数、適正レベルでいったとして。俺とクロよりレベル低い時点で最初のブレスで全滅すると思う。



「いやあ……あいつは何て言うのかな、ドラゴン……亜種だけど、攻略者にとって一つの壁として用意したものでね……まさか初見で突破するとは思ってなかったよ。ハハハ!」


ハハハ!


引っぱたくぞこんちくしょー。

てか亜種かよ。

あの変な口はそれか?


亜種って聞くと、ちょっと弱そうなイメージある……本当のドラゴンはもっと強いってこと?ヤバすぎじゃん。




てか壁か何だか知らんけど、初見であんなのと戦う身にもなれっつーの!俺たちがトラウマなったらどーしてくれるっ。


俺がちょっと殺意のこもった目でアマツをじっと見詰めると、アマツは慌てた様子でわたわたと手を振り言葉を続ける。


「島津くんには悪かったと思ってる!でもダンジョンマスターの立場的にネタバレする訳にも行かなくてね!」


「……まあ、それは確かに……でも俺達であれだけ苦戦するって、他の人じゃまず突破できないですよね?」


……まあ、気持ちは分かる。ネタバレされたらちょっと萎えるしね。



「あー、いや。決して倒せない相手じゃないんだよ……色んな素材をメーカーさんが研究してるでしょ?そこからダンジョンの装備にも繋げて、それらを揃えてやっと倒せる敵……そんな想定だったんだよ」


なるほどねえ。


……いや、待った。

俺達が突破したから良いけどさ、突破できなかったら北上さんの怪我治せないよな。

あの体でトロールのカードが使えるまでレベル上げるとか無理でしょ。


下手すりゃ俺達が負けて大怪我負って、これ以上攻略出来ないとかもあり得たよね……まあトロールカードがあるけどさ。


うーん……今後も大怪我する人は出ると思うし、ちょっと不味くね?

俺はポーションを入手できるけど、大怪我を負った人全員分用意するとか無理よ?



「……もう知っているかと思いますが、隊員さんが手足を失う大怪我をしたんです。ただ15階のポーションじゃ治せなかったんで、俺達がドラゴンを倒せていなかったら、引退って事になってましたよ。アマツさん的にもそれは不味いんじゃないですか?」


「実はそれについて対応は考えていたんだよ。実装する前に突破しちゃった訳だけどね」


「そうだったんすか……」


考えていたらしい。


それなら安心だけど……安心だけどさ。

俺たちがドラゴンと戦う前に実装してくれてたら……と思わなくもない。


それならもうちょい準備とか出来たかもなのにー。



「攻略者限定で治療施設を用意してたんだ。ポーションを買うより必要ポイントも高いし治療に多少時間掛かるけど、大抵の傷は治せるってやつね」


「ゲームの宿屋的な?」


「そうそれ!」


一晩寝れば全快するやつか。

……寝ている間に手足がにょきっと生えてくるんだろうか?結構ホラーだよね。



攻略者限定で施設ってことは、チュートリアル突破さえすれば使えるってことか。

それともある程度レベル制限とか、到達階層によって制限するとかあるのかな?


まあ、なんにせよ在れば有難いね。






「そうそう、お知らせがいくつかあってね」


「ほい?」


これで終わりかなーと思ったら、まだ話の続きがあったようだ。

お知らせってなんじゃろね。



「まずあいつを初見で……しかも二人で突破したと言うことで……はい、カードを一枚ずつ進呈しよう」


「おお!」


やった!


これは素直に嬉しいぞ!


あいつを数千体倒せとかまじ勘弁して欲しいからね……ありがてえありがてえ。



「あとはね、20階到達すると新しい機能が追加されるよ。……端末のここね。モンスターの素材を使って装備を強化出来るんだ」


「おおー!」


まじか。

ついに素材にも意味が……俺にはポイントに変換するぐらいしか無かったからなあ。

メーカーさんも全ての素材が欲しいって訳じゃ無いだろうしね。


これも嬉しいお知らせだ。



まあ、メーカーさんがダンジョンで取れた素材で攻略用装備を……とか考えてたら、その上位互換って事になっちゃうのかな?



とか考えていたら、アマツがぼそっと呟く様に言葉を続ける。


「メーカーさんのとちょっと被っちゃうけど、ほら……正直ここまで到達出来る人ってそこまで多くないと思うから」


「まあ……そうっすね」


自分で言っちゃうか、それを。


……まあ、あれを誰でも倒せるか?と言われればそうは思わない。本当によく俺達二人で倒せたなーと思うよ。


アマツが壁として用意したと言うのも良く分かる強さだった。


「装備レベル20で1回、その後はレベル5毎に1回強化出来るようになるよ。お勧めはやっぱドラゴンの素材だね……まあ、何度でもやり直せるから、色々と試してみると良い」


あ、やり直し出来るのか。

それなら色々な素材を試して見たいところだね。


まあ、アマツもお勧めしているし、ドラゴンの素材を使うので落ち着きそうな気もするけど。


「それじゃそろそろ戻ると良いよ。シャワー浴びて着替えると良い、装備の修理は何時でも出来るからね」


そう言ってテーブルの上に真っ黒焦げな物体を置くアマツ……これ、俺の装備か。


猫耳と尻尾が跡形もなく……これ直るの?あ、直るのね。ならよかった。



てか、いまさらだけど。

全身の装備がこんがり焼けちゃったから、体を覆う布成分が大分少なくなってるんだよね。

このまま北上さんのところに向かったらお縄になりそうだ。


シャワー浴びて着替えてポーション持って病院に向かうとしよう。




アマツにそれじゃまたーと声をかけて、休憩所へと向かう俺とクロであったが……。



「ところで体の方は大丈夫かい?」


不意にアマツが声をかけてきた。

おう?


「ん?もう大丈夫ですよ。痛いところもないし、お腹も落ち着いてますし」


「そう、それなら良いんだ」


傷もばっちり治ってるし、お腹もいっぱいだ。

体調も悪くないね。むしろ絶好調な感じ。

ドラゴン倒して一気にレベルでも上がったんかねー。


てか、急にどうしたんだろ?



「結構無茶してたからね、あまり無茶しちゃだめだよ?」


「あはは……気を付けます」


まあ、無茶してたのは自覚ある。

アマツからみてもそうだったんだろう……まあ、当分の間はこんな無茶な戦闘はしないつもりである。


さって、シャワー浴びて着替えて北上さんのとこ向かうぞーっ。

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