第136話
通常攻撃は通るには通るが威力が足らない。
ならば。
「土ぐぼぉっ!?」
土蜘蛛ぶっぱすりゃ良いじゃん、と使おうとした瞬間、全身の骨がばらばらになるんじゃないか、そう思うぐらいの衝撃がきた。
いったい何が……と思ったが、すぐに正体は分かった。ドラゴンの尻尾だ。
クロにも当たる訳だ……先端のほうは恐ろしい速度になっている……さっきも視界の端に影のようなものが一瞬映ったが、俺じゃあれは避けるのは絶対無理だ。
壁に叩きつけられた俺は反動で地面をゴロゴロと転がる。
受け身を何度かとって、勢いを殺したところで、ふっと辺りが暗くなる。
とっさに顔を上げれば眼前にドラゴンの脚の裏が迫っていた。
「げ、ぅっ」
上半身が押しつぶされ地面にめり込む。すきっ腹に響くとかそう言うレベルじゃないなこれ……まともに食らっていたらヤバかったが、なんとか両腕で顔と心臓付近は守ることが出来た。
そう、左腕がもう生えていたのである。
どうやらトロールカードはトロールと同等の再生能力を与えてくれるものらしい。
この戦いにおいてその効果は大変ありがたいものである、が……一瞬で再生とはいかない。
ガードした俺の両腕はバッキバキに折れているし、あばらも数本折れている。口から血があふれているのは内臓を傷つけたからだろう。
さらに不味いことにドラゴンは自分を傷つけた相手を確実に殺すつもりらしい。
再び脚を持ち上げると俺を踏みつぶそうとしている。
こっちは先ほどの踏み付けのダメージでまだまともに動けない、このままでは詰む……俺一人ならね。
脚を持ち上げていたドラゴンが突如悲鳴をあげ、身を捩る。
ずしんと重い音と共に、ドラゴンの前脚が転がる。
クロの土蜘蛛によって根元から千切られたのだ。
ドラゴンのヘイトがクロに移り攻撃がクロへと向かうが、前脚を1本失った状態ではクロを捉えることはまず無理だろう。
「氷礫!」
クロが注意をひいてくれている間に、体のダメージはほぼ抜けた。
俺はドラゴンの後ろ脚に氷礫を撃ち込み、盾の方へと走る。
このままドラゴンが終わるとは思えない、もう1発ぐらいはブレスがくる予感がする。
ボロボロの盾であるが、無いよりはあったほうが絶対良い。
盾を手に取った瞬間、じゅっと言う音と共に激痛が走る。
ブレスでまだ高熱になったままだ……が、ここは我慢して持つしかない。
俺は残った前脚に向かい、鉈を突き立て、衝撃波を放つ。
かなり深く肉が抉れたが、まだ骨には達していない。太すぎだろう。
ならば。
「っ土蜘蛛!!」
俺は土蜘蛛を前脚に……ではなく、迫ってくる尻尾に向けて放つ。
また来ると思ったよ!
土蜘蛛の爪はドラゴンの太い尻尾を容易く貫き、引き千切っていく。
さすが頼りになる!反動で腕が折れてそうだけど、これぐらいで済むなら十分お釣りがくる。
尻尾を失ったドラゴンは滅茶苦茶に暴れだし、やがて動きを止めたかと思うとぐっと溜めを見せる。
ブレスがくる!俺は盾を構えドラゴンから距離をとるが……ドラゴンが向いているのは俺じゃない、クロだ!
ブレスがクロを直撃する。
俺の障壁とは違い、クロはもう一段階強化している。なのでブレスを食らってもすぐに障壁を破られる事は無かった。
だが、時間の問題だろう。
「クロ!後に!」
クロに大声で呼びかける、するとクロはすぐにこちらに向かい駆け寄り、俺の背中にひっついた。
それと同時にブレスが俺を襲うが、今度はその場に留まらず、全力で走ってドラゴンから距離をとる。
避けることは出来ないが、距離をとるほど威力は下がる……はずだ。いや、滅茶苦茶熱いけどさ……一瞬盾に氷礫を撃ち込もうかという考えが頭を過るが、爆発して大惨事になりそうな気がしたので止めた。
数秒でブレスが止む。
どうも一撃目より吐き続ける時間も威力も弱い気がする。何かが溜まり切るまで最大威力で撃てないのだろう。
だが、それでも十分きつい威力だ。
俺の再度張られた衝撃もそっこうで破られ、全身火達磨になるし……クロの障壁も破られて、火に包まれた。殺すぞこの糞トカゲ。
ただ、腕を失うほどのダメージはない。痛みはきついが動ける範囲だ。
俺は使い物にならなくなった盾を離し、ドラゴンに向かい走る。
クロはもう先行している……火を纏ったまま尾を引いて突っ込んでいった。
その火もすぐに消える。ダメージはさほど無さそうなのが救いか。
クロは千切れた前脚の付け根を狙い攻撃を仕掛けている。
なら俺はもう片方の脚を潰そう。
両手で鉈を持ち、走った勢いのまま全力で残った脚へと叩きつける。
ドラゴンは一応防ごうとはしたらしい。尻尾が動いていたからね。
でもその短くなった尻尾じゃ俺まで届かせるのは無理だ。
鉈は脚に深く食い込み、骨を断ち、今度こそ脚に致命的な傷を負わせていた。
両前脚の機能を失ったことで、ドラゴンは地面に倒れこんだ。
もう動かせるのは後ろ脚と頭ぐらいだ。
噛み付きは首が少し伸びるので思ったよりも射程がある。
噛み付かれないように気を付けて、ブレスの範囲にも入らないように攻撃を続ければ、いつか力尽きるだろう。
別に、油断していた分けではない。
かなり頭に血が上っていたのは確かだけど、我を失うほどではない。
「はっ!?」
俺に向かい噛み付こうとしてきたので、距離をとって避けた時、それは起きた。
首ではなく、口ががばぁって伸びてきたのだ。
ふざけんな。
「ぎっ……ぐぎ」
牙が肩に食い込んでいるが、なんとか止めることが出来ている。
特殊な口の構造をしている分、噛む力は弱いのかも知れない。
こうして耐えていれば、いずれクロが援護にはいり俺は解放されるだろう。
だが、そんなのはドラゴンも分かっている訳で、ふと前方から熱と光を感じたので視線を喉の奥に向けると……光輝く何かがあった。
「氷礫」
このままじゃ死ぬ。
そう判断した俺は光に向かい氷礫を放つ。
「土蜘蛛!!」
そして同時に土蜘蛛を発動する。
こんな態勢じゃ威力なんて出ないが、今回はそれが目的ではない。
氷礫が光に到達すると同時に、大爆発が起きる。
俺は盛大に吹き飛ばされ、地面を転がった。
「う……クロ?」
顔にかかる液体に目を開けると、すぐそばにクロがいた。
どうやらポーションを俺に使ってくれたらしい。
てか、少しの間気絶していたのか……ドラゴンはどうなった?
体内であの爆発が起きたのなら、ドラゴンだって無傷では済まないはず。
何せ俺の左腕と両足ないからね。頭と胴体は土蜘蛛の爪に隠れて無事だったけど……いや、ヘルメットとかフェイスガードなくなっているし、実はやばかったかも知れない。
それよりもドラゴンだ。
「まだ生きてんのか……」
ドラゴンは生きていた
地面に横たわるドラゴンの体は、喉から腹にかけて吹っ飛び、内臓がボタボタと落ちている。
ドクドクと鼓動し、血を噴き出しているのは心臓だろう。ひどく、おいしそうだ。
「はっ……クロ、俺は……」
気が付いた時。
俺はドラゴンに止めを刺して、その肉を食べていた。
……再生の反動?
再生する代わりに飢餓状態になるとかそう言うのだろうか。
そうじゃないとこれは説明できない。て言うか反動じゃ無いと困る。ドラゴンのお腹を見て我を失うとかただのやべー奴じゃん。
ふむ……クロもぺろりと口周りを舐めているので、おそらくお肉食べてるなこれ。
ただ俺と違ってほどよく焼けたの食べてそうではある。このへんは受けたダメージの差かな。
ちなみにクロだけど、ブレスで食らったであろうダメージはもう残ってなさそうだ。
装備が若干焦げているぐらいだ……防ぎきれんかったな。
……反省は戻ってからだ。
「大丈夫。落ち着いた……装備回収して、ドラゴンも可能な限り回収しよう」
まだかなり空腹だが、我を忘れるほどじゃない。
かなり酷い状態からでも装備は修理できるらしいので、全部回収しよう。
盾とか取っ手の部分しか残ってないけど……まあ、なんとかなるでしょ。
「ちょっと一度来て貰えるかい!あとで回収出来るから!!!」
「声でけぇ」
回収しようと立ち上がった時であった。
急にでかい声があたりに響き渡る。
相変わらず声がでかいな、アマツ。
さて、何の用事だろうね?
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