第57話
「嘘だろ……? 俺達でも……もしかして敵が弱いとか? それとも大勢で潜っている?」
と、隊員さんの一人が思わずと言った感じで疑問を口にする。
自衛隊さんにとっては最初に出て来る敵はゴブリンなイメージだろうし、そりゃその考えに至るよね。
正解は敵が弱いだね。
弱い分こっちの装備は限られる訳だけど……だとしてもあのネズミは弱すぎな気がしなくもない。
まあ、弱いおかげでクロだけでも狩れていたんだろうけどね。
そうでなければ最初にクロがダンジョンに入ったときに、大怪我を負っているはずだ。
子供とかが見つけて入るのでも想定していたのかな? レベルが少し上がるまでは比較的弱い敵を用意しておく、みたいな。
「弱いっちゃ弱いですね。 1階に出るのなんかネズミですし」
「ネ、ネズミ……」
ネズミと聞いて愕然とする隊員さん達。
ゴブリンとネズミって差が激し過ぎるもんね。分かる分かる。
この後クロについて話すつもりなんだけど、さらにショック受けたりしないかな?大丈夫?
まあ、話しちゃおう。
「うちの……クロ、おいでー!」
俺がクロを呼ぶと、家の中に引っ込んでいたクロが器用にも玄関の扉を開け出て来る。
きっちり後ろ足で扉を閉める辺りお利口さんだなと思いますっ。
「よっと。 うちの飼い猫ですけど、この子でも狩れちゃうぐらいです。 実は最初にダンジョン見つけたのクロなんですよねー」
クロの脇に手を伸ばして、だらーんと言った感じで持ち上げ隊員へと紹介する。
「俺達……あんな、苦労したのに……」
「猫でも狩れるネズミって……おま」
うんむ。
大分ショックだった模様。
でもまあ、これでこのダンジョンは1階に関しては大分温いと分かって貰えたはず。
一般人が同行しても良いかの判断に有利に働く……と良いなあ。
「ちなみに2階にはウサ――」
ついでに2階についても話しておこうかな?と思ったところで隊長さんが戻ってきた。
「――島津さん。 許可が出ました」
「あ、本当ですか? ありがとうございます……すごいあっさり許可出ましたね?」
「ええ、まあ……何せポーションの数が数ですから」
そう言って苦笑する隊長さん。
上から何を言われたんだろうね? 残念ながら電話している相手の声までは聞こえなかったんだよなー。
何かしら指示を受けていたのは確かなんだけどね。
許可貰えるようにとクロの事を紹介したんだけどなー、関係なくあっさり許可出てしまった。
まあ、許可が出たのなら良いか。
あとは実際にダンジョンに潜って戦っているところを見せればいいかな?
「それに、有益な情報を提供してくれる方には出来るだけ協力をする、と言うのが我々の基本方針ですので。 ポーションにつきましても協力金と言うことで、後ほど代金をお支払いしますね」
ほほう。
協力してくれるのは嬉しいね。
ポーションも一応お金は貰えるのか……5000円とかだったら笑うけど。
まあ、有難い話ではあるよね。
「なるほど。 勿論だせる限りの情報は出しますし、協力もします。 なのでよろしくお願いします」
いや、本当に色々とお願いしますぞ。
少なくとも自衛隊さん側はこちらに対して協力してくれると言うのなら、こっちもそれなりに協力するからね。
もし話が拗れるようなら最悪ダンジョンに逃げ込もうかと考えていたけど、杞憂に終わりそうで良かった。
まあ……今は、だけどね。
今後どうなるかは分からない、なのでまずは自衛隊さんとは仲良くしておこうと思う。
「では、早速準備をしましょうか……どうしたお前ら?変な顔をして」
隊員さんまだショックから立ち直ってなかったらしい。
「ネズミ……ネズミの次はウサギ……?」
その後なんとか立ち直った隊員さんと共に、隊長さんにもこのダンジョンに出て来る敵についてお話しした。
やっぱショックは大きかったらしく、隊長も愕然としている……そして2階はウサギが出ると言う追加情報を聞いた隊員さんも愕然としている。
「です。 後ですね、ここのダンジョンは銃を持ち込めないと思いますよ。 ダンジョンによって色々と規制があるみたいなので」
「本当ですか!? だから出て来るモンスターが……島津さん、他にも知っている事を話して頂けませんか?」
あ、この辺の話はセーフなのね。
まあ、確かに潜ろうとすれば分かる話ではあるか。
あと知っている話しかー……とりあえず最初から色々と話してみようかな。
「なるほど、ありがとうございます……ちょっと失礼します」
そう言うと隊長さんはティッシュを何枚かとり、盛大に鼻をかむ。
どうもクロがダンジョン見つけた辺りと、俺がダンジョンを潜っていく課程が彼の琴線に触れてしまったらしく、途中からぼたぼたと涙をこぼし、最終的には鼻水まで垂れ流しだした。
あとはダンジョンの情報については俺が知っている事について一通り話したよ。
でもやはり情報がかなり制限されているようで、半分も伝わって無いと思う。
ただモンスターを倒すことで身体能力が向上する事、それはほぼダンジョン内限定であることは伝える事が出来た。
あ、ちなみに場所はダンジョンの休憩所に移したよ。
あのまま庭で話し込んでいても目立つしね。
ゲートとかBBQ広場への扉何かは見えてないみたいなので安心してほしい。
この辺はアマツがきっちりと仕事しているのだ。
「ふぅ……失礼しました」
「いえいえ」
この隊長さん、厳つい見た目に反してこの手のお話しに弱いのね。
まだ涙目のままである。
「やはり、条件を満たさないとあまり情報は得られない様ですね」
「みたいですね」
そう言ってスコップを手に取る隊長さん。
あのあと念の為と言うことで、銃を持ったまま入れないか試してみたんだけどね、どうやっても銃を持ったままだとダンジョンに入れなかったのだ。
銃単品でもダメ、背負ってもダメだった。
少し粘ってダメだと分かった彼らであるが、各々武器になりそうなものを車両から引っ張り出してきた。
その内の一つが隊長さんの持つスコップである。
他の隊員もスコップを持つ人がチラホラ居る。 あとはナイフかな? リーチの関係でスコップの方が人気あるっぽいね。
……あとで端末で購入した装備上げた方が良いのかな? いや、でも最初からきっちり鍛えれば購入するより良い装備になるんだよな。
まあ、その辺はあとで自衛隊さん側で判断するか。
チュートリアルとっぱしちゃえばポイントで装備買えるしね。
「……では実際に戦闘を行ってみます。 島津さん達は後方で待機をお願いします」
「はい」
そう言うと隊長さんを先頭にダンジョンの通路を進み始める。
俺とクロは一番後ろで待機である。戦闘についてはまず自衛隊さんが戦ってみるらしい。
この手のって斥候役の人が先頭なのかなーとか勝手に思っていたけど、そう言うわけじゃ無いのかな。
まさか隊長さんが斥候役? んなわけないよね。
なんて考えている内に俺の耳が通路の奥からネズミが寄ってくるのを捉える。
クロも聞こえたらしく、耳をピクピク動かしているが、クロも俺と同じく待機なので特に動こうとはしない。
……あ、そう言えば自衛隊さんに1階はあまり武器使わないって言っておくの忘れてた。
相手はネズミだから武器より蹴りのほうがやりやすいんだよね。
その事を隊長さんに言おうとしたのだけど、その時には既にネズミとの戦闘が始まってしまっていた。
「……」
まあ、戦闘と言うほどの戦いでは無いんだけどね。
飛び出てきたネズミは2匹だった。
その内の1匹は隊長さんの蹴りを食らい撃沈。
もう1匹は脚に噛み付こうとしたところをスコップを突き立てられお亡くなりになった。
少しの間無言でネズミを見ていた隊長さんだけど、ふうと息を吐くと振り返り隊員へと声をかけた。
「問題ないな。 次、田尻」
「はい」
あ、この人が田尻さんね。
メガネ掛けた目付きの悪いにーちゃんって感じだけど、さっき話した感じは悪い人じゃなかった。
とりあえず名前は覚えておこう。
隊長さんが都丸さんで、メガネの人が田尻さんね。
その後、各隊員がネズミと戦っていたけど、全員問題なくネズミを仕留めていた。
俺の最初の戦闘とはえらい違いだねっ。
で、そのままダンジョン内を進んで行ったんだけど、今度は小部屋に入ってみようかって事になった。
「これは……多いな」
10匹部屋だね。
デカめのネズミがこうも一杯居ると部屋に入るのはちょっと勇気が要る。
「部屋に入ると同時に襲い掛かってきますんで気を付けて下さい」
と、ちょっと心配になって声をかけたんだけど……。
「……問題なさそうですね、さすが自衛隊さん」
あっさり殲滅したね。
やっぱ普段から鍛えているし、なんかこう動きが違う気がする。
人数多いからってのもあるだろうけど、安定してるねえ。
とりあえずは自衛隊さんの確認はこれで終わりかな?
銃が無くても行けるってのは十分に分かったと思う。
「次、俺がやってみますね。 身体能力が上がるってところを確認できた方が良いですよね?」
あとは俺とクロが戦うところを見せればとりあえずは目的達成だ。
あとは自衛隊さんが自力でチュートリアルを突破する事だろう。
「そう、ですね……お願いしても宜しいですか?」
「はい、勿論」
さて、気合い入れて頑張りますかっ。
良いところ見せないとねー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます