第53話

ただ前回と違い心が折れる前にカードがぽろっと出た。


「でたぁぁぁぁ」


ダンジョンのこと報告しないといけないし、8月には小麦の刈り入れがあるはずなのでそこまで時間かける訳にもいかんかったのよね。 助かったわ。


嬉しくて思わず小躍りしちゃうぞ。

クロの目が冷たいと言うか、無になっているのですぐ止めたけど。


「……んんっ」


咳払いしてごまかしておこう。


「よし、次行こうか。 いよいよ15階だね」


そう言って扉へと向かう俺。

クロは無言で付いてきてくれている。果たして無言なのは優しさ故なのだろうか。






「たぶん2足タイプが来るかな。 特殊な攻撃もしてくるだろうから、気を付けて行こうね」


4足タイプ、2足タイプ、そして4足タイプと来ているので次は2足タイプの敵がくるだろう。

恐らく武器を使用してくるのに加えて、特殊な能力を使ってくることも考えられるので油断は絶対出来ない。


扉前についた俺は、何時のもの様にバックパックを置いてポーションを飲み、盾を構えて扉へと近づく。


「扉から離れててね……よし、覗くよー……っ!?」


そして扉からひょいと盾越しに覗き込んだ瞬間、盾に軽い衝撃が走り……そしてさらに追加でこちらに飛んでくるものが見え……俺は咄嗟に扉から横っ飛びに逃げた。


「うっわあ……今度は火か」


飛んできたものは2種類だ。

一つは矢でもう一つは火の弾である。


矢は盾で弾いたが、さすがにあの火の弾を受け止める気にはならなかった。

そして俺の判断は正しかったようである。


火の弾は壁にあたるとはじけ飛び、周囲が火に包まれる。

その火はなかなか消えず、30秒近く燃え盛っていた。


「なかなか消えない。 食らったらやっかいだな、早めに潰したほうが良さそうだね」


たぶん叩いたりすれば早めに消えるとは思うけれど、それでもやっかいだ。

羊カードをセットしているとは言え、できる限り食らいたくはない。


「ん? ……なんだこれ? 矢に何かついてる……」


気を付けるとしたら火の弾かなーと思い、何気なくさっき弾いた矢へと目を向けた俺であったが、ふとへんなものが矢に付いている事に気が付いた。



「クロ、これ毒かも知れない。 絶対当たらないようにしないと」


矢じりについて濃い緑色をした液体、床に擦り付けてみるとドロリと粘性のある液体だと分かった。

まあ、あれだよね。 矢じりにつけるドロリとした液体とか毒しかないよね。


いやー……ダンジョン側の殺る気がどんどん上がってるね。


「んし……火の弾は躱して、矢は弾いてやりすごす、で次が来る前に突撃ね。 あのでかいのが立ち塞がると思うけど何とか突破しよう」


ちなみに敵の構成だけど……まず前衛ぽいでかいのが2体。 こいつらたぶんオーガって奴じゃないかな? 身長は2mちょっとで体は無茶苦茶筋肉質だ。 武器は金属のぶっとい棒のみ……あ、腰布はちゃんとあるので安心して欲しい。


あとは弓持ちの……なんだろう、ゴブリンぽいけどゴブリンでは無い。

コボルト? いや、でもコボルトってこんな凶悪な顔してたっけかな?


……仮でコボルトってことにしておく。 装備は弓と全身を革製っぽい鎧とかで覆ってる感じ。



で、最後に火の弾を撃ってきた奴ね。

こいつはぱっと見は老人に見える。 でも人ではないね、何せ目に当たる部分からうねうねと触手っぽいの生えているし、全身が枯れ木のように細くて枯れている。 着ているローブと合わさっていかにも魔法使い!って感じである。


正直かなりきもい。



と、まあ相手の構成はこんなもんだね。

オーガがかなり強そうに見えるので、これをいかに突破するか隙を見て後衛を潰すかが重要かなーと思います。


思ってても実際できるかは別だけどねー。 割りとその場のノリで対処するしか無かったりするし。



……ま、考えていても仕方ない。 突撃しますか。


突撃といっても最初はそろーっと盾越しに覗くんですけどねー。




「とっつげきー!」


覗き込むと同時に矢と火の弾が飛んできたので、矢は弾いて火の弾は躱してやり過ごし、すぐに突撃する。


部屋はかなり広く、体育館ぐらいあると思ってくれて良い。

後衛までかなり距離があり、その前にはオーガが立ち塞がっている。


近寄るまでに攻撃を受けそうだったが、幸い矢が1本飛んできただけで火の弾までは飛んでくることはなかった。

やはり溜めに少し時間が掛かるのだろう。


……連打されると無理ゲーなのでそこはありがたい。



オーガまで一気に詰め寄り、射程まであと少し……と行ったところで急にオーガが動き出した、それも2体同時に俺に向かってだ。


しかもやはりと言うか、オーガの動きはかなり速い。

1体ならともかく1体同時となると攻撃を避けるのは厳しそうだ。


だが、こちらも一人で突っ込んだ訳ではない。

うにゃーと鳴き声が聞こえた直後、急にオーガの1体が膝をつく……と言うか膝から下がぐしゃぐしゃになっている。


俺の背後から分かれたクロが、咄嗟にスキルを使い1体を攻撃してくれたのだ。

クロはそのまま弓使いに向かうようだ。


これで俺に向かってくるのは1体になった。

俺に向かい振り下ろされた棒を受け流そうと盾で横に弾くように受け止める。


「がっ」


その長身から繰り出された一撃は予想よりだいぶ重かった。

受け流したはずなのに、腕にずしりと重い痛みがくる。


が、受け流すこと自体は成功している。

俺は体勢を崩したオーガの首元めがけて鉈をふるった。


タイミング的にもばっちりな攻撃であったが、それは結果として防がれてしまう。


「なっ!?」


首元に迫る刃を止めたのは、さきほどクロが足を潰したオーガであった。

両腕で抱え込むようにつかみ、がっちり止められてしまっている。


この後の行動をどうするか、一瞬悩み動きが止まってしまう。

そしてその瞬間を狙うかのように、火の弾が俺に向かい飛んでくる。


「あっちぃ!?」


もちろんそのまま食らうつもりなぞ無いので盾で防ぐが、盾は燃え盛り、いくつか俺の体にも飛び火する。

咄嗟に盾を放り投げる俺であったが……そこにオーガが再び棒を振り下ろしてきた。




「っっだぁあ!!」


派手な破砕音が部屋に鳴り響き、棒は中ほどでへし折れ空を飛ぶ。

そして俺の拳は間違いなく骨が砕けた。


振り下ろされる棒に向かい、咄嗟に俺は盾を持っていた腕で拳を握り締め迎え撃ったのである。


そしてその直後、何故か抑えられたいた鉈がふっと軽くなる。

一瞬の間に弓使いを仕留めたクロが、鉈を抑えるオーガの腕を首ごと切り落としていた。


俺は目の前にいるオーガに向かい、鉈を叩きつけた。





ほどなく、室内で動くものは俺とクロ以外居なくなった。


「……死んだ?」


爪先でオーガを突いてみるが反応はない。他のも同様だ。

時間にして1分にも満たない戦いであったが、久しぶりに疲れた。


「あー……まさか全部こっち狙いで来るとは思わんかった。クロ、援護ありがとう助かった」


二手に分かれたからクロにもターゲット移るかと思ったんだけどね、まさか皆こっち狙いでくるとは……おかげで拳がぐちゃぐちゃだ。 テレビだったら間違いなくモザイク掛かるレベルだよこれ。


これ、元に戻るのだろうか? と不安に思ったが事前に飲んだポーションの効果でじわじわと元に戻っていく……と思ったらなぜか途中で回復が止まってしまう。


「うーんうーん……痛い、回復しない。痛い」


ポーションを追加でかけて見ても同じだ。


一体どうすれば良いのかと途方に暮れていると、ふいに室内に声が響く。

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