第42話
「素材2個あるし、クロもつけてみようか?」
そうクロに尋ねると、にゃーと返事が来た。
尻尾が立っているしクロも嬉しいんだろう。
さっそく素材を使おうとするクロであったが、それに俺は待ったをかける。
「効果分からんから、まず俺のやつに着けて見るね」
外れだった時が悲しいからね、まずは俺の武器に着けてみようと思う。
そう言いながらクロの頭を撫でると、クロも納得したのか小さくにゃんと鳴いて、端末の操作を止める。
素材を使った改造自体はすぐに終わった。
武器の見た目は特に変わった所は……いや、若干刃の色が変わったか? 薄いけど黒っぽいグラデーションがついたように見える。
ちょっと格好良いな!
「じゃあ試し切りに行こうか?」
そう言って5階へと繋がるゲートに向かう俺とクロ……あ、言って無かったかもだけど、休憩所のゲートだけど10階へも繋がる様になってるんだ。
ゲート潜ろうとすると選択肢が空中にポンと出て来るから、行きたい方に触れるだけで行けちゃう。
ゲートがどんどん増えていったら邪魔そうだなーって思ってたけど、この方式なら場所取らないから良いね。
とりあえず10階へと向かい、牛さんでスキルを試そうと思ったんだけど。
「発動方法は分かった。 でも効果は分からんのよね」
鉈をもってスキルを使いたいと思うと、脳内にふっとスキルの発動方法が思い浮かんだ。
でも、肝心な効果が分からないままなんだよなー。
防具じゃなくて、武器に付けられるってことは攻撃用のスキルだとは思うんだけどね。
てか、頭にふっと思い浮かぶって、よく考えると怖いな。
脳内いじられてないよね??
「んー……ん?」
そこらの壁に向かって試しに使ってみようかな? ……なんて考えていたら足音が聞こえてきた。
タイミング悪いなあ、しかも2匹いるね。
出来れば1匹が良かったんだけど、しゃーないやるか。
ちなみにスキルの発動方法だけど……発動すると言う意思をもって、スキル名を叫べば発動すると言うものだった。
かなり恥ずかしい気がする。
人様の前では使えんよねこれ。
でもここには俺とクロとモンスターしかいないから、使っちゃうんだけどね。
通路の奥から聞こえてた足音が急に激しくなる。
向こうもこちらに気が付いて速度を上げたのだろう。
程なくして見える牛さんの姿。
1匹を先頭にし、もう1匹が少し遅れてこちらへと一直線に向かってくる。
俺は鉈と盾を構え、牛が突っ込んで来るのを待ち……避けると同時に叫び、首元に向かい鉈を振るう。
「土蜘蛛!!」
そう叫んだ瞬間、鉈の周囲や俺の腕を円錐状の何かが覆う。
それは艶のない黒色をしており、恐ろしく重量感のある……恐らく何かの生き物の一部であった。
少なくとも俺にはそう見えた。
俺は突如現れたそいつにギョッとしながらも、牛に向かい腕を振り抜いた。
本来であればそんな巨大な物を、いくらレベルアップの恩恵で身体能力が上がってるとは言え、軽々振るうことなど出来ない。
だがそれは鉈を振るうのとまったく変わらない速度で振り切ることが出来た。
そしてそれは恐ろしいまでの威力を発揮した。
それは牛の首に当たると強烈な破裂音と共に巨大な穴を穿ち、首をはね飛ばした。
さらには後方にいた牛にもあたり、その半身をごっそりと削り取ってしまう。
「ひぇぇぇえっ!?」
……いや、正直ドン引きするレベルの威力なんですけど!?
牛の首の骨って堅いし、首自体も太いから一撃で切り落とすなんてまず出来ない。
それなのにこいつは一撃で首を吹っ飛ばした上、威力を衰えさせる事なく2匹目にも致命傷を負わせた。
ヤバいなんてもんじゃ……ん、あれ?ちょっとまって。
「……ダルッ」
もの凄い怠い……なんだこれ、気持ち悪い。
スキルを使ったその反動? それともMP的なものが存在していて使いすぎた……とか?
この怠さも肉体的な疲労と言うよりは別物な気がする。
どちらかと言うと後者な気がする……うぅ、怠いよぉ。
「あー……やっと治った」
5分ぐらいで復活しました。
ポーション試してみたけれど、ダメだったんだよねー。
いやー、強力だけど使った後の怠さがひどいな。
レベル上げると解消されるのか、それともスキルを使い続ければ解消されるのか……さすがにずっとこのままって事は無いだろうし、後で色々試してみるか。
さて、効果も分かったところで次はクロの番だね。
さっきからすっごいソワソワしているし。
でも俺が怠そうにしているから、気を使って待っていてくれたんだろう。
「クロもやってみる? ダルくなるから気をつけて」
そうクロに話しかけると、クロは嬉しそうに端末を操作し、すぐに牛を探しに歩き始める。
クロの後ろをついて歩き、程なくして曲がり角から牛が姿を現した。
今度は1匹らしい。
クロは牛を見つけると同時に飛び出し、牛が反応するよりも早く、にゃー!と鳴いて噛み付いた。
クロはどうやら首輪を改造したらしい。
クロの攻撃は見事に牛の前脚を二本とも噛み砕くに至るが、それだけであった。
「……出てない、よね?」
どう見ても何時ものクロの攻撃と変わらない。スキルが発動していないのだ。
その後も念の為と言うことで、引っ掻き攻撃でも試して見たが発動はしなかった。
「よしよし……」
目に見えて落ち込んでいるクロを抱きかかえ、しばらく頭を撫でてあげた。
んんん。
なんでクロはスキルを発動できなかったかだけどー……何となくアマツがやらかしている予感がひしひしとするのです。
こりゃ確かめに行くしかあるまい。
「アマツさんいますかー……あ、いた」
クロが落ち着いたところで5階に行くと、アマツは椅子に腰掛け一人でニコニコ……と言うかニマニマしながら空中を見ていた。
怖いわっ。
「いらっしゃあああい!」
そして無駄にテンションが高い。
「……何か良いことあったんすか」
「ははは! いい感じにダンジョンの情報が広まりそうでね、ついつい嬉しくなってしまったのさ」
「あー、動画アップされてましたもんね」
「そう! 実に素晴らしい事だよ。 あのおかげで大勢の人がダンジョンの存在を知った……多少のトラブルはあるだろうが、これからダンジョンに来る人が増えるのは確かだろうからね」
やっぱアマツもあの動画の存在に気が付いていたらしい。
それで今後増えるであろうダンジョンを訪れる人達の事を思い、ひとりでニヤニヤしていたと。
このダンジョンマスター、残念感がすごいよね。
まあ、それは良いとして。
「それで、今日はどうしたんだい?」
「あーっと。 宝箱から出た素材で武器を改造したらスキル使えるようになったんですよ」
本題を話さねば。
「おお! おめでとう! どれどれ……おお、当たりを引いたね。 それは相当レアだよ、運がよかったね」
なるほど、そんなレアだったのか……確かにそれならあの威力も納得だ。
ただ問題はクロが使えなかったと言うこと……。
「それで、俺はスキルを使えたんですけど、クロが使えなかったんです。 これって何が原因なんでしょう?」
「使えない? スキル名を叫べば使えるはずだよ」
やっぱそーか!
そうだと思ったよこんにゃろめーっ。
「クロは喋れないんで」
「あはははっははっ!!」
なにわろとんねん。
「お゛ぅっ!?」
笑うアマツの顔面に、クロの両足がめり込んだのであった。
猫のドロップキックとか初めて見たわ。
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