第21話


「ク……」


ゲートを潜って休憩所へと戻った俺はクロにただいまーと言おうとするが、すやすやと寝ているクロの姿を見て言うのを止める。


ちらりと餌皿に目を向ければ減った様子は見られない。

どうやら俺が5階に向かって戻るまでずっと寝ていたらしい。



「端末でも見てよっと」


寝てるのを起こしちゃ悪いからね。

熟睡しているのなら尚のことである。


俺はクロを起こさないように、そっと壁にもたれ掛かるように座り込む。



そして端末を起動するとすぐに操作し始めた。


端末の中身については先ほど説明を聞いた際に、ざっとではあるが見てある。


ただ細かい部分は見ていないし、まだ開いていない項目もある。

昨日の今日でまだ取れていない疲れもあるかも知れない、なので今日は戦闘を行うつもりは無い、端末を眺めながらゆっくりダラダラすごそうと思っている。



(カードの効果を確認出来たのか)


カードの項目を眺めていたのだけど、カードをタップすると拡大して表示されて、さらにタップすると裏面を見ることが出来た。


そりゃ効果確認出来ないと困るよね……どれどれ。


(ネズミが気配察知「聴覚、嗅覚」に補正、ウサギが足の筋力に補正「基本値に+5」と気配察知「聴覚」に補正……)


カードの効果は描かれたモンスターに合わせた効果となっているらしい、でかウサギであれば足の筋力に補正「基本値に+10」、犬であれば気配察知「嗅覚」いった具合である。


書いてある内容からどんな効果があるのかは想像できるのだが、どれぐらい効果があるのかが分からない。



「いや、そもそも基本値って何……補正だけじゃどれぐらい良くなるとか分からんし」



基本値と言うぐらいなので素の肉体のスペックあたりだとは思うが、基本値が元々100なのか、それとも1000なのかと元の基本値によってこのカードの効果がどれだけ有るのかが変わってくる。


もし10000とかだとすると+5なんて誤差である。


この辺りはアマツに聞いた方が良いかも知れないね。

秘密とか言われる可能性もあるけど……。


「しかもよく見たら使用可能部位が体になってるぞ……体にもスロットがあるってこと?」


体にカードってどうやって使うんだろ。

体にスロットなんて無いよね……?


……口? お尻? いや、そもそも装備にもどうやって使うことになるんだろうね。



「あ、でた。 レベル1が2スロットにレベル2が1スロット……鉈とかと同じか」


画面をぺちぺちと触っていると、不意に俺の体にあるスロットが表示される。

単にマネキンぽい部分に触れれば良いだけだった見たいだ。


スロットは鉈と靴と同じであった。

手持ちのカードを見てみるとそれもレベル1ものであった。

つまりは2枚は使えると言うことである。



「とり外せるんだよね? ……ネズミと犬使ってみるか」


物は試しと使ってみる事にしたよ。

これが一度セットしたらもう外せないとかだったら使わなかったけれどね。


「決定、決定~っと…………ぐっ!?」


セット自体はあっさり出来た。 カードが飛び出て俺の体にっ……何てこともない。


セットして5秒経ったぐらいかな、急に異臭が鼻を突いた。


「急に血生臭くなったぞ……これ、俺の靴からか。 ……鉈はそうでもない、染みこんでる訳じゃ無いからかな」


血生臭いそれは俺の靴から漂っていた。


……そう言えばゴブリンの喉を踏みつぶしてから洗ってないな。

後で洗いにいこう……さっきまで気にしてなかったけれど、こう匂いを嗅いじゃうともうダメだ。


「聴覚は……確かに良くなっている気がする」


聴覚も確かに良くなっていた。

さっきまで聞こえていなかったクロの寝息が聞こえるからね。

ぴすーって言ってる。


「嗅覚はいいかな……ウサギ2種使おっと」


聴覚はいいけど嗅覚はちょっとあれだね、戦闘中とか匂いでうってなりそうだから使いにくいかもだ。


そう言うわけで使うカードはウサギ2種類にしたよ。


クロのチュートリアル終わったら改めて分配しようと思う。





カードを見終わった俺は、次に購入からクロが使える装備がないかと探していた。


「んー……猫用の武器とか防具は無いのかぁ」


ただ残念ながらクロが装備出来そうな武具は無かったのである。

ナイフぐらいなら咥えて攻撃できるかなーと考えたが、クロだと噛んだ方がまだ強い気がしなくもない。


防具の方はかなり絶望的だ。

そもそも人間用のしかないから、サイズ合わなくてどうしようもないって言うね。


俺の場合は今の装備がかなり強力だからこのままで良いと思うんだ。実際にざっと購入できるの見た感じ、今の段階だと良さそうなの無かったからね。 ???って表示になって買えないやつばかりだ。



問題はクロなんだよなー……武器はとにかく防具を何とかしたい……。



そう考えながら俺は端末の画面をスクロールし続けた。

そして武器の一覧を過ぎ、防具の一覧を過ぎたときに新たな一覧が出て来る。


「アクセサリー……? そうだ、アクセサリーなら装備できるかも」


ようは小物類だ。

これなら人間用のでもクロに無理矢理付けられるか知れない

そう考えた俺は期待を込めつつ画面をスクロールしていく。




「なになに……指輪に、腕輪に、ネックレス。 ヘアバンドとかヘアピンもあるぞ」


たぶんつけるだけなら行けると思う。

問題はクロがそれ受けいれるかどうか……邪魔だからって、後ろ足で蹴られてどっかいきそう。ばばばばって。


んー、困った。


一応さ、ペットショップにいけば猫用の装備……というか服とか売ってるんだけどね。

あれに防御力求めるのはちょっと無理があるよねって話で……これはもうあれだね。


「……ダンジョンマスターに相談かなあ」


「呼んだかい?」


ダンジョンマスターに相談するしかない、そう思い呟いた直後、背後から急に声が掛かる。



「っうわぁ!?」



滅茶苦茶ビビったわ!?

つーか背後壁だよ?? 背後の壁から顔だけ出して声掛けるとかさ、もう驚かせる気しかないよね!?



「あははははっ! お困りのようだねぇっ?」


なにわろてんねん。


「……ちょっとですねえ、驚かせてくる人が居て困ってるんですよ」


「それは大変だねっ!」


皮肉が通用しないぞこいつ。

敢えてスルーしているのか本当に気が付いてないのか判断つきゃしない。




「あー面白かった」



…………ひっぱたたいていいかなあ?



「それで猫用の装備が欲しいんだったね? 丁度私もペット用の装備を用意しなければと思っていた所なんだよ」


葛藤しながら右手をぐーぱーしていると、クロ用の装備について話し始めるアマツ。


こんちくしょーめ。


「この世界では飼い犬と狩りをするんだってね? ダンジョンでも例外ではないと思ったのさ」


「犬はあるでしょうねえ……猫はあまり居ないかもですが」


日本でも猪とか熊狩るときに犬を連れて行くんだったかな。

海外でもそうだよね?


ただ、猫と一緒にってないよね……? 小動物ならいけるかもだけど、その場で食っちゃいそうだし。


「手間的には大して変わらないからね、問題ないよ。 クロはここのダンジョン最初のお客様だからね、これぐらいはサービスしないと」


ほうほう。

それはありがたい。



てかクロが最初だったのか……まあ、納屋の中にあるんだし当然か。 逆に俺とクロ以外が見つけてたとしたら怖いわっ。



「準備するまで3週間時間をくれるかい? 島津くんはそれまでポイント溜めておくといいさ。 それじゃ、またね!」


「……いっちゃった」


そう言うだけ言うとアマツは壁の中に引っ込んでいく。

出てきて喋れば良いのに……と思わなくもない。 未だにアマツのキャラがよく分からないぞ……悪い人じゃないのは確かだけど。




「ポイントかあ……とりあえず施設を見てから考えるか」


しっかしポイントねえ。

ポーションで結構使っちゃったし、そこまで余裕あるわけじゃ無いんだよね。


装備を見た感じ最低価格が1000ポイントからだったから、クロの装備を調える事を考えると5000は有った方がいいと思う。


装備の改造にもポイント掛かるしなあ、何やるにもポイントポイントで……アマツに言われた通り稼がないとダメだなあ。




まあ、ポイントは後で稼ぐとして、とりあえず施設も見てしまうかね。


「えーと……部屋拡張、部屋増設、設備の3つか」


項目はあまりないね。

中でさらに分かれているのかなー。



とりあえず部屋拡張からっと。


「部屋拡張は名前のまんまだなあ」


本当にそのまんまだった。

今居る部屋が体育館の半分って感じなんだけど、それを体育館並みに出来るっぽい。


必要ポイントは5000か……今は不自由ないしこれは後回しだな。


次に増設見てみよう。


「部屋増設はー……ここ隣接する感じで増えるっぽいな。 お、部屋の種類結構あるぞ」


増設出来る部屋の種類は色々あった。

寝室(畳、フローリング、etc)、娯楽部屋、筋トレルーム、会議室、音響室……などなど。



「んん!? ね、猫部屋??」


その中に一際目立つ部屋があった。その名も猫部屋である。



これ、アマツが用意してくれたやつだよね??

どうしようすっごく欲しい。

欲しいんだけどー……。


「はっ!? 50000も使うのっ!??」


必要ポイント見て絶望した。


なんだよ50000って、1階のネズミ全部やっつけたって全然足らないぞっ。


ちくせう。



「さすがに手が出ない……いや、そう言えば5階以降は貰えるポイント増えるんだよな?」


今は手が出ない、手が出ないけど欲しい。


でもポイントがない。


そんな時に俺はアマツが語っていた事を思いだした。

そう、5階以降は貰えるポイントがアップするのである。


「……ゴブリン弱かったよな」


そして何故か5階から出て来るゴブリンは弱いのである。

正直、ゴブリンより犬の方が強いまである。





「……ゴブリン美味しいんじゃね?」


こうしてゴブリンじぇのさいどが決定したのであった。

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