第12話
休憩所を出て俺は真っ直ぐに2階への階段へと向かった。
可能な限り最速で攻略をすすめなければならない。
移動は全て駆け足で行く。
通路を通り、道中現れたネズミをすれ違い様に蹴っておく。
死んだかどうかは確認しない、追いついてこなければそれで良い。
通路を駆け抜け、小部屋に入ろうとして……俺は咄嗟に足を止めた。 中にネズミの姿が見えたからだ。それも10匹ほど。
「行く……そっか、一人だもんな」
息を整え合図をしようとして、気持ちが一気に沈む。
クロは休憩所に置いてきたんだ、今は俺しか居ない……合図も不要、俺のタイミングで突っ込めば良いだけだ。
「ふぅ……ネズミなら問題なし」
ネズミが10匹いても苦戦する事はなかった。
円を描くように後ろに下がりつつ、近寄ってきたネズミに順に蹴りを入れていくだけで終わった。
1階は一人でも問題ない、問題は2階からだ……。
2階も1階と同じく扉に向かうまでに幾つか小部屋を通る必要がある。
「ウサギが8……」
ウサギはつい先日5匹までなら無傷で倒せるようになったばかりだ。
恐らく相手が8匹となると……逃げ回りながら攻撃していても倒しきる前にいずれ体力が尽き、囲まれ攻撃を受けることになるだろう。 このまま突っ込めば、だが。
俺はポーションを一つ開け、中身を飲み干すと小部屋へと飛び込んだ。
戦法としてはネズミの時と同じだ、ウサギからひたすら逃げ回り前に出たやつから倒していく。 ただしネズミの時と違い、逃げるにはかなり全力で走る必要がある。
全部倒すまで俺の体力は持たない、なので最初からポーションを使い、体力を回復しながら戦う事にしたのだ。
戦闘は俺の思っていたとおり問題なく進んでいく。
近寄るウサギに蹴りを入れ、跳んだ奴には鉈を振るう。
部屋の隅に何度か追い込まれる事もあったが、それも問題にはならなかった。
「ふっっ」
壁を蹴って、蹴って身を翻しウサギ達を飛び越え、ついでとばかりに鉈で手近なウサギを切りつける。
ダンジョンに潜る前であれば、到底出来そうに無い動きではあるが、レベルアップがそれを可能にしていた。
「……ふぅ」
数分後、俺は室内に居たウサギを全て仕留めていた。
ポーションの効果は持続しており、息切れすらしていない。そして被弾も0であった。
「……いける! ポーションあればいけるぞ」
この感じなら10匹部屋でも問題なく行けるだろう。
つまりそれは3階でもポーションさえあれば一人で行動可能と言うことだ。
続いて10匹部屋へと俺は突撃していた。
ここを抜ければ残りは小部屋が二つ、それと扉のある部屋だけだ。
戦闘自体は順調だった。 最初だけ避けるのに気を回さないといけないが、それも2匹何とか倒してしまえば後は先ほどの8匹部屋と変わらない。
ただ、4匹目を倒した辺りで徐々に息が切れ始め、動きが鈍くなっていく。
(効果切れたっ)
全力で動いた場合、ポーションの効果が持続するのは大体5分ぐらいが限度のようだ。
ただ元から5匹までは無傷で倒せるようにようになっているので、これが6匹になっても苦戦と言うほどの苦戦にはならなかった。
「被弾1……これぐらいなら治療は良いかな」
攻撃を1発だけ避けきれずガードする羽目になったが、動くのに支障はない。
攻撃を受けるようになって分かった事だが、レベルアップの恩恵は自身の耐久力にも影響するようで一番最初に受けたウサギの蹴り、あれと比べてダメージは大分少なくなっている。
俺は治療せずそのまま次の部屋へと向かう事にした。
「あ、飲んだらどっちにしろ回復するか……くそ」
怪我を負ってようが負ってなかろうがどちらにしても小部屋に入る際に再びポーションを飲む事になる。
次からは戦闘が終わってダメージが残っているようならその場で飲んでしまう事にしよう……。
「時間と言うか回復した体力と怪我の量が一定に達すると効果が切れる……かな」
残りの二部屋の攻略を終えた結果から、俺はポーションの持続時間についてそう仮定した。
最初の2部屋と次の2部屋とではポーションの効果が切れるタイミングが違ったのだ。
戦闘自体の流れはほぼ同じで、違うのは事前に傷を治したかどうか。
それ以外の条件があるかも知れないが、それはいずれ確認しようと思う。
「ここからが本番……」
2階の階段部屋へと入り、3階へと降りる。
3階も見た目は1階、2階と変わりが無い、俺はポーションを飲み干して通路を歩き始める。
まずは通路の敵を問題なく倒せるかだ。 1匹なら問題ない、2匹だと正直どうなるか……逃げ回るってのは無しだ、明らかに俺が走るよりウサギ……区別するのにでかウサギと呼ぶか……でかウサギの方が速いからだ。
そうなるとがっしり構えてダメージ覚悟で削っていくしかないか。
もちろん避けられるのは避けたり防いだりはする、でも被弾は多くなる……ポーションの効果がどれだけ持つだろうか……そう考えたところで曲がり角の先から足音が聞こえた。
通路で出くわす敵は曲がり角の先から現れる事が多い、1階や2階でこのパターンは何度も経験している。俺は慌てること無く鉈を構える……が。
聞こえる足音は2匹分だった。
「いきなり2匹かっ」
最初は1匹からで慣れていきたかったが、来てしまったものは仕方が無い、俺は悪態を付きながらも襲撃に備えてぐっと腰を落とす。
ダメージは避けられない物とし、出来るだけ早く倒す必要がある。
曲がり角から飛び出してきたでかウサギは俺を視界に収めると同時に一気に距離を詰めてくる。
2匹同時にではなく、でかウサギ同士は体一つ分距離が離れている。
俺は先頭のでかウサギが射程に入る直前に、腰を落とした反動で思いっきり足を蹴り出し、でかウサギの懐に飛び込んだ。
距離を詰めてしまえば蹴りの威力は半減する。
仮にガードに失敗したとしてもダメージは少なくてもすむ。
逆にこちらは鉈で切りつけるのでは無く、突き刺す攻撃を選択したので距離を詰めたデメリットはあまりない。
体重を乗せた鉈の一撃はウサギの腹部に根元まで埋まり混む、それと同時に俺の太ももにでかウサギの蹴りが入るが、ダメージはほとんど無い。
最初の出だしは上手くいったようだ。
「ぐっ」
だが、それは1匹目だけの事。
俺の右脇腹にドゴォッといった感じで2匹目の蹴りがもろに入った。
蹴りの威力は凄まじく、俺の体が一瞬浮いて横にはじき出されてしまう程だ。
……でも耐えられない程じゃ無い、痛いには痛いが骨も折れては居ないだろう。
相手は重傷で俺は軽傷、しかもポーションの効果ですぐ治る。
でかウサギからすればふざけるなと言いたくなる状況だろう。
蹴り飛ばされた俺はすぐに体勢を整え追撃を迎え撃とうとした。
すると無傷な奴だけではなく、腹を刺されて重傷なはずのでかウサギまでもが俺に攻撃を繰り出そうとしていた。
重傷の方が動きが鈍い、一瞬でそう判断した俺は迷うこと無く重傷の方へと飛び掛かり、今度は首元目がけて鉈を振り下ろした。
鉈を受けたウサギは力を失い、崩れ落ちるように床に倒れ込む。
俺はもう1匹の攻撃を耐えるため腹にぐっと力を込め、右腕で頭部を庇った。
攻撃されるなら脇腹か頭部だろう……そう思っていた、だが衝撃を受けたのは正面からであった。
「がひゅっ!?」
でかウサギの攻撃は軌道がクネクネと変わったり、フェイントを入れたりはするがどれもが人間で言う回し蹴りに該当するものだった。
だが今回でかウサギが放ったのは、折り畳んだ脚を突き出すように放つ蹴りであった。前脚の先端に威力が集中し、脚は俺の肋骨を折り、めり込んですらいる。
呼吸が止まり、痛みで脂汗が浮かぶ。
正直やばい、倒れ込みたいぐらい痛い……が倒れ込んだらどうなるかはわかりきっている。
俺は歯を食いしばるとでかウサギに向け反撃を開始した。
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