第10話
あれから2週間が経った。
俺とクロの探索は順調で既にマップの半分が埋まっている状態だ。
……いや、この場合はまだって言った方がいいのかな? 1階の時は半分埋めるのに確か1日ぐらいしか掛かってないんだよね。 それから比べると大分遅れていると言っても良いだろう……まあ原因は分かっているんだけどー。
「……ネズミがウサギになったら難易度上がったなあ」
単純に敵が強くなったからなのだ。
ウサギの行動パターンは近付いて噛みつくか、飛び跳ねて蹴るかの2択なんだけど、選択肢が一つ増えただけでこれが結構大変なのだ。
ネズミはひたすら噛みつくだけだったから対処は楽だったんだけど……いや、楽すぎるぐらいだったんだけどさ。
ウサギの場合は下手すると避けられた上に蹴られるからねえ……どうしても慎重になっちゃうのだ。
んで、慎重になるって事はつまり倒すのに時間が掛かるってことで、1匹だけじゃなく2匹3匹と同時に相手しなくちゃいけなくなるって事なのだ。
クロはウサギよりも大分素早いからヒットアンドアウェイな感じで問題なく戦えてるんだよね、数がもっと増えてもたぶん問題ないと思う。
俺も一応3匹同時ぐらいなら問題は無いのだけど、これがもう1匹増えると被弾が多くなる。まじ痛い。
俺はクロみたいに小回り効かないからヒットアンドアウェイも出来ないしねー。 そんな訳でまだ小部屋の大半を攻略出来ないでいたのだ。
「ごり押し出来なくはないんだけどね」
ポーション頼みでダメージ無視してごり押しでも行けなくはないんだけど、それは最終手段だからなー……あ、そうそうポーションだけどね、大体週に10個ぐらいのペースで手に入ってたりするよ。 そろそろ30個ぐらいたまるのかな? 何個か使ってはいるけれど、たまるペースの方が早いね。
たまったポーションをどうするかは一応考えてはあるのだけど、実際にどうにかするのは高校卒業して……もっと攻略が進んでからか、それかここ以外にもダンジョンの存在が確認されたらかな? ここだけにしか無い可能性だってあるけど、その逆もありえるんだよね。 他にもダンジョンがあるのであればポーションを表に出しても目立ちにくいんじゃないかなーって思ってる。
とりあえずそれまでにもっと在庫増やして、出来れば他のお宝も手に入れたいところだ。 いや、ほんとまじでそろそろ他のお宝が欲しい。
……ま、それは置いといて攻略の方を進めないと。
先に進めば他のお宝が出るかも知れないし……とは言っても急いで進めるのは難しい……。
「次は何が来るか分からないし……やっぱ部屋にいる連中を無傷で倒せるぐらいじゃないと次の階に行くの危ないかな」
ウサギと初めて戦った時、俺とクロの戦闘能力?はもうネズミなら何匹でも余裕ですー、みたいな状態だった。
それでもウサギに良いの一発貰っちゃった訳で。次の階層行くときには少なくともウサギなら何匹でも余裕だーって状態にしておかないと危ないと思う。
そこまで強くなるには結構な数のウサギを倒さないとダメだ。ネズミは1000まで行かなくてもそれに近い数は倒していたはずだからね、ウサギもそれぐらいは倒さないと……多いなっ。
「あと半分ぐらいかなー……」
多いけどやらねば、やらずに突っ込めばボコボコにされるのが落ちだろうし。
もう500は倒したし、とりあえず土日は午前と午後フルで戦って、平日は暇な日だけ……ん?
「どうしたのクロ?」
俺が考え事しながら歩いていると、クロが前足で俺の足をタシタシっと叩いたのだ。
振り返ってクロを見ると……クロはどこかむすっとした感じの目で俺をじーっと見ていた。
……この感じは。
クロの様子にはっとした俺は慌ててスマホの時計を見る。
時刻は11時をとうに過ぎていた。
「あ、そっかもうこんな時間なのね。クロありがと、一度戻ろうか」
クロのあれはようはお腹空いたぞって事だ。
俺はちょっと駆け足で1階の休憩所へと向かうのであった。
「それ新商品だから買ってみたんだけど……美味しい?」
そうクロに尋ねると、クロはうにゃうにゃと返事を返してくれた。
どうやら美味しかったようだ。 いつもの缶詰より食いつきが良いし、次からはこれを多めに買っておこうかな。
「お昼どうしようかなー」
クロのご飯は用意したけれど俺のがまだなのだ。
ダンジョン潜っているときはそうでもなかったけれど、地上に戻ってきたら段々お腹が空いてきちゃってねー。
お肉は夜使う予定だし……冷凍うどんでもチンして食べるか?いやそれとも……と俺がお昼のメニューをどうするかで頭を悩ましていると、玄関のチャイムが不意に鳴らされる。
「誰だろ?」
首を傾げ玄関へと向かう俺。
基本的に我が家を訪ねてくる人は限られている、集金の人だったり、怪しい勧誘だったり、あと近所に住んでるじいちゃんばあちゃん。友人は来る前にスマホに連絡来るのでたぶん違う。
集金は今月はもう来ているので、となると……怪しい勧誘だったら居ない振りしよう。
「……」
そろーっと足音を殺してドアののぞき窓から外を見ると……そこには見慣れた顔があった。
「あ、じいちゃん。 待ってね今開けるから」
「おーう」
じいちゃんだった。
ばあちゃん一緒じゃないけど、どうしたのかなー?
とりあえず玄関開けてっと。
「ほれ、土産だ」
「おー、野菜だ! ありがとうじいちゃん……あれ、これ今って時期だっけ?」
「そりゃハウスのだからの」
「あ、なるほど」
じいちゃんは玄関に入るとほい、と野菜がみっちり詰まったビニール袋を渡してくる。
じいちゃんは農家をやっているので時々こうやって採れたての野菜をお裾分けしてくれるのだ。
それは両親が亡くなる前からもだったけど、亡くなってからは残った俺を心配してより頻繁に顔を見に来てくれてる。
あ、ちなみに母方のじいちゃんばあちゃんね。
父方のじいちゃんばあちゃんは海で漁師をやっているのだけれど、ちょっと距離が遠いので頻繁に来るのは難しい。
それでも年に何度か会いに行ったり、来たりしてるよ。
じいちゃんばあちゃんもだけど従兄弟とかも含めて親戚付き合いは結構有る方だと思う。
「康平、もう昼は食ったか?」
「いや、これから作るところー」
野菜貰っちゃったし、野菜炒めとラーメンとか良いかも。
じいちゃんとばあちゃんの分も一緒に……ん、もう食べたかって聞いたってことはー。
「丁度ええわ。 ばあさんがスーパーで何か買ってくるそうでな、一緒に食うとええ」
「やった、ありがとー!」
あ、やっぱりばあちゃんが何か買いに行ってたのね。
俺の家からスーパーまで100mもないし、たぶん途中でばあちゃんと別れてじいちゃんだけ先に来たのだろう。
「お、チャイムが」
「ばあさんだろう」
噂をすれば何とやら。
玄関のチャイムがなったのでじいちゃん置いて出迎えに行く俺とクロ。……クロ?
「よっ……こいせ。 ついたついた」
「ばあちゃん、いっぱい買ったねー」
ばあちゃんまた大量に買い込んで……ってこれはっ。
「重かったでしょって寿司だー!」
寿司だ!
「康平、お寿司好きだったでしょ? いっぱい買ってきたからたんとお食べ」
やったぜ、ばあちゃん大好き。
寿司は焼肉と並んで好きな食べ物トップである。
久しぶりのお寿司に思わず小躍りしちゃうぞ。
……なんでクロも?って思ったらクロ、寿司に反応したのか。
部屋に戻ったらじいちゃんが少し寂しそうにしてたけど、寿司の後をついて行くクロを見てニコニコしていたのでたぶん大丈夫。
「はい、お茶おかわり」
「おお、すまんなあ」
「ありがとねえ」
久しぶりのお寿司は美味しゅう御座いました。
クロはもうご飯食べた後だったので、マグロを一切れだけあげといた。
今も食卓の端っこに置いた切り身をちょいちょい……とつついて前足をぺろぺろしてる。
……なんかね、お刺身系はすごい欲しがるのに直接あげたり餌用の皿にいれても食べないんだよね。
食卓の端っこに置いたやつを少しずつ動かして、落ちるとぱくって食べるの。ほんと謎である。
「康平はそろそろ卒業だったか?」
お茶をずずずっと飲み、じいちゃんがそうたずねてくる。
「うん、来月だね。 授業は今月半ばまでだったかな?」
俺は湯呑みを置いてちらっと壁に掛けたカレンダーを確認し、そう答える。
卒業式までもう一月を切っていた。
「そうかそうかもう卒業か……早いもんだの」
「本当ねえ……」
俺を見てそうシミジミといった感じで話すじいちゃんと、それに相槌を打つばあちゃん。
いや、本当にいざ卒業するとなるとねー3年間あっと言う間だよ。 色々あった……し……危ない、思考が暗い方向に行きかけた。
「就職は決まったのか?」
「んー、一応は考えてるけどまだなんだ」
本当は3年上がってすぐ決まっていたんだけど……事故の後に辞退した。ちょっとあの当時の精神状態じゃ仕事は無理だと思ったから。
会社の就職担当さんは落ち着いたら来ると良いと言ってくれたけど……ダンジョンあるしたぶん、行かないと思う。ごめんなさい。
「そうかそうか。 まあ。焦らんでええ……いざとなったら畑継いでも良いでな」
「いざって時はお願いね」
畑を継いでも良いと言うじいちゃんにそう笑って答える。
……継ぐかどうかは別として手伝ったりはしようかなーと思っていたりする。
いつもお野菜貰ってばかりで悪いしね。 それにじいちゃん結構な年だし、この間腰が痛くてー……とか言ってたから、俺でも重い物持ったり手伝える事は有るだろうし。
……いや、腰が痛いならポーションを? 身内とは言えさすがに不味いかな……ポーションはもう少し落ち着いたらにしよう。 あ、そういやウサギはどうなんだろ、じいちゃん熊肉とか食ってたしウサギもいけちゃうのかな?
「そうだ、じいちゃん」
「ん?」
「ウサギって食べたことある?」
聞いてみよう。
「あるぞ、割とうまかったが……食いたいのか?」
「ウサギなんて売ってたかしらねえ」
やっぱ食ったことあるんかいっ。
てかうっかり俺が食うことになりそうな流れになってるし!
「あ、いやいや! そういう訳じゃないから大丈夫!」
慌てて首振って否定しておいた。
俺の慌てた態度にちょっと首を傾げていたけれど……それ以上の追求はなかった。危ない危ない。
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