第9話 策は無し

「策が……ない!」


 街の広場で頭を抱えていた。

 そもそもどうやって助ければいいんだ? アンズを助けた時はまぐれだった。


 フラムたち騎士団がくるかと思ったが、それはなかった。

 街の長に聞いたが管轄が違うらしい。街の騎士団で対応するが、誰もクリュエルとは戦いたくないと言っている。

 今戦えば負ける。その上街の防衛もできなくなる。それだけに強大な敵なのだ。


「大丈夫?」


 アンズが心配そうに覗き込んでくる。


「あぁ、問題ない」


 大アリだけど。策の一つもないけれど!

 チートなし、仲間無し、打つ手無し。


 思わず口角が上がってしまう。

 上等だ。なんて呟いてみるが状況は変わらない。


 怪我人の応急処置が終わった街には、静けさがあった。生き延びるために必死な、か細い息遣いだけが聞こえてくるようだった。

 水では対処できない火災は、燃えている家屋を壊して燃え移らないようにしている。

 広場に掲げられていた木の板にはケイオと書かれているが、半分に破られていた。きっとこの町の名前だろう。


「この火みたいな魔法が使えたら」


「魔法? ニーナお姉ちゃん使えるよ!」


「確かに使えるけどなぁ。治癒魔法っていうのだけなんだって。でも騎士団の奴らは使えるみたいだな」


 出発する前にニーナから聞いたことが脳裏に浮かぶ。


 ——我々シュヴァリエ人は、みな大なり小なり魔法が使えます。どの魔法なのかは遺伝が大きいですが、それよりも大事なのは鍛錬されることです。


 ——鍛錬? 筋肉みたいに強くなるんですか?


 ——その通りです。それの代表が騎士団です。シュヴァリエ騎士団は幼い時から入団して鍛錬を繰り返し、常人の何十倍の魔力を持っています。だから会った時には気をつけて。


 ——じゃあ、あのフラムって人も?

 

 ——フラムさんこそ気をつけてください。一時期はイリス姫の近衛騎士団長を務めていた時もあるんです。


 ——イリスの護衛?


 その時は驚いたものだ。と懐かしくなる。

 今、ニーナのような回復能力があれば捕まって疲弊した子どもたちを安全に連れ帰れるだろう。

 もしフラムのような戦闘力があれば、クリュエル軍を倒せるだろう。


 その二つがないなら。


「ひゃぁ」


「どうした!」

  

 アンズの声に、体が反射で動く。何かあったのだろうか。


「火がついた!」


 アンズは小さな小枝に、地面に落ちていた燃えた木から火を移していた。


「そ、そうか。よかったな」


「うん、もっと大きくする!」


「あんまりやりすぎないようにな」


「あっちにたくさん枝があるから取ってくる」


 アンズはそのまま燃えている家の近くに走り出そうとするが、流石に止めた。

 脇の下に手を入れて抱き上げる。


「危ないからだめ」


「えぇ、でも大きい火を起こしたいの!」


「そりゃ、たくさん枝を取ってこれば出来るだろうけど」


 その時だった。頬を打たれたかのような衝撃が走った。


「そうか、たくさんの炎が欲しいなら持ってこればいいんだ」


「だから言ってるじゃん!」


「アンズ、悪いが火遊びは終わりだ。オルキデに戻るぞ」


「ニーナお姉ちゃんに会える?」


「あぁ、もちろん」


 俺はアンズをそのままバイクにのせると、長にあるものの制作を頼んでからオルキデに戻ったのだった。


 *     *     *


「レアンさん!? 何でここに!」


 道中、予想は的中した。ニーナは大きなリュックを背負ってケイオまで向かっている途中だった。


「とにかく乗って、荷物はアンズに渡して」


「え、ええ!?」


 俺はニーナの腰に手を回すと、そのままバイクにのせた。

 元々一人乗り用のバイクなため、窮屈になるが仕方がない。


 次に目指すのはオルキデの街だった。


 *     *     *


「いたぞ! 例の無礼者だ」


 フラムは全身から火の粉を撒き散らしていた。


「そんな呼ばれ方をしているのか!」


 俺は驚きと共にオルキデの街中を爆走していた。しかもクラクションを鳴らしながら。

 現代なら危険行為で即刻刑務所入りだろう。


 オルキデ中の騎士が出てきたところで、街の外にでる。


「逃すな、街の外だろうと追う!」


 ここまでは全部順調だ。いくら管轄が違うからと言っても、アンズがいる限り追ってくる。


 そして俺らはバイクがある限り逃げられれるはず。


「止まれええ!」


 平原でフラムはいきなり飛び上がった。人間じゃありえないような跳躍力だったが、足から火を噴出しているらしい。


 そして炎をまとった剣を抜いて、空中で一振り。

 たったその一振りで、俺の後ろから爆風が襲い掛かった。


「レアンさん。危ない!」


 バイクが爆風で浮き上がる。なんとか体勢を整えるが二度目は難しそうだ。

 三人乗りという法律無視な走り方のため速度も思ったより出ない。


 ギリギリ追いつかれないというのが限界だった。


 だがバイクのスピードに食いつけるのはフラムだけのようだった。

 他の騎士たちは息を切らし初めている。

 フラムが他の騎士に合わせて、追いかける速度を緩めた。


「追いつかないと、ただのランニングになるぞ!」


「今に見てろ。騎士のなにかけて倒す」


 捕まえるだけじゃなかったのかよ。

 ますます捕まえるわけにはいかない。


「ひいいい。こんな始まり方になるなんてぇ」


 ニーナが背中にしがみついてくる。

 俺もそんなこと思ってもなかったと思いながら、ケイオまでバイクを走らせたのだった。


 *    *    *


 街の長にたどり着いた頃、フラムたちは程よく距離を置いて追ってきてくれた。


「頼んでいたものは」


「大工に頼んで作りましたが、一体何に」


 広場には馬車のようで、馬車じゃないものがある。

 本来馬が引くはずの場所には紐がたらされていて、バイクにも括り付けられるようにしてある。


「レアンさん。何をするの?」


「説明は道中で」


 あとは実際に走るだけ。バイクを最大限に使った、俺にしかできない助け方。


「行こう」


 俺は深く息を吐くと、バイクに跨ったのだった。

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異世界郵便屋〜手紙と少女を運ぶことになりました〜(休載中) 柊織之助 @orinosuke

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