第7話 何がしたいか

「ニーナさん、ありがとう!」


 夜が明ける前、俺たちは教会の前で出発する準備を整えていた。

 数日分の食糧、毛布、アンズ、自分の気合。全て用意はできている。

 バイクはニーナが取りに行ってくれた。帰ってから様子が変だけど、人酔いでもしたのだろう。


「レアンさん、前の世界では手紙を運んでいたとか」


 アンズを荷台に乗せて、自分もバイクに乗り込んだところだった。

 ニーナが空色の封筒を渡してきた。


「これをリオまでお願いします。きっと協力してくれるはず」


「手紙か」

 

 懐かしい。

 アンズは手紙に興味津々で、荷台から身を乗り出して手紙を見つめている。


「しっかり渡します」

 

 ここに来る直前まで、俺は手紙を運んでいた。ちょっと近くの山に立ち寄って、神社に行ったんだ。

 

「それじゃあ」


 ニーナから手紙を受け取ると、アンズに渡した。

 本来手紙が入っているはずの場所には女の子がいるんだから、代わりに手紙を守ってもらおう。


「あの!」

「まだ何か」

「違うんです。その、私もアッシュに行ってもいいですか」

「でもどうして」

「レアンさんとアンズちゃんの力になりたい」


 ニーナは大きな体を小動物みたいに縮ませていたが、目はずっと俺を見ていた。


「教会は大丈夫なんですか?」

「なんとかします。ちょっと準備に時間がかかるかもしれませんが、後から追います」


 今まで大人びて見えたニーナだったが、今は違った。オドオドした様子はない。


「ニーナお姉ちゃんも来るの?」

「……そうみたいだな」


 ニーナの顔がパッと明るくなって、すぐに頭を下げた。


「ありがとうございます」

「こっちこそ。一人でアンズを見れるか心配だったんです」


 この世界の仲間。これほど心強い存在はない。

 アッシュに行く手前の街で落ち合うのがいいだろう。


「そうだ」


 俺は手を叩いた。


「タメ口にしませんか? 旅の仲間として」


 ニーナの頬が赤くなっていった。両手を後ろに回して腰をクネクネと動かしている。

 そのまま何も話さないので、おかしいことを言ってしまっただろうか! なんて不安になってしまう。


「う……うん」


 ニーナは照れ臭そうに笑った。

 タメ口にするだけなのに、なんだかむず痒い。

 俺は恥ずかしさを取り払うように、バイクのエンジンをかけた。


「それじゃあ、次の街で待ってる。どうせお金を稼がないといけないし」

「はい!」


 じゃあまた。

 再会できるよう願いを込めて、俺とニーナは手を振り合った。

 


 *     *     *



「そういえば、ガソリン切れないな」


 俺たちはニーナと出会った街から離れ、再び草原の中を走っていた。


「ガソリン?」

「知らないのか。この機械を動かすご飯だよ」


 アンズに伝わるだろうか。なんて思ったが無理そうだった。

 アンズは首を傾げたまま、「……機械の食べ物」と呟いた。


「もしかしたらこの世界にはないかもしれないな」


 俺はガソリンメーターを確認した。やっぱり満タンのままだ。


「やっぱりおかしい、もうとっくに切れてもいい頃なのに」

「機械さん動けなくなる?」


 アンズは荷台の縁をまだ柔らかい手で摩った。


「大丈夫だよ。でもおかしいな」


 ニーナに聞いておけばよかった。

 そう後悔しているうちに、俺たちは次の街に着いたのだった。




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