第6話 ニーナside 私のやりたいこと

 私は街中に溢れる瞳に怯えながら、広場を目指していた。

 右を見ても、左を見ても人が私を見ている。


 あぁ、絶対背が高いからだぁ。背が低くなる魔法があったらいいのに。


 私は大人の男性よりも背が高い。6歳くらいの時から、すでに周りの男子よりも大きかった。

 そのせいで破れた恋もある。

 思えばあの時から恋愛も怖くなって、男性のことも他人の目も怖くなってしまった。


 男性から、あまり良い目で見られないのは知っている。背が高いせいでからかわれるし、胸が大きいせいで嫌な目で見られるし。


 あぁまただ。


 広場には人だかりができていた。騎士の姿も見える。

 その中心には、一台の乗り物があった。人見知りの私が広場に出てきた理由その物だった。


 先日、私は神父の出張があり教会でお留守番をしていた。その時にきた珍しいお客のために、この変テコな乗り物を取りにきたのだ。


 なんでも、バイクというらしい。魔法を動力としていないらしい。


「結局これはなんなんだ」


 肉屋の主人が広場で頭を傾げていた。

 本当に不思議な乗り物だ。前方には棒が二本突き刺さっているし、後ろはウサギみたいに膨らんでいるし。


「誰のモノでもないってんなら、捨てちまうか」


「すす、すみません!」


 私は人混みの中に体を滑り込ませた。

 今なら絞られる果実の気持ちがわかる。


「あなたは?」

 

 騎士団の女の子だ。鋭い目つきで睨んでくる。

 私の胸元くらいまでの身長だろうか。レアンさんよりも低い。ちょっぴり可愛いかも。


「聞いているの?」


 研ぎたてのナイフのような眼光だった。やっぱり前言撤回。めちゃくちゃ怖いかも……。


「あ、あの私のなんです。魔導具で……」


「聖職者が魔導具を?」


「しゅしゅ、趣味で」


 一刻も早く帰りたい! 騎士団にレアンさんの居場所がバレちゃいけない。目的は一つだけ。バイクを持って帰ること。


 のろまな私にだってできるはず!


 私はバイクの突起物を持つと、そそくさと教会に戻ろうとした。

 あとは戻るだけ、止められなければ。


「ちょっとあなた」


 後ろから炎のように熱い声がする。火傷しそうだよ。


「その技術、騎士団のために使ってみない?」


「ええぇ!?」


 思わずバイクから手が離れる。倒れかけたバイクを慌てて掴んだ。

 騎士の女の子は、ギャグのような動きをする私のことなど気にもせずに近づいてくる。


「魔導具がこれから必要になってくるのよ」


「フラム団長!?」


 フラムと呼ばれた女の子は、振り返ると騎士の一人を睨みつけた。


「魔導具なんて頼らなくても我々には魔法が!」


「じゃあこの前の戦いだって勝てたのよ!」


 あぁ、言い争いが始まったよぉ。


 広場の人だかりが、騎士同士の揉め事にざわつき始める。


 私は喧嘩が嫌いだ。感情に任せて鋭い言葉を使うし、相手の心から血が流れても止めないし。

 世界には何十万年も前から人間はいたと言われているのに、争うことをやめない。


 敵を争うだけでなく、仲間内でも争いだす。

 

 きっと神様なんていないんだ。誰も止めてなんかくれない。なんて言ったら流石にバチ当たりだろうな。


「今の時代には柔軟に受け入れることも大事よ。だからあの子を——」


 そんなフラムの声がわずかに聞こえたのは、私は広場から逃げおおせた時だった。

 広場から見えないよう、路地裏に入った。




 *     *     *




 バイクと呼ばれる乗り物をひきながら、とぼとぼ教会に歩いていく。


 レアンさんはあんな怖い人たちにこれから追われるんだ。

 

 聖職者として、何かできることはないだろうか。一緒に行けば回復魔法を使ってあげられるかも。

 なんて考えが脳裏をよぎった瞬間、自分の自惚れに恥ずかしくなった。


 私が人の助けになる? まさか。


 私は出来損ないだから、きっとレアンさんの足手纏いになる。

  

 そうだ、いない方がいい。


 ——ニーナはどう生きたいんだ?


 ふいに、懐かしい声が聞こえた気がした。

 私とは違って、あの人は他人の視線を気にせずに行動する。そのせいで秘薬を使ったときには神父から怒られていたけれど。


 あの人ならどうするだろう。レアンさんについていくだろうか。


 そもそもあの人は、アンズちゃんを北部まで届けてくれるだろうか。


 かき混ぜられるスープのように頭の中がまとまらない。


 石畳がなくなり、土の道になった。いつの間にか教会に着いてしまった。

 私はどうするか決めることができないまま、教会の中に入ったのだった。

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