121.サラマンドラ

 吹きあがる溶岩に視線が行く。

 そして、その奥に潜む赤い瞳に俺たちは気付く。


「シンク!」


「ああ、良いタイミングで出てきたな」


 サラマンドラ。

 赤い鱗と尻尾の先が燃えているのが特徴的で、分類的には地竜の一種。

 地竜とは羽をもたないドラゴンであり、サラマンドラはその代表格とも言える。


「キリエ!」


「オッケー!」


 俺の声掛けで、キリエが槍を構える。

 いつも以上に急いで、まるで焦っているようにも見えるが、ちゃんと作戦通りだ。

 サラマンドラとの戦いは、時間との勝負でもある。

 理由はサラマンドラの特性にあった。


「ミアも手伝って!」


「了解!」


 キリエの刺突が当たり、ミアが追撃する。

 前衛二人の猛攻撃に、サラマンドラは防戦一方。

 このまま倒せるのなら、一番楽に終わるだろう。

 だが――


「――っ、叫んだ!?」


 サラマンドラは激しく吠えた。

 仮にもドラゴンの咆哮だ。

 地は震え、二人は距離を取らざるを得なくなる。

 その隙を突いて、サラマンドラは向きを変え……


 溶岩の川に跳び込んだ。


「っち、やられた」


「間に合わなかったみたいだね」


 悔しそうな表情を浮かべて、前衛二人が戻ってくる。

 戻って来た二人が俺に言う。


「ごめんシンク、失敗した」


「あと一歩だったのに……」


「いや、中々良い感じだったと思うよ。それに元々、本命はユイだからな」


 そう言って、俺はユイに目を向ける。

 すると、ユイは杖を強く握り、頼もしい表情で頷く。


 サラマンドラの特性。

 それは、一定以上のダメージを負うと見せる行動だ。

 目の前で見せたように、溶岩へ跳び込む。

 諦めて自死を選んだわけでも、逃げようとしたわけでもない。

 サラマンドラは溶岩を纏うことが出来るんだ。

 

「溶岩を纏われたら、近接戦闘は不利だ。硬い以前に武器が溶かされる」


「私の剣なら再生するけど、結局刃が届かないもんね」


「ああ。だからここからは、俺とユイの出番だ」


 俺は弓を構え、バッグから爆発矢を取り出す。

 おそらく爆発やでは、溶岩を被ったサラマンドラに大したダメージは与えられない。

 それでも撃つ。

 狙いは別にあるから。


「俺があいつを溶岩から出す! 後はユイに任せるよ」


「うん」


 溶岩の中で倒してしまうと、炎のコアまで消滅してしまう。

 まずは地面の上に誘導する必要がある。

 その役目は俺が担う。

 爆発矢に加え、氷属性を付与した矢も使い、多少なりともダメージを与える。

 自分に通じる攻撃であれば、サラマンドラも回避する。

 そうして上手く誘導して――


「出たぞ!」


 サラマンドラが溶岩から出た。

 纏った溶岩がドロドロと流れていく。

 一部が固まり、超硬質な外殻となってサラマンドラを守っている。

 今のサラマンドラには、ほとんどの物理攻撃が通じない。


「耳塞いでて」


 ユイが俺たちにそう言うと、杖を構えて魔法陣を展開させる。

 彼女が放とうとしているのは水属性の魔法。

 超高圧の水を押し出すだけで、攻撃力は低め。

 しかし、サラマンドラの表面は超高温に熱せられている。

 そこに水が衝突すれば、水は一瞬で気化し、大爆発を起こす。


「アクアスプレット」


 水蒸気爆発。

 彼女が引き起こした現象の名前だ。

 大爆発の衝撃は、サラマンドラの固まった外殻をも破壊する。


「耳がぁ~」


「うっ……うるさい」


 すさまじい衝撃は、耳をふさいでいても響く。

 しばらく爆発の煙と耳鳴りが止まらない。

 そうして、煙が晴れた頃には、地面に赤くて丸いコアが転がっていた。

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