119.イレーヌ鉱石

 火山エリアの気温は、中心部へ向かうほど高くなる。

 安全な街道を逸れ、険しい山道を歩くこと数分。

 目に入る景色が徐々に変化し始めた頃、汗の流れる量も増えていく。


「暑い……」


「キリエさっきからそればっかりだよ」


「だって暑いんだもん」


 キリエの言っていることもわかる。

 実際、感じる暑さはより一層厳しくなっている。

 それにブツブツと文句を言いながら、山道を登っていく。


 三十分後――


「いましたよ!」


 ミレイナがそう言い、道の端を指さす。

 岩と岩の間に、俺たちが捜しているモンスターが休んでいた。


 ザラタートル。

 体長五メートルを超える巨大な亀のモンスターで、火山エリア全域に生息している。

 モンスターの中では凶暴性が低く、危害を加えない限りは襲って来ない。

 岩や鉱石を主な食料としており、食べた鉱物を体内の期間で分解し、背中の甲羅で栄養として蓄える機能があるとか。

 正確な機能については解明されていないが、その過程で誕生するのがイレーヌ鉱石だ。

 甲羅にキラキラと光る瑠璃色の結晶が見える。


「あれがイレーヌ鉱石だな」


「あれを甲羅から剥がせばいいんだよね?」


「ああ」


「よっしゃ! んじゃさっさとやっちゃおうぜ!」


 戦闘になると、キリエはちょっぴり元気を取り戻していた。

 いの一番に武器を構え、タートルと向かい合う。

 敵意を察知したタートルは、首を長く伸ばして威嚇してくる。


「そんなの怖くないぞ!」


 キリエが突っ込む。

 タートルは首を逸らし、彼女の攻撃は甲羅にヒットする。

 カーンという高い音を響かせて、突っ込んだキリエは弾き出されてしまう。


「硬った……」


「私もいくよ!」


「援護する」


 ミアとユイも応戦する。

 タートルは攻撃力も低く、動きも遅い。

 これまで戦ってきたモンスターの中でも、決して強い部類ではない。

 だが、ある意味一番面倒な相手かもしれない。


「シンクさん、こもりましたよ」


「ええ。思ったより早かったですね」


 それだけ彼女たちの攻撃が激しかったのか。

 タートルは一定のダメージを与えると、手足と頭を甲羅の中へ引っ込めてしまう。

 こうなると攻撃こそしてこないが、硬い甲羅しかこちらも攻撃できない。

 究極の防御モードという所か。

 ここから先は、ただひたすらに甲羅を攻撃するだけ。

 イレーヌ鉱石が背中から剥がれるまで、一心不乱に攻撃し続ける。


「おりゃおりゃおりゃー!」


「腕っ……痺れそう」


「効いてるの……かな?」


 今回のクエストがタートル討伐だったら、おそらく一時間以上はかかるだろう。

 それほどに甲羅の硬度は高い。

 反撃がないことがせめてもの救いだが……


「なんか弱い物いじめしてるみたいだな」


 光景だけ見れば、俺たちが悪者にしか見えない。

 そんな罪悪感とも戦いながら、俺たちは二十分以上攻撃し続け、やっとの思いでイレーヌ鉱石を手に入れた。

 この世で最も硬いイレーヌ鉱石は、あれだけの攻撃を浴びて尚、傷一つ付いていない。

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