114.最後の部屋

 心臓を抜き取られた黒いゴーレムは、ただの土くれに戻っていく。

 バラバラを崩壊が始まり、同時に白いゴーレムも機能を停止させ、同じように崩壊し始めた。


「思った通り、黒いゴーレムが魔力を供給してみたいだな」


「シンク~ 終わったぞー!」


 キリエが手を振っている。

 その手には黒いゴーレムから抜きとった心臓を持っている。

 今度こそ、本物の心臓だ。

 まず色からして違う。

 白いゴーレムの心臓は無色透明だったのに対して、こっちは濃い青色をしている。

 と言っても、普通の心臓でもないようだけど。


「心臓を複製できるなんて、聞いたことないな」


「これを作った人って、すごい技術を持ってたんだね」


「ああ」


 ミアの言う通りだ。

 少なくとも、これまでに発見されている遺跡よりも、優れた技術で作られている。

 俄然興味が湧いてきたぞ。


「先に進む?」


「そうだな。これで障害は――」


 その時、聞き覚えのある音が響く。

 ゴーレムの足音だ。

 通路の奥から聞こえてくる。

 それも一つではなく、複数の音が規則正しく響いている。

 そうして姿を現したのは、黒いゴーレムを二体を先頭にした行列だった。


「まだいんのかよ!」


「文句言う前に構えるんだ! この数はかなり厳しいぞ」


 二階で遭遇した列の倍はいるだろう。

 すでに複製も終わっているらしく、ずらっと何十体というゴーレムが並んでいる。

 僕たちは警戒を強めた。

 しかし、危惧していた事態にはならなかった。

 ゴーレムは襲ってこない。

 それどころか左右に避けて道を開け、膝をつき首を垂れていた。


「なっ、何?」


「通れってことじゃない?」


「うん」


「どういうことでしょう」


 疑問は尽きない。

 しばらくじっと観察してみたが、襲ってくる様子はない。

 俺たちは警戒を解かず、いつでも戦えるような姿勢で近づくことにした。


「襲って来ないね」


「みたいだね」


 まるで、王の帰還を見守る騎士のように、ゴーレムは俺たちを通す。

 何が何だかわからないまま、通路の奥までたどり着いた。

 そこにあったのは、古びた扉だった。

 豪華さとか、幻想的な雰囲気など一切ない。

 どこにでもありそうな扉が、時間と共に劣化しただけ。


「ここが最後?」


「だと思うけど」


 キリエとミアも、あまりの普通さに困惑している。

 後ろにいるゴーレムたちは、この部屋を守っていたのか。

 疑問が頭をよぎる。

 ただ……


「開けてみればわかることだ」


「うん」


「確かに」


 ユイとミレイナがそう言って頷く。

 真実は目の前にあるんだ。

 後は、鬼が出るか蛇が出るか。


「じゃあ、開けるよ」


 僕は扉に手をかける。

 ゆっくりと慎重に押し込み、中へと入る。

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