60.ゴブリン軍団

 ゴブリン――

 人型モンスターの一種であり、下級パーティーの討伐対象としてよく知られている。

 比較的弱いモンスターとされるが、実際はとても恐ろしいモンスターだ。

 獣のような本能を有し、人間に近い知能すら持っている。

 武器や道具の使い方を学習し、様々な方法で狩りをして生きている。

 ホブ、メイジ、ライダーなど種類も豊富で、中でもロードと呼ばれる個体は別格だ。


 ゴブリンロード。

 文字通りゴブリンたちの王だ。

 数百年に一度のペースで誕生し、大量のゴブリンたちを指揮して街を襲う。

 そういった歴史が残っていて、古くから警戒されて来た。

 

「場所は草原エリアの奥地、丘を越えた先まで侵攻している」


「そんなに近くまで? だったら今日の昼にでも」


「そうだ。このままのペースで侵攻すれば、今日の正午にはこの街にたどり着く」


「そんな……」


 ロードが率いる十万のゴブリン?

 そんな大群に攻め込まれたら、この街は一瞬で蹂躙されてしまうぞ。


「対策は? 迎撃の準備は出来ているんですか?」


「街に残っていた冒険者を集めて、急ピッチで進めているところだ。念のため街の住人には、反対方向へ避難してもらっているよ」


「そうですか……」


 ギルド会館へ向かっている道中、街が異様に静かだったのはそういうことか。

 朝日が昇る前でも、いつもならチラホラ人が出てきていたのに、誰もいないのは不自然だと思っていたんだ。

 それにしても――


「何でこんな近くに……誰も気付けなかったんですか?」


「ああ……私にも予想外だった。数日前まで、あそこにはゴブリンなどいなかったのだ」


 リガール曰く、異変を察知したのは昨日の朝だったらしい。

 それまで何事もなく、平和に日々は過ぎていた。

 しかし、目を疑う光景を前に一変し、街中を絶望が駆け巡った。

 一夜にして大群は出現したのだ。

 まるで、何者かに召喚でもされたようだとリガールは言っていた。


「疑問はいくつか浮かぶが、今はそれを精査している時間も惜しい。すまないが皆も、草原で作業しているパーティーと合流してほしい」


「わかりました」


「本当にすまない。作戦は作業をしているパーティーに聞いてほしい。私はここで近隣の街や王都に救援要請を送る。間に合うかわからないが、少しでも人数が増えれば……」


 リガールは悔しそうな表情を浮かべている。

 そして、唇を噛むように言う。


「最善は尽くす。だが、相手は圧倒的な数で迫っている。最悪の場合は、自分たちの安全を優先しても構わない」


 それはギルド会館支部長とは思えない発言だった。

 クエストを放棄しても構わないなんて、普段なら絶対に言わないだろう。

 どうしようもない状況なのは伝わってくる。

 十万という数だけ聞いても、むちゃな戦いになることは明白だ。

 ワイバーン殲滅戦の比じゃない。

 俺たちはこれから、本当の地獄をみることになるだろう。

 それでも身体は動く。

 勝手に歩き出して、ギルド会館を出て行く。


「急ごう!」


 三人が頷き、一斉に駆け出す。

 幾度の戦いを経て、俺も彼女たちも、恐怖で脚がすくまない程度には成長しているらしい。

 

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