第14話 「桜宴」

さあさあ、はじめましょう。

準備なんて、かしこまらずとも。

肝心なのはあなた。

あなたがいればいいのです。



ほらほら、宵の明星が。

宴の見物に現れましたな。

こんどは西の風が。

寄り道をしていきましたな。



いい感じです。

あぐらをかいているあなた。

尻の下があったかいでしょう。

地中に潜んだ虫たちは、

もう夢の中かもしれません。



いい感じです。

ゆるんだ頬に、花弁が挨拶にきましたな。

照れくさいですか。

でももう、みんなあなたを歓迎しております。

手のひらの淡色は今宵の酒。

さらさらとお飲みなさい。



いい感じです。

大の字になっているあなた。

花枝の隙間に群青を帯びた天空が。

しだいにコントラストを強めていきます。



いい感じです。

そっと目を閉じるあなた。

まぶたに浮かぶは出来事の塵。

つぎつぎとカタチを変えて、

名も無いものになってゆきます。



いい感じです。

星を見るあなた。

遠い彼方に逝ってしまった後悔たち。

追いかけたって届きません。



だからこうして、

からだじゅうを伸ばしてみましょうよ。

指先から、

鼻先から、

耳元から、

目に映るものたちが。

きっと今宵の歌となって、

あなたの唇からこぼれるでしょう



おやおや、西の風。

どうやら花弁に恋をしたようです。

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