117:生徒会になりましょう!




 宗人君が来て1週間も経たないうちに、ランキングの集計が始まった。

 言うまでもなく、抱きたい抱かれたいを選ぶものだ。


 本当に今更だけど、こんなランキングを行って、いいのだろうか。

 まあ雅楽代元会長が頑張ってくれた結果なので、とやかく言うつもりは無いけど、冷静に考えるとぶっとんでいる。



 抱きたい、抱かれたいランキング上位に選ばれた生徒が、生徒会に入る権利を得られることになっているが、他にも色々な決まりがあった。


 まず風紀委員に入ることを決めている人は、ランキング自体から除外される。

 だから匠は俺と争うぐらいには人気があるが、匠を選ぶことは出来ないのでランキング圏外になってしまう。


 あとは親衛隊に入っていたら、ランキングには選ばれても生徒会役員にはなれない。

 親衛隊と両立出来ないのと、もしも選ばれてしまったら他の生徒に恨まれる可能性を考慮してだ。

 そういうわけで七々扇さんや姫野さん、等々力は、人気はあるけど生徒会役員にはならない。


 後は、ランキングを辞退するということも可能だ。

 でもおそらく、そういう人はほとんどいないだろう。

 みんな初めてのランキングに興味津々で、ほとんどの生徒が参加するからだ。



 今年は初めての試みになるから、競争率は高い。

 でも負ける気はしないし、負けたくはない。

 宗人君へのフォローは最大限したつもりなので、このままいけばなんとかなる。


 それでも不安がないといえば、嘘になってしまう。

 投票はオンラインで行われる。

 そして結果が出るまでは、自分が誰に投票したかは誰にも言えない決まりだ。


 結果が出るまで、どうなるかは分からない。

 だから集計が終わり結果が出て、ようやく安心出来る。



 俺は表面上なんてことない顔をしながら、心臓バクバクで学園生活を送っていた。

 そんな俺の不安が伝わったのか、美羽達もどことなく落ち着きがない。


 いや、俺達だけではなく、学園全体がソワソワとしていた。

 先生達も理由が分かっているからか、授業中に落ち着きがなくても、大目に見て注意はしなかった。



 そんな中、3日という時間をかけてようやく、集計が終わったという知らせが学園中を駆け回った。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




 今日、ランキングが発表される。

 それと同時に、生徒会役員が誰になるかも分かる。


 大々的に発表するために時間をもうけて、全校生徒を体育館に集める手筈となっていた。


 俺は体育館への道のりを歩きながら、隣りを歩く宗人君を見る。

 いつもの早口は今日は一度も出ておらず、その表情は緊張していた。


「心配か?」


 その緊張をほぐすために、俺は肩に手を置き話しかける。


「お前なら大丈夫だから、自信持てよ。俺と同じ生徒会役員になるんだろ」


 そして気合を入れるように、少し強めに叩いた。


「もっと背筋を伸ばせ! せっかくのイケメンが台無しだ!」


 これで元気になるのか分からないけど、話していた方が緊張もほぐれるだろう。

 しばらく俺を凝視していた宗人君は、


「……やっぱり天使はここにいた」


 そう呟いて鼻を押さえた。

 ……俺が元気づけなくても、大丈夫だったかもしれない。


 とりあえず、手の間から見える赤いものを知らないふりをして、俺は逆隣りにいる匠に話しかけた。


「ランキング関係ないから、余裕だな」


「まあな。俺が入ったら、上位にくい込むのは確実だからいない方がいいだろ」


「はっ、言ってろ」


 己の容姿の良さを、遠回しに自慢する匠に俺は表向きは笑い飛ばすが、内心では同意していた。

 もしも匠が風紀委員に入らなかったら、誰かがあぶれてしまっていた。


 それぐらいの人気と、不良生徒からも尊敬されるようなカリスマ性を、既に発揮している。

 もう今の段階で、次期風紀委員長だと言われているぐらいだ。


「まあ、匠がいたところで俺が1位なのは変わりなかったけどな」


「随分と自信があることで。まあ否定はしないけどな」


 そして俺も、次期生徒会長と噂されている。

 まだ一応は否定しておいたけど、それでも当たり前のことだと自信を持っていた。


 この学園に入ってから1年と少し、容姿や家柄の他に、実力を示してきたのだ。

 俺以上にふさわしい生徒なんて、どこにもいない。


 自分でも驚くぐらい、俺はここ最近自信に満ち溢れていた。

 俺様演技というのも、案外メンタルを強くする効果があるのかもしれない。



 そんなくだらない話をしていれば、体育館にはあっという間についてしまう。

 他にも話しておきたい人はいたけど、さすがに時間切れだ。

 後でフォローしておこうと決めて、用意された席に着く。


 壇上には椅子が何脚か用意されていて、あそこに生徒会役員に選ばれた人が座るのだろう。

 1、2、3……6脚。

 その数に少しは安心した。


 これは確定したのと同じことだ。

 そう思って安心したのもつかの間、椅子を持った先生が走ってきて、なんと1脚追加してしまう。


 何故、1つ多くなる?

 驚きすぎて叫びそうになったが、周りの目があるので何とか平常心を装った。


『……ただいまより、ランキングの結果発表および生徒会役員任命式を行います』


 全校生徒が揃ったのか、司会の声がスピーカーから聞こえてくる。

 でも俺は、これから起こることが予想できず、こめかみから汗が一筋流れた。




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