高校2年生編
109:存在を忘れていました
年月というものはあっという間に過ぎ去るもので、1学年上がった俺は、大事なことに気が付いてしまった。
それはこの学園の中に、将来生徒会書記になるはずの生徒がいないという、結構重要なことだった。
2年生になって、当たり前のように雅楽代会長は生徒会長の座をおりると決めた。
そして前に俺に言っていた通り、次の生徒会役員をランキングから選出すると宣言したのだ。
先生達にはすでに根回しをしていたようで、生徒達の驚きの声の中、滞りなくランキングの話は進められている。
俺はきっと大丈夫だと思う中、ふと思ったのだ。
そういえば、生徒会書記のキャラとまだ会っていない。
名前が何と言うのかすらも、分からない。
それに気がついた時、どうして今まで思い出さなかったのだと自分を責めた。
生徒会書記という目立ちづらい方のキャラとはいえ、メインであることに変わりはない。
その人と仲良くしておかなければ、自分の首を絞めるのと同じである。
そのことに気がつき、俺は慌てて生徒会書記の姿を探した。
名前を忘れたとはいえ、俺と同じぐらいの身長で容姿もよく、無口という性格であれば、すぐに見つかるはずだ。
どこかでそう楽観視していたのだが、当てはまる生徒を探すように頼んだ七々扇さんが、申し訳なさそうな顔をして俺に謝ってきた。
「一之宮様……申し訳ありませんが、おっしゃっていたような方は、この学園にはいらっしゃいませんでした」
「そんなはずは……全校生徒、探したのか?」
「はい。信じられないのであれば、まとめた書類もございます。どうぞ確認なさってください」
そう言って渡された書類を隅から隅まで調べても、該当する生徒はどこにもいなかった。
「う、そだ。どうして」
認めたくなかったが事実を突きつけられ、認めざるを得なくなる。
この学園に、今のところ生徒会書記になるはずのキャラがいない。
その事実は、俺に大きくのしかかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
生徒会書記のキャラを探そう。
気持ちをなんとか切り替え、俺はそう決めた。
この学園にいなかったとしても、絶対に近くにはいるはず。
そう考え、俺はとある人に相談することにした。
「背が高くて、容姿が整っていて、無口な人……」
「はい。そういった人が、この学園に入学しようとしていたことはありませんか」
「そうだねえ」
難しい顔をして考え込む姿は、初めて会った時と変わらない。
とはいっても、出会ってまだそんなに経っていないのだから当たり前か。
「すみません。変なことを聞いてしまって……でも神楽坂さんにしか頼める人がいなくて」
「いや。久しぶりに帝君が訪ねてきてくれて、頼ってくれているのだから、私に出来ることならばなんでも協力させてくれ」
「ありがとうございます、助かります」
俺が頼りにしたのは、学園の理事長である神楽坂さんだった。
他にも何とかしてくれそうな候補は何人かいたけど、一番手っ取り早いと思ったからだ。
それに人を探していると言って、理由を聞かれるのが嫌だった。
その点、神楽坂さんは大人だから、俺が言いたくないのを察して、何も言わずに探してくれる。
利用しているみたいで心苦しいけど、今はなりふり構っている場合じゃない。
「確かに帝君の同い年で、この学園に入学を検討していて止めた人は何人かいるよ。でもその中で該当する人が……他に何か特徴はあるかな?」
「特徴ですか? そうですね……ああ、剣道とか弓道とかしていそうな、武士みたいな感じ……っていうのは、なんの参考にもなりませんよね……」
せめて名前だけでも思い出せれば、簡単な話なのに。
出てきた登場人物、全員の名前をはっきりと覚えていなかった自分の脳みそを、取り出してしまいたくなってしまう。
「そうだな……それらしい人がいないと言ったら、嘘になるね。条件の中で、多く当てはまる人がいるにはいるよ」
「それが誰か教えてもらってもいいですか?」
「知ってどうするつもりかな?」
「ぜひ会ってみたいです」
可能性が少しでもあるのなら、俺はその人に会いたい。
間違ったとしても、探さないよりはマシだった。
「会いたい、か。でも個人情報というのは分かるね。おいそれと教えていいものでは無いことも」
「……それは分かっています。絶対に相手に対して、迷惑をかけるような真似はしません。その人に会わなければならない事情があるんです」
分かっている。
これは俺のわがままだ。
いくら俺が望んでいたとしても、簡単に教えていい情報ではない。
分かっているけど、納得出来るかといったら、それは無理な話だった。
「……お願いします」
「帝君! 何をしてっ!?」
だから俺は、最終手段に出ることにした。
神楽坂さんの戸惑う声を聞きながら、なりふり構わず土下座の姿勢に入る。
「お願いします……! どうか教えてくれませんか?」
この行動は、とてもずるいだろう。
ここまでされたら、普通の人は受け入れるしかなくなる。
「…………分かったよ」
神楽坂さんも、苦々しい表情を浮かべて、それでも教えてくれるようだった。
「ありがとうございます!」
「……でも向こうに、教えても確認するからね。もし駄目だと言われたら、その時は諦めてくれ」
「分かりました。……そういえば、その人はなんという名前なんですか?」
「……まあ、名前ぐらいならいいかな」
疲れた表情をしているのは、無理な頼みごとをしたからか、それとも土下座なんてものを見せたからか。
どちらにせよ、申し訳ない気持ちになる。
「確か名前は、
「……………………は?」
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