105:御手洗といたら、どんどんおかしくなります
生徒達に可愛いと言われているとはみじんも思わず、俺はクラスに辿り着くと、御手洗を振り返った。
「それじゃあ、気をつけて行ってこいよ」
「お坊ちゃまも、お気をつけて」
「はっ。クラスにいて危険な目にあうわけがないだろう」
「念の為ですよ」
頭を下げて生徒会室に行った背中を見送りながら、俺は髪をかき乱す。
心配は無いけど、それでも気になるものは気になる。
「何事もなければいいけど」
席について息を吐けば、先に来ていた仁王頭がこっちを見てくる。
「……随分と、仲がいいんだな……」
「俺と御手洗か? いや、仲良くは無いだろう」
「……そんなわけない……」
「まあ主従関係だな。ビジネス上だけだ」
「……ビジネス上……」
納得していない様子だったが、それ以上は面倒なのか、何も言ってこなかった。
「……御手洗さんは人気だな……」
「そうだな。ああいうタイプは、いなかったからな。大人の余裕な感じに見えるんだろう」
「……ああ、確かに……物腰も柔らかいから……憧れの意味で好きになるのか……」
「みんな外面の良さに騙されているだけだな。あいつは腹黒だぞ」
本性を見せたら、大部分の生徒が幻滅してしまいそうだ。
そういう奴等は、御手洗のことを表面的にしか見ていないから、さっさと目を覚まして欲しい。
「ちゃんと分かっていないくせに、キャーキャー騒ぎすぎだ」
「……やっぱり一之宮は…………何でもない……」
「何だ? 今日は雅楽代会長のところに手伝いに行っているんだけど、面倒ごとを押し付けそうだからな。連絡あった時は、授業抜けるからな」
「……そう」
諦めたような、生ぬるい視線を向けてくるが、ちょうど桐生院先生が入ってきたから、そこで話は終わった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
授業なんてものはあっという間に終わり、昼休みになった。
俺は軽く伸びをすると、仁王頭に声をかける。
「今日も御手洗と食べる。美羽達にもそう言っておけ」
「……了解……」
そして特に何も持たずに教室を出て、生徒会室へと向かった。
御手洗が来る前は、昼ごはんは美羽達と食べていた。
この学園には食堂という場所があり、給仕をするスタッフまでいる。
言ってメニューを頼んで待っていれば、あっという間に料理が出てくるので、学生の大半が利用していた。
俺もその中の一人なのだが、御手洗が滞在している一週間は、2人きりで昼休みを過ごすと決めている。
本来ならば美羽達も含めて食べるべきなのかもしれないが、初対面でのやり取りを考えれば別々にした方が安心だと判断したからだ。
気まずい中で食べるのは嫌だ。
それに今はまだ生徒会や風紀委員の特権である、2階席も使えない。
手伝いはしているが、特権を使えるまでの立場ではなかった。
そういう意味では早く生徒会役員になりたい。
多分抑えてくれている方だとは思うけど、食堂を利用しているだけで、視線と声が毎回聞こえてくるのだ。
いくら好意的なものだとしても、うんざりしてしまう時がある。
「……顔がいいのも考えものだな」
聞く人によっては殺意を抱かれそうな独り言を口にしながら、生徒会室に辿り着けばノックをせずに扉を開け放つ。
「御手洗、迎えに来た…………はあ?」
いつもはノックをするのだが、わざとしなかったのは、隙をつくためだった。
もしもなにか御手洗に対してやっていた時、ごまかす時間を与えないように、あえての行動である。
そしてそれは正解だった。
「なんで御手洗の上にいるんだ? 雅楽代会長様?」
何故か御手洗をソファに押し倒している、雅楽代会長。
どう考えても、おかしな状況。
俺は何かを聞くことも出来ず、カッと頭に血が上った。
口調が荒くなり、2人の元に近づくと、雅楽代会長を掴み放り投げた。
「いたあ」
地面に着地し、全く痛くなさそうな声で痛いと言った雅楽代会長は、俺を見ると笑う。
「早かったね。というか、何で俺投げられたの?」
「自分の胸に手を当てて考えてみろ」
「んー、全く身に覚えがないね」
押し倒している場面を見られたというのに、焦った様子もなくいつも通りの姿に、少し冷静になった。
「いま、何をしていたんだ?」
未だにソファに横たわっている御手洗は、俺を視界に入れて、何度も瞬きをしている。
動くことなく、この状況にパニックになっているのか何も言わない。
「……あー、なるほど。勘違いした感じかあ」
小さくはなったけど、まだ怒っている俺に、雅楽代会長は状況を察したらしい。
珍しく苦笑する。
「きちんとした答えを言えないようなら、ひねり潰してもいい。もう一度聞く。何をしていた?」
「ごめんごめん。きちんとした理由を話すからさ、とりあえず立っていい? それと、もう少し冷静に周りを見な」
「は? …………………………悪かった」
雅楽代会長に促され周りを確認した俺は、状況を把握する。
生徒会室には俺と御手洗と雅楽代会長の他に、何人かの人がいた。
その手にはスケッチブックが抱えられていて、俺のことを驚いた目で見ている。
なるほど、少し冷静さが欠けていたようだ。
御手洗のことになると、周りが見えなくなってしまう。
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