103:もう少しだけ紹介……あれ?




「……は? 何でだ?」


「よ、さっきぶり」


 風紀委員室に行ったら、風紀委員長の四斗辺さんと、何故か匠がいた。

 どうして匠がここに?


 俺は扉に手をかけたまま、固まってしまう。


「もしかして、何かやらかしたのか? この短時間で?」


「違う! 全く、なんでそんな考えになるんだよ」


「イメージ的に?」


 別に問題児という訳では無いのだけど、品行方正という訳でもないので、呼び出されたとしても納得してしまう。


「違うっての!」


「そうだぞ。獅子王は風紀の手伝いをしてくれているんだ」


「え? 手伝い?」


「……後から知るなんて、もうごめんだからな。今度は真っ先に助けに行く」


 匠が風紀委員会に入るきっかけは知らないが、もしかして俺のせいだったのか。

 いや、物語では仲が良くなかったはずだから、本来は別の理由だっただろう。


 物語より早いのか、同じぐらいなのか、どちらにせよこれで匠は風紀委員会には入ることになった。

 優秀だから、絶対に風紀委員長までに上り詰めるはず。


 物語の補正力だとしたら怖いが、匠が風紀委員長の方が頼りになる。


「そうか。匠が風紀委員。似合っていると思う」


「さっきは、呼び出されたんじゃないかって言ったくせにな」


「悪かったって」


 少し機嫌の悪くなった匠に、謝れば本気で怒っていなかったらしく、デコピンをするだけで許してくれた。


「えっと一之宮と……噂になっている執事の人だよな……容姿も雇用の条件に入っているのか?」


「そんなわけないだろ。たまたまだ」


「たまたまで、この容姿はおかしいな」


「この学園だって、容姿で選んでいるぐらい、顔がいい奴らばっかりだろう」


「まあ、それもそうか」


 納得するということは、四斗辺さんもそう思うぐらい、顔面偏差値の高さがおかしい。

 物語だからこそ、イケメンばかりを登場させた結果だ。


「それで、ここに来たのは何の用だ?」


「それは雅楽代会長に言われて……って、あいつ」


 ここにも御手洗を紹介するように言ったのは、雅楽代会長である。

 匠がここにいることも分かった上で、向かわせたわけだ。

 きっと今は、生徒会室で大爆笑しているだろう。


 俺はやっぱり優しくするべきではなかったと、頭の中で雅楽代会長をタコ殴りしておく。


「まあ、とりあえず御手洗だ。1週間、俺の世話をする。特に何かをすることはないと思うが、一応紹介しておく。紹介したんだから、不審者として連行とかするなよ」


「大丈夫だって。こんな美形、連行する前に襲われるんじゃないか」


「…………その点、風紀の方でも注意しておけよ」


「どうした? ものすごく怖い顔しているけど」


「なんでもねえ。しっかり仕事をしろよ」


 それは御手洗が襲われたとしたら、地雷だからです。

 やっぱりそういうことをするような人が、悲しいけどまだこの学園にいる。

 そんな奴らの毒牙に、御手洗をかけるわけにはいかない。


「御手洗そろそろ行くか。もう紹介は済んだだろう」


 今日はたくさんの人に紹介したせいで、少しだけ疲れた。

 これぐらいに紹介しておけば、もう十分なはずだ。

 早く部屋に帰って休みたい。


「かしこまりました。それでは獅子王様、四斗辺様、1週間よろしくお願いいたします」


「おう」


「ああ、もしも何かあったら遠慮なく頼ってくれよ」


 四斗辺さんは、やっぱりいい人である。

 それを感じながら、俺は御手洗と共に風紀委員室を後にした。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「どうだった御手洗」


「どうだった、とは」


「今日一日、この学園を見て俺の周りの人間を見てさ、何を思った?」


 部屋に帰り制服から部屋着に着替えると、俺は俺様の仮面を脱ぎ捨てて、完全にリラックスモードに入った。

 俺の制服を片付けている御手洗に、今日一日の感想を聞く。


「お坊ちゃま、いくら部屋の中だとはいっても、だらけすぎですよ。はしたないです」


「だって、こういう時じゃないと安心出来ないから。少しぐらいリラックスしてもいいでしょ」


「……そうですね。大目に見ましょう」


「なんで上から目線なんだよ。御手洗に許可してもらわなくても、勝手にくつろぐから」


 俺はベッドに倒れ込み、だらしなく寝転ぶ。


「一日見てみた感想ですか……まあ、お坊ちゃまが楽しそうで、この学園に入学されて良かったと思います」


「俺が楽しそう? 本当にそう見えたの? どこら辺が?」


 今日あったメンバーと話の流れを思い出し、俺は本気で御手洗の頭がおかしくなったのではないかと心配する。

 確かに根はいい人達ばかりだけど、ほとんどが御手洗に対して敵対心を向けて、いい対応をした人なんて数人しかいなかった。


「最初から最後まで見ていて、そう感じただけですよ。気づいておられなかったのですか? 今日一日、色々な方と話している最中、いつも楽しそうにしておりました」


「俺が? 嘘だあ」


 俺が楽しそうにしていた?

 大体、胃が痛かっただけだった気がするけど。

 にわかには信じられない。


「……怪我をなされたと聞いた時は、この学園から連れ出すことも考えましたが、その心配はないのかもしれませんね」


「え。そんな計画が立っていたの。知らないんだけど」


「言っておりませんからね」


 全く表情には出ていないが、御手洗もすごく心配していたようだ。

 冗談めいて言っているけど、多分この学園が俺にとって良くないものだと判断していたら、今日にでも退学手続きを行っていただろう。


 過保護な御手洗に、俺はベッドで仰向けになりながら、逆さまの顔に笑いかけた。


「御手洗、ありがとう」


「……何のことでしょうか」


 お礼を言えば、とぼけられてしまった。




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