101:仲良くしていきましょう





 仁王頭のおかげで、なんとか御手洗の存在が美羽達に認められた。

 さすがに1週間滞在している間に険悪だと、俺の胃が崩壊してしまう。

 仁王頭には感謝してもしきれないから、今度甘いものでも献上しよう。


「次は親衛隊に挨拶しに行くぞ」


「かしこまりました」


 とりあえず今日は、御手洗を紹介して回らなくては。

 次は親衛隊に紹介するのが、流れ的に正解だろう。


 きちんと七々扇さんには連絡済みなので、人数を集めておいてくれているはずだ。


「それにしても、親衛隊の規模が随分と大きくなっているそうで、今は何人いらっしゃるのですか?」


「あーっと、最初は100ちょいぐらいだったけど、今はどのぐらいになっていたかな……まあ大半の生徒はって言えば、分かりやすいか?」


「それはそれは酔狂な生徒もいるものですね」


「酔狂とは失礼な。俺の素晴らしさが伝わっているってことだろう」


 御手洗に鼻で笑われ、俺はそれ以上は何も言えなかった。

 続ければ、俺のメンタルがやられてしまう。


「その全員がいるのでしょうか。そうだとすれば圧巻ですね」


「さすがに人数は厳選しているだろう。そんな人数を、短時間で集められるわけがない」


「いれば見ものでしたのに」


「俺の親衛隊を見世物扱いするな」


 確実に楽しんでいる姿に、一応小言は言っておく。

 でも特には響いていないようだった。


 七々扇さんに指定された場所へと向かえば、そこには3人が待ち構えていた。

 もっといるかと思ったけど、混乱を避けるために、厳選したみたいだ。


「お待ちしておりました。一之宮様。……とそちらは確か……」


「初めまして。御手洗と申します」


「御手洗様ですか。よろしくお願いいたします」


「様はつけて頂かなくても結構ですよ」


「いえ。それは出来ません。申し訳ないですが」


 お互いに敬語を外すことなく、穏やかに笑い合う御手洗と七々扇さんは似たもの同士に見える。

 もしかしたら気が合うのかもしれない。


「御手洗、今話しているのが俺の親衛隊体調の七々扇だ。で、その隣でお目目うるうるさせているのは、副隊長の姫野。その後ろで街に降りてきた熊みたいに立っているのが、等々力だ」


「よ、よろしくお願いしますっ」


「よろしくお願いします」


 3人の紹介をすると、美羽達の時とは違い、険悪な空気になることなく話が進みそうな気配がした。

 元々、俺に対しての好感度の高い人達だ。

 その俺の執事に、嫌な態度をとるわけが無い。


「今日から1週間、俺の世話をすることになった。特に何かをすることは無いが、一応紹介しておくな。他の隊員達にも、よく伝えておけ」


「はい、かしこまりました」


「は、はい!」


「はい」


「いい返事だ。まあ、お前達なら言わなくても大丈夫だっただろうがな」


 伝えなくても、俺が言いたいことは分かるはずだ。

 本当はこの場を設けなくても良かったのだが、礼儀として必要だと判断した結果だ。


「皆様、これが通常運転ですが、そろそろ慣れましたか?」


「最近ようやくです」


「ぼ、僕はまだちょっと」


「……無理です……」


 御手洗の言葉に、俺から視線をそらした3人は同意する。

 仲がいいのはいいことだが、仲良くなりすぎてもそれはそれでモヤモヤする。


「御手洗は優秀だから大丈夫だろうけど、変なちょっかいをかける人が出ないように注意しておけ」


「ふふ。お坊ちゃまは心配性ですね。その心配はないと、先程お伝えしたでしょう」


「もしも隙をつかれたら、分からねえだろう。念のためにだ」


 もし御手洗に何かあったら、俺は一之宮家の全ての力を使って、この学園を潰すことだって可能だ。

 たぶん容赦なんて出来ない。

 そうなった後に残るのは崩壊した学園と、心を病んだ俺だけ。

 最悪である。


 そんな最悪の状態にしないために、念を押す必要があったわけだ。


「かしこまりまりました。御手洗様の1週間の滞在をスムーズにするために、精一杯のサポートをさせていただきます」


「よろしく頼む」


 親衛隊との顔合わせを終え、来たばかりではあるけど俺は次の場所に向かうことに決める。

 ものすごく行きたくなかったが、その人にも紹介しておかないと、後々面倒なことになってしまう。


「……次行くぞ。時間がもったいない」


「次はどちらへ?」


「……あー、最悪なところ」


 本当に行きたくなくて、俺は大きく息を吐けば、何故か御手洗の顔が輝いた。


「では、ぜひ行きましょう」


「なんか楽しんでいないか?」


「いえ、そんなことはございませんよ」


「絶対に楽しんでいるな。俺が苦手にしている人間が、そんなに珍しいのか」


「ええ。ぜひ会ってみたいですね」


「もはや隠さなくなっているじゃねえか」


 そんなに気になるのか。

 紹介しない方がいいのではないかと思い始めたのだけど、今更無理な話だ。


「……一之宮様、頑張ってくださいね」


 等々力が出ていく俺に声をかけてくれたが、きちんとした返事が出来なかった。


「それで、次は誰の元に尋ねるのですか?」


「……生徒会長のところだな。行きたくねえ……」


「それはそれは、楽しみで仕方がありませんねえ」


 嬉しそうな声に、俺の気持ちはさらに落ち込んだ。





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