第92話 作戦会議

 トルメダ・レイスフォードの暗殺計画は着々と進んでいた。


 ジークが協力に漕ぎつけた商業ギルドのギルマスと会談し、段取りを再確認する。


 計画はこうだ。


「では計画についておさらいしましょう。まずマチルダさんを含めたギルド職員がレイスフォード邸に訪れ、侯爵様に特別な贈り物があると言って気を引いて下さい。おそらく側には護衛の者が控えているでしょうが、そこは職員に扮したクロエとアルマがなんとかしてくれますのでマチルダさんは安心して下さい」


「私に任せて」


「僕達が守るから安心していいよ!」


「………全然安心出来ないんだけど。本当はジークがクロエちゃんだっけ? その代わりになる筈だったんでしょ」


「ジークは動けないので仕方がありません。私としましてもジークがいれば結構安心感があるんですけど……この二人もこう見えて優秀ですから安心して下さい。特にクロエの方は」


「僕は!?」


「知りません」


 うわっ、この人掴みかかってきたよ。


「本当に大丈夫なのかしら……私捕まったりしないわよね」


 マチルダさんがぼやく。私の計画は……大丈夫な筈、成功すればだけど。


 ジークには悪いけど、マチルダさんにはジークの裏の事情を全部話させてもらった。


 それを聞いたらすっごい勢いでジークの事を叱りに行ってたから、二人とも幼馴染というだけあってけっこう仲がいいんだろうな。


◇◇◇


「あんた、まさかとは思ってたけどこんな仕事して稼いでいたなんて、よくも私に黙ってたわね! 私が危ない目に遭うじゃないの! どうするのよ怨恨なんかで、私が人質に取られたりでもしたら」


「いや、だからお前とは距離を置いてただろう? 会いに行くのも控えてたし」


「そんな事、今話してないわ!」


「理不尽だなおい!」


「それに前から思ってたけどあんたって自分勝手よね。勝手にいなくなるし、帰ってきたと思ったら危ない仕事してたし。その性格は死んでも直んないのね。今日だってすっごく心配したのよ! 急にあなたが倒れたって知らせを貴方の部下から聞いて…………」


「おい、誰が助けてくれー! エト!! お前覚えとけよ」


 なんかジークが叫んでるけど、聞こえない振りをしておこう。


「ちょっと話は終わってないわよ。私に迷惑をかけるんだからこの借りは倍で請求させてもらうわ」


「いひゃい、いひゃい。わひゃたからはなへ」


 ほっぺをつままれ、その後、数十分ジークは叱られ続けた。


 うん、こう第三者目線から見ていると深い関係ではなさそうだけど。マチルダさんの方は気がありそうに見える。


 そんな事を考えていたら、横から先輩がスッと現れた。


「僕とエトも側からみたらこんな感じだけど?」


「ひょ!? ……先輩、急に出てきて心を読まないで下さい」


「ごめん、ごめん」


 でへへーと笑う先輩。なんだか憎めない。


◇◇◇


「エト。もう一度聞くけど、貴方が一人で召喚士の相手をするのよね?」


「はい、その通りです」


「…………手伝わなくて大丈夫?」


「元々、私と先輩の任務ですから。それにそっちも人払いお願いしますね。殺すのはトルメダだけなんですから」


「エトー。死にそうになったら僕を呼んで、それか召喚士は最悪殺しちゃってもいいんだよ」


「先輩には先輩の役目があるでしょ。それに殺しちゃったら会場を襲った真相が闇の中になっちゃうし、罪は償ってもらわないと」


 なんで会場を襲ったのかは、ジークから少し聞かされている。同時刻に他の貴族邸で事件が起きていた事から、その目眩しに起こした事件なのだろうと。


 本当にトルメダは自分の事しか考えていないらしい。


「侯爵様は嘘のパーティーに招待してるから、時間は稼げると思う。それでも万が一戻ってくる事もあり得るからそこだけ気を付けて下さいね」


「ラジャー!!」


「了解。私はサポートに徹する。アルマ、頑張って」


 クロエが無邪気な笑顔で応援する。


「もちろん、頑張っちゃうよー!!」


 先輩がやる気満々に「おー!」と拳を掲げる。すごく心配。


「やっぱり、心配なんだけど……イリアさんだっけ? あの人と代わって欲しい」


 同じ思いの人がいた。


「マチルダさん。諦めて下さい」


 他のメンバーの助けによって、侯爵様は慈善パーティーの主役に呼ばれている。レイスフォード邸からはそれなりに離れてるから、もしも不測の事態が起きて戻って来ようとしても馬車で数十分はかかる。


 時間はある。仲間もいる。


 あとは、作戦を成功させるのみ。


 そして作戦の要でもある私が、何人もの暗殺者を撃退した召喚士とどこまで戦えるのか。それが重要だ。


 アルマがトルメダを討てば、それで退散。ついでに召喚士を捕縛出来たら尚よし、たぶん召喚士は裏とも繋がっている筈だから。


「決行日まで、あと数日です。先輩とクロエ、イリアさんにはもう少し付き合ってもらいます」


「分かった」


「ん」


「いいわよ」


 私たちは残る懸念点を洗い出し、議論を重ね、最終調整を行った。


 アルマ先輩の為にも必ず任務を成功させる。


 そしてジークから新しい情報をもらうんだ。きっとこれはその大事な一歩だから。

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