第85話 残された者
それから彼女――アメリアとカトレアは常に行動を共にするようになった。
そしてアメリア自身も、最初は悲観的に見ていたジークやカトレアの職業に興味を持ち、自らの意志で手伝うようになった。
「じゃあアメリアには、この地区の経路を下見してきてもらうわ」
「分かった。下水道も調べておく?」
「うーん……一応お願い。非常用って事で」
「了解、地図は任せて」
アメリアはカトレア達の為にと、健気に自分の出来る事を奮闘した。
まだギルドも結成されておらず、数人ほどで活動していた彼等にとって、一人でも多くの協力者がいる事はとてもありがたかった。
それに美少女であるアメリアは、彼等にとって荒野に咲く一輪の花であり、彼等のやる気をさらに向上させた。
「そろそろあいつに魔法を教えてやってもいい頃だろう。固有能力との相性もいいしな」
貴族という事もあり、基礎は学んでいたアメリアだが、応用や実践は疎か、まだ自分の持つ固有能力、『癒しの加護』についても詳しく知らないようだった。
「加護持ちね……魔法なら私が教えるわ。そういうの得意だし」
「…………」
カトレアの言葉にジークは黙り込む。
「なによ……?」
「いや、お前から誰かに教えたいなんて珍しくてな。いつもは頼まれても教えようとしないくせに、あっ……相手がアメリアだからか?」
カトレアは図星を突かれたかのように、うぐっ! と一瞬言葉を詰まらせ、誤魔化すように早口でまくし立てる。
「……もう、そんなんじゃないわよ。うるさいわね!」
赤面しながらジークに言われた事を否定するカトレアを見て、これが世にみるツンデレかとジークが呟いた。
そんなジークをカトレアは怪訝に思う。
「あんた時々変な事言うわよね?」
「……気にしないでくれ、性分だ」
「まあいいわ。それよりアメリアはこれからどうするつもりなの?」
「うちの伝を使いながら妹の情報を集めつつ、自分達を貶めた者に復讐するんだとさ」
「復讐ね……後悔しない終わり方で終わればいいんだけれど」
「俺もそう願ってるよ」
カトレアとしては、アメリアには裏の世界に関わって欲しくないと思っていた。
こんな場所に彼女の笑顔は似つかわしくないからだ。
「それでも……貴方は」
カトレアには強い確信があった。アメリアが自分と同じ場所に来るという確信が。
それから数日後、正式にアメリアの加入が決定したとジークからメンバーに伝えられた。
そして新しい家族――メンバーを迎え入れられる祝いの席が設けられる事になった。
それはカトレアにとって嬉しくもあったし、同時に失望に近い悲しさもあった。
彼女にはこっちの世界を選んで欲しくない、来て欲しくなかったのだ。
「これでアメリアも俺達の正式な家族だ」
「まあアメリアちゃんは、もう殆ど家族のようなものだったけどな」
「家族ですか……嬉しいです」
「俺達は家族なんだから、カトレアだけでなく俺たちにも普通に話してくれてもいいんだぜ」
「分かった。そうするねジーク! ベルタさん!」
「なんで私だけさん付け……」
「うーん……なんだかベルタさんはベルタさんだから」
「まあ細かい事は気にするなって。俺とそんなに年変わらないだろ?」
気にするベルタの肩をジークがバシバシと叩く。そんな二人を見て、アメリアは楽しそうに笑っていた。
今日、この日、仲間に受け入れられたアメリアは晴れて家族の一員となった。
家族となったアメリアは、端の方でお茶を嗜んでいたカトレアの元にやって来た。
「カトレア!! これからもよろしくね!」
「ええ、よろしく」
屈託のない笑顔を浮かべるアメリアを見て、ここに来た当初に憑いていた暗い影は、なりを潜めているように思えた。あの日までは。
「まあ、それから色々あったわ。貶めた奴等を探し出したり、妹に会ったりと……これは言わない約束だったわね。忘れてちょうだい」
「ええ、ここからがいいところじゃんかー」
「そうですよ。もう少し話してくれてもいいじゃないですか」
「んー。そうねぇ簡単に言うと、彼女はその後、心の整理をして暗殺者を辞めて、私と冒険者になった。二人で5年ほど旅をした後、ジルバスと結ばれた。はい、おしまい」
「えー」
「ほら、もう日が暮れて来たわ。今日は泊まっていきなさい」
「また後で話してくれます?」
「気が向いたらいいわよ」
私は、彼女達にテーブルの片付けをしてもらってる間、自室のベッドに飛び込み、その柔らかいシーツに顔をうずめる。
本音を言うと、いくらジークに頼まれても死んでしまった親友の話はしたくなかった。彼女との思い出は良い思い出ばかりではない。二人で冒険者を始めてからは意見が合わない事も多かった。
それでも、お互いがお互いを理解し合えていたと思う。
「はあっ……」
思わずため息がこぼれる。死んでからも私に色んな影響を与えてくる奴だと。
それにエト達に、昔の事を話していると彼女の事を思い出し、胸が辛かった。
「なんで貴方の方が先に死んでしまったのよ……ばか」
私はあの日の事を鮮明に覚えていた。
「こんな、こんなことって…………」
力をつけた彼女が、とうとう自分達を貶めた事件についての真相を知った時、アメリアは一人で復讐の相手がいる場所に向かおうとした。誰の助けも借りず。
罠だと知ってもアメリアには行かない選択肢はなかった。
死ぬ確率の方が高かった。
「アメリア!! ちゃんとみんなに相談しましょう。それからでも遅くは……」
「ごめんね、カトレア。私、行かないと……」
私にはアメリアを止められなかった。そして、気づけば彼女の手を取っていた。
「私も行くわ。貴方が行くならついていく」
「カトレア……ありがとう」
その日の事は後悔はしていない。私がついて行かなければ間違いなくアメリアは死んでいたから。
でもその選択が正しかったとは思っていない。
「私は……どうすれば良かったの……ねえ、教えてよアメリア……」
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