第67話 業火の獣〜炎壁の外側〜
「くそ、完全に内部と遮断された」
「ジーク様!! 中にはまだ……」
「ああ分かってる。新人のあいつらも居るし、民間人も大勢いる。イリアには魔道具を渡しておいたからすぐに連絡をよこすだろう」
おっと言ってるそばからとジークはイヤホン型の通信機をオンにした。これは彼が自分の前世を元にして作ったものだ。
「イリアか……あぁ分かった。代わってくれ」
話を終えたジークは焦燥感に駆られていた。今にも炎の壁に突っ込んでいきそうなくらいには彼は焦っていた。
ジークの能力は常人を軽く
「どいつもこいつも人が良すぎだろ」
ジークは周りの部下に指示し、彼女達の装備を届けさせる。そして自らは召喚士の索敵にあたった。
「予想通り、召喚士は壁の中か……どうしたもんかね」
部下から無事に装備を届けたという報告を聞き、周囲に怪しい者がいないかだけ確認しろと命令を下す。
ジークはすでに事の全容をなんとなく掴んでいた。
「おそらく陽動だな。どこかで別の奴らが馬鹿騒ぎしているんだろう」
ジークは最悪イリアやアルマの事は見捨てるつもりでいた。本当の娘のように育てたアメリアと瓜二つの少女エト。アメリアの娘なので当然の事なのだが、ジークからすると孫のように思える彼女はなんとしてでも生かして連れ帰ろうと思っていた。
「ったく流石あいつの娘だぜ。
ジークは昔似たような経験をしていた。その時もアメリアは今のエトと同じような行動をとっていた。エトは意図せず昔の母と同じ道を歩んでいたのだ。
「尻拭いをするのは俺の役目ってか、くそ」
壁の外側にも内側よりは少ないが魔物が召喚されていた。それを一人で蹴散らしていく。まるでストレスを発散していくかのように。
「まったく手のかかる奴等ばかりだ……遅かれ早かれ、
ジークがあたりをつけた場所は、イリアと侯爵が破壊しようとしている場所そのものだった。
「あとは時を待つとして……出てこいよ」
ジークが視線を路地に向けると、暗闇から三人の腹面の男達が得物をもってゆらりと出てきた。
同業者のようだ。
「俺の所に来たって事は俺狙いでいいんだよな?」
「…………」
腹面の男達は何も答えなかった。だが得物をしっかり握りしめた事で問いに対する答えは明らかだ。
「そうかい。あいつらを待ってる間ちょっくら付き合ってやるよ。せいぜい簡単に死んでくれるなよ」
ジークは素手で男達と相対した。
◇◇◇
周囲の偵察を終えた部下が戻ってくるとジークが大の男の上に座り込んでいた。
「よう、怪しい奴はいたか?」
「いえいませんでしたけど……そいつらは」
なんか襲ってきたとジークが伝えると部下は頭を抱えた。
「まったくジーク様に襲いかかるなんて、なんと身の程知らずな。後片付けする身にもなってくださいよ」
部下が遺体をひとまず隠そうとした時ジークが名案を提示した。
「なぁ、それ燃やせば良くないか? 丁度おあつらえ向きの火がある事だし」
そう言ってジークが炎壁を指差す。それもそうだと納得した彼はそのまま死体を壁に放り込んだ。まだ少し息があったのか刺客は短い慟哭を上げた。
燃え上がる火柱の前に佇みながら、ゆらゆらと燃える炎を見つめる。
「どうするおつもりですか?」
部下が一歩下がった位置で問いかける。ジークはニカっと笑う。まるで死神のような笑顔だ。
「決まってんだろ。最悪エトだけでも連れ帰る」
そうですかと短く返し、手元の時計を見る。
「あと数十分といった所でしょうか」
部下は炎の壁が内側に完全に到達する時間を予測する。ジークもそんくらいだなと呟く。
ジークはコキコキと腕を鳴らし、準備運動を始める。
「どうしてそこまでして……」
「お前も昔からいるんだ。分かるだろ」
部下も長年ギルドに所属しており、小さい頃のアメリアを知っている人物であった。
「彼女との約束……ですか。もう何十年も前の話ですね」
あの頃は良かったと部下はしみじみと呟く。ジークもそれに同調する。
「あの子はいい子でしたね」
「あぁ、とても優しい子だ。暗殺者に似つかわしくないくらいにわな。娘もそれをしっかり引き継いじまってるらしい」
やれやれと頭を掻き、内側から稲妻が上がるのを見上げる。
「あの子も母親と似た運命のようだな」
同感ですと部下が頷く。
「兄妹がいない事が幸いでしょうか?」
「そうだな……俺は実の姉と妹が殺し合う姿なんて二度と見たくないよ」
「ええ、本当に」
立ち話をする二人の近くで魔力の反応が高まった。エト達が行動を開始した事を意味する。
「そろそろのようだな」
「はい、受け入れの準備を始めましょう」
二人は魔力を波動を生み出す。壁があいた瞬間少しでもイリアの負担を減らすためだ。しかし彼等は専門ではない、故に付け焼き刃だ。長くはもたない。
そして暗がりからジーク達を狙う影が再度迫ってきた。
それにジーク達はやれやれと迎撃する。その姿は二体の死神が死を振りまいているかのように鮮やかで広場には鮮血の花が舞った。
悲鳴すら聞こえなかった。
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