第58話 暗殺

『両親が殺されてから約半年。私は未だに復讐を果たせずにいる。でも私は必ず力をつけ、ディカイオンを探しだして殺す。その後の事は分からない、カノン様やシズル、みんなの元へ行くかもしれない。それが私の償いだから。でも最近生きたいって理由ができた。私の先輩のアルマっていう人だ。


 最初は馬が合わない事があったけど、腹をわって話してみると驚くべき事にとても似たような境遇だったのでちょっぴり親近感が湧いた。まだどうするかは決めてない。だけど少しずつ心を開いてもいいかもしれないと思った』


【某日 アルマとエトの家】


 最近書き始めた日記をつけ、ベットの下に隠す。これはアルマには見られたくないと思った。


 あれから店に挨拶に行き、従業員の皆さんは快く私たちを迎えてくれ、店を貸切でお別れパーティーまで開いてくれた。私の事に関して深く追求してくる事はせず本当にいい人たちだ。それに比べてアルマは食べてばかりだったが。


 誰の為のパーティーだよと内心でつっこんでいた。


「次はイリアさんのところかー」


 アルマは私と違って正規の従業員なので今日も働きに行っている。最近は朝と夜しか顔を合わせていない。


「借金もあるし、ジークの命令には逆らえないなー」


 私の起こした行動で色んな人に迷惑をかけた。だけと私たちが寝ているうちにギルドメンバーが後始末をしてくれたお陰で堂々と表を歩く事が出来る。


 一部の人達を除いて、あの場にいた者から私に関する記憶を消したのだ。その一部というのがパンケーキのお店の皆さんや普段から関わりがあって私たちに協力的な者だ。


 それ以外の人はみんな私の事……私が魔力を暴走させた事覚えていない。


 (あの親子も私の事忘れたんだろうな)


 その代わり貴重な魔道具や魔法を酷使させたとして、ジークは私に金銭を要求してきた。とても個人で払えるものではなかった。


「また増えちゃったなー」


 着実に増える借金を思うと急に懐が寂しくなった。


 時計をみると時刻は午後四時を指しており、アルマが仕事を終え戻ってくる時間だった。


 店は朝から昼にかけ営業し、夜は営業していない。


 夜は荒くれ者が増えるからという理由で。


「先輩達と合流して仕事を済ませよう」


 私はキャミソールから仕事着に服を着替え家を出た。



◇◇◇


 屋敷を上から見渡せる高台に集まった暗殺者達。


 今日の作戦は他のメンバーとの合同だ。総勢六名で行われる。私たち以外はみんな大人の男の人だ。


 中でも一番年輩の男性が今回の任務の臨時リーダーだ。


「今回の仕事は簡単だ。あと始末もする必要ない。役人どもとその護衛達を凄惨に皆殺しにする」


 全員黙ってリーダーの話を聞く。段取りなどを話し終えた所でリーダーが質問があるものはいるかと問う。


 私の隣で手が上がる。アルマ先輩だ。


「……そこの……役人の屋敷にいる子供とかも全員殺すの?」


「役人の子女なら殺す。屋敷の使用人も全員殺す。以上だ。なんだ、不服か?」


 鋭い目つきでアルマを試すように問いかける。


 フルフルと先輩が首を横に振るう。


「んーん。聞いてみただけ」


「そうか……ならいい。ただしもしも奴隷がいた場合は殺す必要はない。口封じする必要はあるが」


 奴隷に墜とされて使用人として働いている人がいるかもしれないという話だ。


 私の国……王国でもあの後、宰相に歯向かう大臣、家臣、兵士、執事、侍従たくさんの人が奴隷に墜とされたと聞いた。中には帝国兵達の“戦利品”として連れて行かれた貴族令嬢もいると聞く。


 使用人として働けるならまだマシだろう。中には“作法”を教え込まれ性的な消耗品として扱われる愛玩奴隷にされる事もあるのだから。


 (みんながそうなっていないといいんだけど)


 幸いシズル達が奴隷に墜とされたという話は聞かない。たんに私が感知していないだけかもしれないが、暗殺者ギルドにいれば自ずと情報は入ってくるものだ。


「エト、アルマの二人は一階。お前達は二階。私達は三階を受け持つ」


 一方的に持ち場を決められ、私たちは移動を開始する。


 そして真夜中。ギルド【黒猫】の暗殺者が動き始めた。


 一階、二階、三階へそれぞれが同時に侵入する。


 いくら地方で力を持っているとはいっても所詮は役人だ。私が貴族だった頃に住んでいた屋敷に比べれば三分の一にも満たない。それでも平民が住んでいる家にしては大きい方だ。


 依頼内容はこの家の者達の殲滅だ。誰一人残さず殺す。私たちは直接依頼を受けたわけではないので依頼人が誰かも知らない。


 でもジークギルマスが依頼を受けた。なら実行するのは私たちギルドメンバーの役目だ。


 (流石に高級奴隷はいないよね)


 高級奴隷の中には護衛として使われる者もいる。戦闘に特化したものがいれば私たちが手痛い反撃を喰らうこともある。なにせ大金を払った分、能力は一級品なのだから。


 (わたしも捕まってたらその部類に入ってたよね)


 高級奴隷は見た目麗しい者や何か特別な能力を持っている者などにあたる。他にも料理や洗濯など色々な技能が高い者も高級奴隷に墜とされたり、上級奴隷にされたりする事もある。


 もちろん、夜の営みが上手い人もその類に入る。


 一階のリビングには三人の人物が暖炉のそばのソファーで寛いでいた。二人は護衛。一人はこの家の給仕だ。


 護衛は襲撃などないと安心しているのか呑気に給仕に入れさせたお茶を嗜んでいた。


 私は腰のアイテム袋からナイフを取り出す。そして気配を消し、ゆっくりと後ろから近づく。


 給仕の女性が護衛の男達に背中を向ける。私たちはそれぞれの獲物を刃で捉える。


「ぐふっがぁ!」

「ごふぅっ!」


 後ろから頭を抱えるように口を抑え、喉元を切り裂いた。二人分の短い断末魔が上がった。

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