第44話 本領発揮 2

「じゃあ、今日は腰に付いているアイテム袋と、短剣の使用方法を教えるね」


 テーブルの上には、私と同じアイテム袋と、きらりと光るナイフが置かれていた。


 私は机に置かれた、短剣を手に取る。持ちやすさ、使い易さ重視なのだろう。基本的に軽いので、投げるのにも適しているし、使い捨ての道具としては定番だ。


「最初は、五、六本持っておくのがいいよ。二本は首を斬り裂く用、もう二本は投げ用。毒を付けておくのもいいかもね。残りは予備、こんな感じかな」


 私は自分の取り出しやすい、腰回りに短剣を忍ばせた。


「エトの場合は、雷剣の魔力消費量が激しいから、魔力の枯渇を防ぐためにも積極的に使ってもらうからね。使用方法は……まぁ分かるよね」


 私が既に、短剣をビリビリさせるのを見て、使用方法については語らなかった。


「ええ、分かりますよ。これで上から目線な先輩にお仕置きするんですよね」

「違うし、クソ生意気な後輩にお仕置きする用だよ」


「へー、そうなんですかー」


 私が先輩に刃を向けると、先輩が身構えた。冗談ですよ、冗談。


 だけど先輩が防御の姿勢を解いてくれる事はなかった。


「次に、アイテム袋について説明するね。貴族出身のエトは、あまり見た事はないでしょ」


「いえ、オーク退治の時に使用した事があります」


「ええっ! オーク退治なんかした事あるんだ……それなら分かると思うんだけど、このアイテム袋は、軽さ重視だから、そこまで物は入れられない。任務によって必要な物だけを入れるといいよ」


 どうやら、ウルフの毛皮を回収した時に使った、アイテム袋とは全く違うらしい。


 暗殺者専用のアイテム袋といった所か。


「分かりました。今回は、何か入れる物はありますか」


「うーん。今回は簡単そうだし、必要ないかな」


 ……聞き間違いかな、簡単って言った? 私が家を出る時は、なにも策がないとか言っておきながら?


 当の本人は、自分の失言に気づいていないらしいので、優しい私は聞き流してあげる事にした。


「エトもこんな簡単な任務、一人で出来る様にならないとダメだよ」


「聞き流してあげようかと思いましたが、やめます。簡単なら何故、「僕は一人じゃないと出来ない!」とか言ったのですか?」


「あっ!! んんっと、あれはちょっと試してみようかな〜なんて思っただけ。あと、僕の真似、全然似てないからね」


「そうですか。ええ、そうですか」

「あ、ごめんって、いやごめんなさい。許してください」


 私は、右手を先輩に向けた。


「痺れて下さい」


「あべべべべべっー」


 先輩は、三日間のおやつ抜きになった。



△▼△▼△▼△


 その後、詳しい計画を話し合い、当初の予定通り実行は今夜となった。


 作戦の殆どは、先輩が考えて私が実行役。配役はそんな感じだ。


 先輩が、私を先導してターゲットの部屋に侵入したら、私が会長を始末する。その間、先輩が奴隷販売の証拠を探すらしい。


 なんでも、証拠を持ってればジークが優位に事を進めてくれるらしい。狙いは商会のコントロール……かな。


 見つけるのに、時間がかかるんじゃないかと聞いたら、隠し場所の検討はついているらしい。


 たぶん似たような任務をこなした事があるのだろう。


 日が沈み。いよいよ、夜がやってきた。


 先輩がローブを着て、暗殺者姿になると、何故かエロいと思ってしまうのは何故だろうか。肌が見えてるせい?


 どちらにしても……普段と違って色気がある。


「先輩、化粧してるんですか?」


「ちょこっとだけね。もしもの時の為だよ」


 勘違いではなかったようだ。

 にっこりと笑った先輩は、やっぱり小動物みたいで愛らしかった。


 私達はフードを深く被り、ローブを身に纏いながら屋根の上を駆け抜けた。


 訓練のおかげか、足音は聞こえない程度にはなっていたと思う。だけど先輩は気配も、足音も全く感じられず、同じ生者とは思えないくらい存在感がなかった。


 確か、先輩が行き倒れしてる所をジークが拾ったと言っていた。

 面倒を見始めてから、すぐに暗殺者としての天性の才能を見出した先輩は、ジークから英才教育を受けたんだっけ。

 そう思うと、ジークは私じゃなくて先輩に期待を寄せているんだろうな。


 先輩もジークの事を親代わりに思っているのかもしれない。

 私は前を走っている先輩に声をかけた。


「先輩って、このギルドに入る前には、何をしていたんですか?」


「………」


 返事はなかった。


「先ぱ……」

「……言いたくない」


 先輩ポツリと、それだけ言うと黙ってしまった。そういえばジークからあまり、詮索するなと言われてたっけ……悪い事しちゃったのかも。


 その後、ベルセイン商会に着くまでの道のりで、会話の花が咲くことは無かった。


 私は知り合ってから、半年も経ってない先輩に対して、それ以上踏み込む事も出来ず、言ってしまったからには、取り消す事も出来なかった。


 一抹の不安を抱えたまま、ロッゾ・ベルセインの暗殺が幕を開けた。

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