第27話 真夜中の攻防〜反乱の始まり〜

  男達は私の服に手をかけようとしてくる。 なんとかして逃げないと、私はとりあえず魔法を発動してロープを焼き切ろうと思った。


  え、うそ。魔法が発動しない。 いつもなら、イメージすればすぐ生み出せる雷剣も媒体用の魔法も放つことが出来ない。 私は一つの考えに行き着いた。


  これもしかして、魔力を封じ込めるロープ?!


  男の一人が私に跨ってきた、やばいやばいやばい。


  その時、扉が大きく音を立てて開いた。


  ◇◇◇


 これはエトが襲われる数時間前


  一人の男が城の遺体安置所を訪れていた。ここには様々な理由で引き取り手が居ない遺体が安置されている。 暫くの間ここに置かれ、その後、城の墓地へと移される。


  殆どは犯罪者の遺体だ。


  男は綺麗な棺桶に入っている少女の前までやってきた。少女の名前はローラと書かれている。 彼女は家族がすぐには来れなかった為、明日の朝まで城に安置されることになっている。


  「そろそろ起きろ」

 

  彼は棺桶を蹴り、呼びかけた。 誰かに見られていたら死者を冒涜していると思われても仕方のない行為だろう。


  だが、棺桶の主は動き出し、蓋を開けて出てきた。キョロキョロ周りを見渡すと男の前までやってくる。


「おはようございます。どのくらい私は死んでいましたか?」


「きっかり半日だ。そろそろ薬の効果が切れる頃だと思って迎えにきた」


  ローラはまだ薬のせいか足元がおぼつかない。


「左様でございますか、それで状況はどうなっていますの?」


「計画を少し早める、彼が想定より速く行動を起こすらしい、我々のことも勘付かれたかもしれない」


「畏まりました。エトはどうなりましたか?」


「カーノルドなら、たくさんの人達から疑いの目を向けられて精神的に弱っているはずだ」


「そう、それならフリーダさんもさぞかし喜んでいる事でしょう」


「だが、彼女はやりすぎて禁固刑に処されてしまっている。私は帝国兵を城に招き入れた後、フリーダを解放する。 お前はお前の仕事をしろ」


「畏まりました、最終確認なのですが、目標はウルティニア様以外の王族とその側近達の殺害でよろしいのでしょうか?」


「あの方は国自体を終わらせる必要はないと仰った。それに従うだけだ。罪は全て別の人物に押し付ければいい証拠だけは残すなよ」


「畏まりました」


「カーノルドの見張りは私の手の者だ、好きに使うがいい。そろそろ近衛騎士団が城の異変に気付くはずだ。私はそっちを始末しに行く」


「はい」


「無論、いないと思うがもし眠りから覚めてしまった貴族どもがいたら永遠の眠りを与えてやれ、目撃者は皆殺しにしろ。王族、使用人、兵士達はあの毒入り料理を食べていない筈だからな。オルディクスはお前が片付けろ」


「はい……分かりましたわ」


「よし、では行け!!」


  男はローラに服と通信道具を渡した。


  男は彼女が出て行くのを見届けると、入れ替わりにモガモガと動く麻袋を担いだ二人の男達が入ってきた。


  麻袋にはミシェラと薄く書かれている。男達は麻袋の上に安置されていた遺体を積み上げると遺体の一つに火を放った。数分後には男達の姿はなく、部屋全体を赤い炎が覆っていた。


  暫くすると人のうめき声のようなものが死体の底から聞こえてきたが、その声が外にまで聞こえる事はなかった。


 ◇◇◇


  私の部屋の扉が大きな音を立てて開いた。


「エト! 大丈夫」


「シズル!!」


「「チッ!」」


「あなた達一体エトに何をしようと……」


  シズルが半裸にされた私を見つけた瞬間、鬼のような顔になった。騎士達よりも怖い、みれば騎士達も青ざめている。


「エトから離れなさい!!」


  だが流石は騎士だ、武器は手の届く場所に置いておいたようで、剣をとるとシズルに斬りかかった。


  ビシュ、バシュ! 勝負は一瞬だった、一瞬のうちに男達は斬り殺された。


 え、シズルが人を殺した。


  シズルにはもう男達になど興味を無くしたようで首から血を流している死体に冷たい目を向けていた。


「大丈夫だった? 変な事されてない?」


  私に優しく寄り添ってくれた。なんて変わり身が早いのシズル!


「うん、私はギリギリ平気だったよ、でもシズル流石に騎士の人を殺しちゃたのはまずいんじゃ……」


「エト、もうそんな事言ってられないの」


「どういう事?」


「部屋の外に出れば分かるわ」


  部屋の外に出ると、あちこちから悲鳴や剣と剣がぶつかり合う音が聞こえた。


「何が起こっているの?」


「反乱よ、それも大規模の。 ブラン・ガルディアが率いている大反乱」


「ガルディア様が裏切った……」


「ええ、彼についている兵士と王族側の兵士で激しい戦闘が起きているわ」


「近衛騎士団……あの最強の近衛騎士団はどこで何をしているの!」


「それが戦いが始まってから見かけてないのよ。それよりなんでエトは自室に閉じ込められていたのかしら」


「あ、それはローラがやったんだよ、ねぇシズル。ローラを見なかった?」


「ローラ? ローラは昨夜死んだんじゃ……」


「違う、ローラは生きていたんだよ。カノン様達が危ない、シズル、カノン様の所まで案内して! 今カノン様の側には誰がついてるの?!」


「分かったわ案内する、カノン様の側にはヨハンとミザリーがついている。他の面々はバラバラになっていて連絡がつかないから私が探しにきたのよ」


  私たちは走り出した。 急がなきゃ、カノン様を守る為に。


  その時、広間から兵士の声がした、どちら側かは分からないけど。


「帝国兵、帝国兵が入り込んでるぞー!!」


  帝国兵! なんで今ここに。 迷ってる暇はない、広間はここから近い。 私とシズルは目配せして頷きあうと広間へと向かった。


  もう少しだけ待ってて下さいカノン様。

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