第25話 誕生日会当日
待ちに待ったカノン様の誕生日がやって来た。 私は朝から張り切って仕事をしていた。
さすがに当日は他の貴族の目もあるからか、目立った嫌がらせはなかった。 本人達も忙しくてそれどころじゃないのだろう。
ミシェラさんと相談した結果、ケーキは誕生日会が終わりお客様達が帰った後、城の者だけになった時に渡すことにした。 カノン様も挨拶回りでお忙しいからだ。
私も次から次へと来るお客様に合った飲み物や菓子を運ぶのに大忙しだ。初めて城に来た人もいるので、道に迷ってしまった人達を案内したりもした。
めまぐるしい人の行き来に私は目がクラクラしてしまった。
途中、交代で休憩がはいったのでシズルと休んでいたら、厨房からミシェラさんの声が聞こえてきた。
「それは後に出す料理で、そっちが次に出す料理! 奥のテーブル料理が減ってるから追加してきて」
「おい、誰だよ俺の包丁勝手に使ってるやつ」
「すまねぇ俺だ、少し借りてる」
「皿、皿が足りねぇーぞ」
「早く予備を持ってこい!」
「ひぃひぃふぅ」
見るからに新人ぽい人がヨロヨロしてる。 まだ場慣れしていないのだろう。 あ、倒れた。
「料理長! クラウンが倒れました」
「水でもかけて起こせ、人が足りないんだ作業に遅れを出すわけにはいかない」
さすが料理長判断が早い。
「手伝いに行く?」
「エトはどうしたいの?」
「私はケーキ作りを手伝ってもらったから出来ることがあるなら手伝いたいかな。 シズルはまだ休んでていいよ、私だけで行くから」
「エトが行くなら私も行くわ」
私とシズルは小走りで指示を飛ばしている料理長ミシェラさんの元へと向かう。
「ミシェラさん!! 何か私たちに出来ることはありますか? 手伝いますよ」
「そっちの仕事は平気なのですか」
「今なら手が空いています。あと今は敬語なんてしなくていいですよ、先程の部下と同じように扱って下さい」
一応ミシェラさんは一般人で私は貴族だ。だけどさすがに指示を飛ばす時にいちいち敬語は大変だろう。 まぁ、水をぶっかけられるのは勘弁だけど。
「それはさすがに……手伝ってくれるならありがたい、料理を作るやつが一人倒れちまったからその代わりがいねぇんだ、できるか?」
ぐっ、私は無理だけどもしかしたらシズルなら、チラッとシズルに視線を送る。 あ、良かった気付いてくれた、待ってそんな顔しないでよ私のせいじゃないもん。
「料理は私が作りましょう。 本物の料理人よりも味が落ちてしまうかもしれませんが、これでも料理が出来る方だと自負しています」
「そいつはありがてぇ。 出来ると思ったら材料を使ってもらって構わない、出来ないと思ったら料理の味付けなどを手伝ってくれればいい、失敗はするなよ」
「はい、お任せ下さい」
ここは料理人の戦場だ。そんな中、貴族令嬢のメイドが入ることはどんなにプレッシャーが凄いことか。
厨房に入ってきたシズルに様々な視線が飛び交う。
こいつは使えるのか、使えないのか。 貴族令嬢のくせに料理なんてした事があるのかなど。
シズルはそんな視線にものともしない。シズルは強いね。 私は無理だよ。
「何からやったらいいでしょうか」
一人の料理人が手でフライパンを動かしながら声を掛けた。
「嬢ちゃん、こっちの食材の下ごしらえを頼む」
「はい……これは煮付けですか?」
「分かるのかい?」
「はい、よく実家で作っていましたので」
彼は手を休め少し何かを考えているようだ。
「よし、じゃあ任せた。 レシピと材料はその上に全部置いてあるからな頼んだぞ」
「はい、分かりました。お任せて下さい!!」
シズルは自分の仕事を見つけた。え、どうしよう私は何したらいいの。
シズルが視線で手伝う? と問いかけてきた。 どっ、どうしよう私じゃ足手まといにしかならないと思う。
私がオロオロしているとミシェラさんが声を掛けてくれた。 ナイスタイミング!
「エトさんは料理を運ぶ手伝いをして下さい。人数は多いに越したことはありませんから」
「分かりました、私に任せて下さい」
私は魔法で身体強化すると次々に料理をテーブルへと運んでいった。 他の給仕達からおおっ〜と声が上がる。
どんなもんだい!
◇◇◇
一日の仕事を終えた私たちはもうくたくただった。 早く部屋に帰って寝たい。 あ! カノン様にケーキを渡さなきゃ忘れる所だった。
私はミシェラさんにケーキを持ってきてもらう間、みんなをカノン様の部屋に集めた。 幸いみんなまだ部屋に戻らず後片づけをしていた為時間かからずに集めることが出来た。
メリティナやミザリーもソワソワしていた。 そういえば去年もこうやって集めてカノン様を祝ったっけ。
「あら、みんなこんな所に集まってどうしたの?」
主役のご登場だ。
「エトが渡したい物があるからと集めたのですわ」
「そうなの、エト。渡したい物ってなーに?」
そんな風に首を傾げちゃて、あざと可愛い。 ん、もしかしてバレてるの。
視線は箱をかぶせたケーキを見ている。
「私が渡したいものはこれです」
私は箱を外し、ケーキを見せた。
「ケーキを作ってみました」
「まぁ手作りケーキ。ありがとうエト」
「えへへ、喜んで頂き何よりです」
「では私からはこれを」
「あらローラこれは?」
「肌に良い化粧水ですわ、実家秘伝のものですのでどうぞお使い下さいませ」
「ありがとう使わせてもらうわ」
「私はこれを……」
「私は………」
思い思いの品を一通り渡し終えた後、カノン様の両手は一杯だった。
「みんなありがとう。こんなに沢山、私は幸せ者ね」
「ケーキは全員分ありますのでみんなで食べましょう」
私はケーキを一人一人に手渡す。
フリーダやローラは不服そうな顔をしていたが。
「ありがとう」
小さく呟くと受け取ってもらえた。
「おいしいわね。いつの間にこんなに上手になっていたの。これなら今日の料理一緒に手伝えたんじゃないかしら」
「ありがと〜〜。まだそこまでじゃないよ」
ケーキだけだしね。
「ふふ、一杯練習してたものね」
「……! やっぱり知っていたんですか」
「ティナと作っていた時から何となく予想していたわよ」
やっぱりバレてたか、でも喜んでもらえたから良かった。
「ん。おいしい」
「ほっぺたがとろけるような甘さで絶妙な味ですね。これなら取り分ける前の姿が見てみたかったです」
ミザリーとメリティナが口々に感想を言ってくれる。
「あはは、色々あったからね」
チラッと視線をローラに送る。 ローラもしっかりと食べてくれているようだ良かった。
「不味くはないですわ」
「同じく」
「そっかそれなら良かったよ」
ローラとフリーダが短く感想を言ってくれた。
ティナ様にはもう遅い時間だったので、部屋に戻られてしまっていたため外にいた護衛の人にティナ様が起きたら渡して下さいと頼んでおいた。
私はパクッとケーキを口に含んだ。口の中一杯にふんわりしてとろけるような甘さと食感、果物のさっぱりとした味が広まった。
その日私たちは一日の苦労話や恋愛話、たわいもない話を語り合って夜を過ごした。 フリーダやローラにも自然と笑みがもれていた。
気が付けばカノン様の部屋でみんな寝てしまっていた。 ヨハン達男組には悪いけど楽しいガールズトークが出来て良かった。
あとから聞いた話によると、彼らは彼らでアレン様の部屋に行きアレン様とアレン様の護衛の人と盛り上がっていたらしい。
君達の主はカノン様でしょうがーと言いたかったが男子をのけ者にしたのは私たちだったしお互い楽しく過ごせたようだからつっこまない事にした。
次の日事件は起きた。
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