第18話 閑話 一人の兄として
対外的にティナの能力は見破るだけという事になっている。
ティナ本人も見破るだけだと思いこんでいるのだろう。
ティナは一度能力を暴走させた。
暴走の前兆はあったため高名な魔術師をあらかじめ呼んでおいて良かったと思う。
魔術師のおかげで被害を最小限に抑えられたのだから。
僕は当時11歳だったが、お父様が後学の為にと間近で見させてくれた為あの時の事はよく覚えている。
ティナは能力を暴走させ、彼女の魔力が変質した。
ティナの周囲が無に変わり消えていく中ティナだけが何も無い空間で立っているのだ。 ティナはその時点で意識を失っていたのだろう。
ティナの力は城だけでなく国全体に影響を及ぼした。
黒い雲が広がり王国全土が暗黒に包まれたのだ。
彼女の力は国をも無に帰そうとしたのだ。
お父様が一族に代々伝わる方法で封印を成功させたが、賢者と呼ばれる魔術師の魔法障壁がなければ、僕やお父様やお母様も無にされていただろう……
その後ティナは4年間眠り続けた。
その4年間体の成長は全く見られなかった…。
無に帰されたのは城の地下室だけで済んだが民には別の影響が出ていた。
記憶改竄だ。 王国の民すべての記憶が書き換えられていたのだ。
ティナが
それを知ったのは翌朝お父様が使用人を集め説明をしていた時だった。
ティナは休養をとり、王族や限られた者しか部屋には入っていけないと伝えた後、メイドに言われた言葉だ。
「それはカノン様も大層心配してらっしゃるでしょうね。 あの元気なティナ様が体調を崩したのですから」
「ええ、
使用人達がカノンが姉でティナが妹だと当たり前のように言ったからである。
それから近衛兵にも直に聞いだが答えは一緒だった。 ティナが妹となっている。
記憶が改竄されなかったのは、その場にいて賢者に守られていたごく一部のものだけだ。
カノンは居なかったが部屋に魔法障壁を張られていたため無事で済んだようだ。
王族以外ではその場にいた、現在の宰相のブラン・ガルディアと大臣であり近衛騎士団団長であるドレット・アルヤスカのみだ。
全てが終わった後、賢者は力を使い果たし魔法が使えなくなってしまった。 こうなる事を承知の上で協力してくれた賢者さんには一生暮らしていけるお金と土地を与えた。
国を救ってくれたのだ、本来は国民からも祝福を受けるべきなのだが国が消えかけていた事を覚えている者はいない。 たとえ加護持ちであっても。
ティナの力の正体は初代の王、カイザー・バルドニア・ディスペラーの強い思念体という事が分かっている。
彼の永遠に存在し世界を支配したいという強い想いが固有能力になって一族に残ってしまった。
この全てを無に帰そうとする力は『不滅』と名付けられた。
僕たちはティナの能力の事をカノンに伝えて今どういう状況になっているのかを事細かく説明した。
最初は戸惑っていただけだったが自分が姉になると分かった途端、そんなの嫌だと言って泣き喚いてしまった。
当然の事だろう、大好きな姉を姉と呼ばなくなるのだこんな悲しい事はない。 これからは自分が姉と呼ばれる事になるのだから。
カノンにはとても辛い事だろう、カノンは涙を拭きながらティナの部屋へと向かった。
そして眠っているティナの手を握りながら震える声で声をかけた。
「私が…お姉ちゃんの代わりに立派な第一王女を演じてみせるからね。 もしもみんなの記憶が戻っても私でも良いと言わせてみせるから……今までいっぱい迷惑かけて本当にごめんなさい」
顔をクシャクシャにさせながらカノンは言葉を絞り出した。
振り返ったカノンの顔は、今までのような甘えん坊やいたずらっ子の様な顔ではなく。 紛れもないティナの仕事の時の顔つきになっていた。
これは二人が似ていたから、そう見えただけかもしれないが確かに僕はそこからカノンの覚悟が見えた気がした。
それからカノンは今までの行動が嘘だったかの様に真剣に勉強しだし、ティナが目覚める4年後には立派な第一王女を体現していた。
一族に度々現れる『不滅』の能力。 その出現は不定期で性別も決まっていない。 ただ分かるのは『不滅』が元の魔力が高い者を選び明確な意思を持って行動しているという事だけだ。
過去に『不滅』の能力を持ってしまった者は、ある時は自分が無に帰り、またある時は世界を滅ぼそうとして勇者によって倒された。
例外なく不幸になっているのである。
僕はティナがそんな運命を辿ってほしくはない、『不滅』の力に負けてほしくない。 一度目は封印出来たが二度目の成功例はない。
後、どの位の時間が残されているか分からないが可能性はある。 僕は神玉で希望
4年後ティナが目覚めた、ティナも記憶が改竄されていた様でカノンに向かっての第一声が「おはようございます、お姉様」だった。
カノンは「おはようティナ」と声をかけ4年ぶりにその温かい華奢な身体を抱き締めた。
その口調はティナそのものだったが、いつしか一昔前のカノンのように「おはよう、お姉ちゃん!」変わっていった。 それに伴い行動も昔のカノンにかなり近いものになっていった。
僕は願うこの幸せな時間が少しでも長く続くのをたとえそれがもう長くはないとしても。
今は誤魔化しているが、帝国のユアン第一皇子は気づいているのだろう。 ティナの中に初代王の
彼にだけは絶対にティナを渡すわけにはいかない。 彼の手に渡ったらどうなるのかを神玉で見ているから……。
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