日常の②-11『神ハルコンビ』

 公園のシーソーが振り幅大きく上下動を繰り返している。

 一心に足を動かして、地面を蹴り続けている幼気な少女が二人。


 火神つがるとミハルだった。

 この世界の神と、異世界の大魔法使いと言い換えてもいい。


 周囲には小さな子ども二人が無言のままシーソーで遊んでいるように見えるが、その実、二人は頭の中で思念を通じて会話をしていた。


 無表情である。


(まあ、時空間を操れるわけだもんね。そりゃあ、のんびり公園で遊べるよね)


 神の声が魔法使いの頭に響く。

 同じく頭の中で、ミハルは思念を巡らせた。


(私、危機感が足りないのかなぁ。でも、あのにくたらしい竜神が言うには、イヤイヤ連れていっても、それこそ拉致したとしても、良い結果にはならないって言うからさ。そりゃね、あっちに行けば私の魔力も回復するだろうし、時間を戻せばどうとでもなるよ?でも、焦ってないわけじゃない。今でも師しょ……、あ、魔王のせいで多大な犠牲が出ているだろうし。うーん、私、間違ってるのかな……)


(心の声は正直だなぁ。師匠って言いそうになってるじゃん)


(ああ、そっか。神様に嘘を言っても仕方がないよね。でも、異世界に行って魔王になってくれ、なんてユーリには頼みづらいじゃない?)


(さすが魔女。じゃあつまり、現在ナユタでは、魔王が空位ということなんだね?)


(そうそう。プラテア族の天使達が……、あ、一族の首脳陣のことね?その天使達が、各国の争いや荒廃を防ぐために尽力してはいたけど、それも私がこっちに来る直前ですでに、もう限界が近かったし)


(まあ、トップがいないと国が荒廃するってのは世の常だもんね)


(私はそうは思わないけど。……正直あんなのがいてもいなくても、市井の人々の生活は同じようなものだと思ってたんだけどね。ただ、あまりにも圧倒的な絶対王政だったでしょう?そういうのって、いっかい始まっちゃうとなかなか終われないものでさ。急にいなくなっちゃうなんて、こっちだって思ってなかったわけじゃない?……もう誰も、統率がとれないの。前時代に逆戻りってわけ)


(なんでミハちゃんの師匠って、急にいなくなっちゃったんだろうね?)


(分かんないよ、そんなの。ある日急に現れて、旅してた私を捕まえてシゴキまくって、大魔法使いとか、魔女とか呼ばれるくらいに育ててさ。私たちと魔王城に辿りついて、あの怖ろしいほどの魔法で国の争いを瞬く間に鎮めてさ。各国の代表と会合やら会議やらこなして、平和な日々が続いてたのに、……なんで、いなくなったんだろう)


(で、やっぱりユリ兄って魔王候補なわけだ?)


(うん。ユーリは確かにそう。まあ、魔王なんてこっちの世界でそう訳されるだけのただの言葉でしかないし、救国の勇者って言った方が聞こえがいいでしょ?)


(すごいね、魔女って。息を吐くように嘘をつくんだから。竜神なんて絶対に勘付いてると思うよ?)


(知らないわよ。ナユタを去った者のことなんか。あいつら竜族なんて魔王様が来る前は、ただの争いの火種でしかなかったんだから。師匠なんて禁呪に失敗して一回死にかけたんだからね?好き放題しやがってさ。絶滅してくれて良かったよ、ホント)


(こわいよ、ミハちゃん。でも、あんな普通の大学生が、魔王だとは私には思えないんだけどな……)


(私も、師匠みたいな絶大な魔力を全然感じないのは不思議だったけどね。でも、運命の力っていうのかな。魔力とは違う力を、確かに私は感じているよ。私や、ナユタの軍部の最高戦力であるライガが彼に辿りついたこともそうだけれど、そこに竜神や、果てはこの世界の神様までが、ユーリに接触してくるんだもの。いま現在、ユーリが有している戦力は、はっきり言って普通じゃないよ)


(ふふっ。ユリ兄に聞かせてあげたいな。ずっと自分が普通なこと、気にしてるみたいだから)


(竜神の言葉を信じるのは癪だけれど、ユーリはあのままでいい。あのままが一番だと思ってる。何回でも言うよ。彼の求心力は普通じゃない。多分きっとこれからも、この世界のナユタと交わってる部分が、彼に集まってくるよ、絶対に)


(でも、ユリ兄はナユタには行かないと思うなあ。よほどのことがなければ)


(うーん、そうなんだよねえ。よほどのことが全然思いつかないよ。神様、なんとかならない?)


(あつかましいね。さすがプラテア族だ。そりゃ、ナユタの竜神もキレるわ)


(ホントに首を落とされるかと思ったよ、あの時は。だいたいねえ、私はプラテア族とは言っても、はみ出し者なんだからね?それをさ、一括りにされてさ、罵倒されるってなんなの?ああ、思い出すだけでも腹が立つ)


(そりゃ、こっちの世界の神にまで聞こえてくるぐらい悪い噂しか聞かないもん。仕方がないよ。日頃の行いが悪かったというか、高慢というか、ね。なまじ魔法が使えて、信仰の対象で、魔王が統べる前は世界の方向性を決めていた種族だったもんだから、その反動じゃないのかな?自業自得とまでは言わないけれど、魔王が現れてから、一気に反感を買ったよね)


(潜在的に不満が高まっていたのは知ってる。私もそれが原因で、国を出たわけだし……。って、いいのよ。プラテア族の話なんて。ねえ、つがっちゃん、どうにか私の魔力を元に戻せない?)


(うわあ、ミハちゃん人の話を聞かないタイプでしょ?忘れてんのか知らないけど、ユリ兄にも言ったけどね、私は神様なんだよ?神様から何か施されたら、それはもう天啓であり、神の加護なんだ。ナユタの異世界人にそんなの与えてみろ。世界の理が外れて、ミハちゃんだけじゃない。こっちもナユタも、世界が綻ぶよ?)


「しってるー。いってみただけー」


「ぜったい、うそー。ほんきだったもん、いまのー」


 急にしゃべり出した幼児二人に、公園の子どもたちの視線が集まる。そんなことお構いなしに、二人はシーソーを上下させている。


 その上下動の数が、すでに子どものそれではないことには、誰も気が付かなかった。

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