日常の20『出署』

 なんで呼ばれたんだろうね、じゃねえわ、あの刑事。こっちが聞きたいっての。


 俺は警察署を後にしようと、足早に玄関から外に出た。俺の気持ちとは打って変わって、春の昼間の暖かい日差しが眩しい。

 署の国道側の入り口に、見知った異世界人の顔が三つ並んでいた。真ん中に立つ女性を見て、俺のモヤモヤした気持ちは吹き飛んでしまった。


 やっぱり花束さんは人目を惹く。遠くから見ても後光すら差してるんじゃないかと感じるほどだ。胸の膨らみ、締まった腰、長めの足。そのプロポーションは神に愛された造形にさえ思われる。茶髪のポニーテールは風にそよぎ、桜の香りがしてきそう。大きな眼がこちらを見ているだけで、感謝を述べたくなってしまう。整った鼻筋、色っぽさを感じずにはいられない唇。すべてが満点である。


 そんな花束さんの唇が、ライガの耳元から離れた。はい、やってみて、と彼女はライガに告げる。


「お、おつとめ、ごくろうさまです……」


 なんじゃそりゃ。両膝に両手まで据えて頭かがめて何してるんですか、イケメンさん?

 ていうか、敵同士じゃなかったですかね、お三方。


「なにそれ。いつの間にライガを手籠めにしたの?」


 俺が思ったままのツッコミをミハルが言い放った。


「まあ、いいじゃないの」


「……花束様、嘘はやめて下さい。警察から出て来たらこのようにするのが作法、とおっしゃったのは貴女じゃないですか」


 思いっきり嘘吐かれてるじゃないですか。しっかりして下さいよ、騎士団長さん。


「こんな化け物に、様なんて付けないでよ!……もうっ!」


 小さな黒髪幼女は、ぷりぷり、という言葉がとってもお似合いな様相で手をグーにして怒っている。


「どこかから声がするけれど、小さくて聞こえないし見つけられないわね」


 すごい煽り。相変わらずミハルは花束さんにいじめられているようだ。ぷりぷり、から、きーっ!に怒りの段階が上がるまで時間はかからなそうだ。


「さあ、私はユーリ君とランチにするから、二人はどっか行っててちょうだい」


「え……?」


 ぽん、と可愛い音をさせながら両手を合わせて言った花束さんの言葉に、俺は夢から醒めたばかりのような返事をしてしまう。

 花束さんがそのまま両手で俺の腕をつかんだ。


「ユーリ君、何が食べたい?どこか良い店知ってる?それとも、私が選んだ方がいいかしら?」


 恥ずかしさ九割、嬉しさ一割、若干の下心が隠し味で、俺は口を開けない。


「何なのよ!?なんでそうなるのっ!?私たちはねえ、勇者さ…、あ、ユーリをしっかり守って、あっちに連れてかなきゃいけないんだからねっ!」


 ほら、幼児がきぃーって怒った。


「ふふっ、可愛いわね。泣き虫魔法使いに、私の意思を曲げられる力があるというのなら、いつでも受けて立つのだけれど?」


 俺はさっき、なんて思ったっけ?すべてが満点?

 訂正しよう。性格と前世に若干、難があるようです、この美人さん。

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