第65話 決闘
リビングでテレビを見ていると、出かけていた弓花と華菜が帰ってきた。
「ただいまお兄ちゃん!」
「おかえり」
挨拶を返すと、ソファーに座っている俺に抱き着いてきた華菜。
「弓花もおかえり」
「ええ」
弓花は華菜と違ってゆっくりとソファーに座って、俺の腕を抱きしめてきた。
「弓花とのデートは楽しかったか華菜?」
「うん。お姉ちゃん、お兄ちゃんの話になるとすぐ顔が赤くなって面白い」
「ちょっと華菜ちゃん、恥ずかしいからそういうことは言わないで」
どうやら俺の話題で盛り上がっていたようだな。
弓花のやつ、うっかり華菜に変なこと口を滑らせてなきゃいいけど。
「というか、咲矢からなんか知らない匂いがするのだけど? あなた今日は何をしてきたの?」
弓花が俺を睨んでいる。
心春の家に行っていたとは言えないので、どうしたものか……
どうやら心春が強い香水をつけていたからか、匂いが俺に移ってしまっていたようだ。
「友達からの打ち明け話を聞いていた。みんな色々と恋で悩んでいるだなって」
「ふ~ん……このシャツの脇腹辺りにあるピンクの染みみたいなものは何かしら?」
「どぅえ!?」
弓花が指摘した場所を見ると、確かに白いシャツにピンク色の染みのような物が付着していた。
これに関しては本当に身に覚えがない……
いつの間にか心春につけられたのか?
「お、お兄ちゃん?」
「咲矢?」
華菜と弓花の両者から俺を怪しむような視線を浴びせられる。
挟み撃ちかよ、流石は姉妹だ。
「大丈夫だ、問題無い」
俺は上手い言い訳が見つからずに、両手を挙げる。
何も言えない。
「私達だけでは満足できないのかしら?」
「お兄ちゃんへの愛が足りないのかな?」
二人の姉妹は、俺を強く抱きしめてくる。
めっちゃ胸が押し当てられているし、温もりが凄まじい。
弓花と華菜の連携が取れてしまったことで、俺の逃げ場はさらに狭くなっている。
これは幸せな悩みだな……
▲
夕食を食べ終えた俺達は華菜の提案により、テレビゲームで遊ぶことになった。
対人プレイができるレーシングゲーム。
みんなでコントローラーを持ち、順位を競うことに。
華菜は俺の膝の上に座る。
華菜がまだ小学生の頃はずっとこの体勢で二人でゲームをしていたが、今日は久しぶりにこの体勢になったな。
弓花は俺の肩に頭を乗せて、少しでも俺に触れようとしてくる。
みんなの体重がかかってしまい、相当不利な状況だ。
「いいな楽しそう、私も混ぜて~」
母親も参戦することになり、四人でゲームをすることに。
こんな仲良し家族は滅多に見かけないだろう。
「一位の人はお兄ちゃんと今夜添い寝できる権利を賭けてゲームね」
華菜の提案に異議を唱える者はいない。
弓花は誰にも俺を渡さないと気合が入っている。
「俺が一位だったらどーすんだよ」
「みんなから好きな飲み物を買ってもらえる」
俺だけ体育会系にありがちなご褒美が用意されているようだ。
ここは勝たないと不味いな……
華菜や弓花が勝ったら夜に何されるかわからんし、母が勝ってしまったら気まず過ぎて寝れねーよ。
ゲーム未経験者の弓花のために、最初の数試合は何も賭けずにゲームを楽しむ。
上手さの順番では俺>華菜>母>弓花といった具合だった。
だが、このゲームには運の要素も絡んでくる。
何かサプライズが起きても不思議ではない。
準備を終えた俺達は絶対に負けられない戦いを始めることに。
ゲームが始まると、みんな集中しているのか無口になってしまう。
ドリフトを多用し爽快に一位に躍り出る俺。
アイテムの運も良く、一周目は難なく一位をキープできた。
しかし、二周目からはアイテムでの妨害を幾度となく受け、華菜が一位に躍り出る。
母も俺の後ろにぴったりとついてきており、油断できない状況だ。
ゴールへラスト一直線に差し掛かる。
オフラインで対人ゲームをする時の特有の要素と言えば、画面は一つのため他のプレイヤーが入手したアイテムを覗き見ることができるという点だ。
俺は母がスピードをアップさせる憎きキノコアイテムを獲得したのが見えてしまう。
絶対に母を一位にさせてはいけない。
だが、ここで何かアクションを起こせば俺の一位の可能性は低くなる。
みんなはほぼ同じ位置にいるため、誰が一位になるかは不透明だ。
コーナーはもう無いため、ドリフトで攻めることもできない。
あらゆる可能性を瞬時に把握し、俺が導き出した最善手……
それは母親を一位にさせないことだ。
俺はわざと母の車にぶつかりに行く、母はスピードがアップするアイテムを使った瞬間だったので、俺とぶつかって変な角度でスピードがアップしてしまった。
その隙に弓花と華菜がゴールする。
身を挺した行動で母の一位を避けることはできたが、俺の一位は消滅した。
「やった、一位だわ!」
ゴールした弓花は両手を挙げて喜んでいる。
まさかの前評判では一番可能性の低かった弓花の勝利。
逆境を跳ねのけての見事なジャイアントキリングだった。
「悔しい~」
足をばたつかせて悔しさを露わにする華菜。
「あとちょっとだったのに邪魔しないでよ~」
俺のラストプレイに怒った母は脇腹を突いてくる。
誰か俺をMVPとして称賛してほしいものだ……
こうして藤ヶ谷家の絶対に負けられない戦いは終焉し、栄光を手にした弓花は俺を手に入れて勝利の美酒に酔うのであった――
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