七年後――
*DSSとの関連が強い箇所です。ご興味のある方向けです。ご注意ください。
クルスたち七人と、東の魔女タウバの闘争から七年後の、ある春の日のこと。
【ロナ】という愛称で親しまれる南の島から、聖王国本土へ向けて、飛竜が飛び立ってゆく。
「東の魔女が復活したとは本当なのか!?」
クルスは飛竜の手綱を握りつつ、同乗するビギナへ叫んだ。
「は、はい! ロナさんの根が、感知したみたいで! セシリー達もアルビオンへ急行してます!」
ビギナは帽子が風で飛ばされないよう必死に押さえつつ、応える。
クルスははやる気持ちを堪えつつ、飛竜の背中の鱗を強く押し込む。
加速の意味を示す動作を受け、飛竜は翼で空を打つ。
更に速度が上昇し、飛竜は聖王国第二の都市、“アルビオン”へと向かってゆく。
今回の急行は誰に依頼されたわけでは無い。クルス自身の意志に基づいてである。
“再び東の魔女が復活を果たし、アルビオンを襲った”
そして今度は東の魔女へかつて時を共にした、リンカ、オーキス、ゼフィ、モーラの四人と彼女たちを指揮する冒険者が、人々を救うために戦っているらしい。
ならば手助けをしないわけには行かない。
なによりも、邪悪な魔女の災禍に苦しめられている人々を見捨てるわけには行かない。
やがて、目前にアルビオンの上空のみを覆いつくす不気味な黒雲を確認する。
そしてアルビオンの城壁に群がる無数の
(東の魔女は、タウバは滅んでいなかったのか、糞っ!!)
ロナの命を賭した行動も無駄ったのか、否か。
しかし今、そのことを考えている場合ではない。
邪悪な魔女が復活したのなら、また倒すだけ。それに、魔女が復活したのならばきっと、“奴ら”も姿を見せているはず。
「先輩っ!」
ビギナの切迫した声が響き、ほぼ同時に飛竜が悲鳴を上げる。
地上から放たれた闇魔神の熱線が、飛竜の首を跳ねたからだった。
クルスとビギナを乗せた飛竜は、死霊と闇魔神がひしめく、城壁近くへ真っ逆さまに墜落してゆく。
もはやこれまでか、と思った矢先、地面を割って無数の“蔓”が姿を表す。
蔓は死霊を、闇魔神を弾き飛ばして、落下中だったクルスとビギナを綺麗にキャッチ。
「ぱぁー!」
クルスが地面へ足を付けると、脇から新しい蔓が伸びて、そこから“ちびロナ”が元気よく開花した。
「ありがとう、ロナ助かった」
「いえいえ、間に合ってよかったでしゅ」
「しかし、まさかここまで君の根が伸びているとは……」
「がんばりましたぁ! あと数年もあれば聖王国全土へ根を張ることができましゅ! どこからでもクルスしゃんたちのバックアップができるようになりましゅ! えっへん!」
ちびロナは堂々と胸を張りながら、凄いをことをさらりと言ってのける。
やはりロナは規格外の魔物である。
「この先にリンカたちがいるんだな?」
「いえ、それが……リンカたちは既に東の魔女の塔へ向かったみたいでしゅ……」
「他の皆もか?」
「そうみたいでしゅ。どうしましゅか、クルスしゃん?」
ここにリンカ達がいないのなら、戦う必要はない。無い筈ではあるが――クルスは背中に装備した弓を手に取り、凍結状態異常が封じられた魔石を砕いて、その力を自分へ付与する。
リンカたちは居ない。しかし、アルビオンの城壁を群がっている敵を放置すればどうなるか。
力ない市民には多大な犠牲が出て、この地は悲しみに満ちてしまう。
聖王国のことはどうでも良い。だからといって、助けを求めている人々を救わないわけには行かない。
「お待たせっ、クルス!」
本島で別に依頼に当たっていた、セシリーがベラ、フェア、ゼラと共に飛竜から飛び降りてくる。
「これはなんとも惨い……」
フェアは死霊と化した人々を見渡し、辛そうにそう漏らし、
「クルス、やるのだな!?」
既に双剣を手にしたベラはやる気満々。
「リンカちゃんと一緒にサリスっちも戦ってるんすよね! みんながやらなくても、ウチは行くっすよ! サリスっちも頑張ってるんっすから、斬撃の師匠のウチも頑張らなきゃいけないっす!!」
ゼラは大剣を握り、そう言い放つ。
そんなゼラへビギナは、少し辛そうな視線を向けていた。
その意味を、今のクルスは知らなかった。
ここにかつて、東の魔女を倒した七人の英雄が、再び聖王国の地に集う。
そして一党の長であるクルスの意志は、皆の共通の意志。
「まずはここを突破し、アルビオンへ入る! 申し訳ないがロナはここで、皆のバックアップを頼む!」
「りょうかいでしゅ! 久々のの実戦……ふふ、楽しみぃ!」
ちびロナは風貌に似合わない妖艶な笑みを浮かべた。
「セシリーは巨大ラフレシアを召喚して闇魔神の対処を! ビギナはその援護を頼む!」
「わかったわ!」
「はい、頑張りますっ!」
セシリーとビギナも心強い返事を返して来る。
「そしてフェア、ベラ、ゼラと俺の四人で一気にアルビオンへ入り状況を確認する。良いな!?」
「「「「「「了解っ!!」」」」」」
戦意は十分。あとはことに当たるのみ。
しかしクルスは背中へ“強大で邪悪な気配”を感じ取り、踵を返すのと同時に迷わず矢を放つ。
矢は残念ながら、敵の鋭い手刀で叩き落とされた。
「やはり現れたか、フラン・ケン・ジルヴァーナ!」
フェアはサーベルを構えつつ、五魔刃三ノ刃魔導人形剣士フラン・ケン・ジルヴァーナを睨んだ。
「それはこちらのセリフだ! 我らの宿願だった魔神皇ライン・オルツタイラーゲ様の復活は相成った。今こそ七年前の雪辱……そして我が盟友タウバ・ローテンブルクの恨みを晴らさせていただく!」
青いビキニアーマーを装備した、五魔刃四ノ刃吸血騎トリア・ベルンカステルがそう叫ぶ。
「何度現れようとも、お前たちは倒す! すべて倒す! 魔神皇もだ!――アタック!」
クルスの指示が飛び、彼の愛すべき仲間たちは突撃を開始する。
ここにクルスたち影の英雄たちと魔神皇精鋭との熾烈な争いの火蓋が切って落とされたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます